|
2007年9月28日
ドゥカティーのケーシー・ストーナーが年間タイトルを決めた日本GPの翌日から2日間の日程で開催されたMotoGPもてぎ合同テストには、日本メーカーの各ワークスチームは早々と来年に気持ちを切り替え、ツインリンクもてぎに持ち込んだ2008年型パーツ類のテストを実施し、34年ぶりにイタリアのメーカーに奪われた年間タイトルの来期中の奪還に向けての新たな戦闘準備を開始している。
■来シーズンに向けて2008年型パーツを試す各チーム
9月24日と25日に栃木県のツインリンクもてぎで行われた2日間のメーカー合同テストには、レプソル・ホンダ、フィアット・ヤマハ、リズラ・スズキ、カワサキ・レーシング・チームという日本の4大ワークスの全チームが参加しており、ヤマハとカワサキは初日のみ、ホンダとスズキは2日間の日程で、今シーズンの残り3戦に向けてのタイヤテストや、来期の2008年型パーツを組み合わせたプロトタイプマシンなどのテストを実施した。
ここでは、今回のもてぎ合同テストの内容の一部を公式発表しているホンダとヤマハを中心に、各作業内容とライダーのコメントなどを紹介する。
■初日、ドゥカティーを除く日本メーカーの全ワークス・チームが参加
日本GPのレース翌日となるテスト1日目の9月24日の月曜日、この日は前日に2007年のライダーズタイトルを決めたドゥカティー・マルボロを除く全ワークス勢、すなわち日本の4大メーカーの全ファクトリーチームが勢揃いしている。
■レギュラー・ライダーは4名、ペドロサは怪我のため帰国
1日目のレギュラー・ライダーの参加者は、ダニ・ペドロサがレース中の怪我の検査のためにこの日の午前中にはスペインに向けて飛び立った事からレプソル・ホンダはニッキー・ヘイデンの1名のみ。フィアット・ヤマハはバレンティーノ・ロッシとコーリン・エドワーズの2名が揃って参加した。
ちなみにダニ・ペドロサはこの日のバルセロナでのレントゲン検査の結果、心配された左足の親指付近の怪我は、関節に炎症はあるものの骨折はどこにも見つかっておらず、次戦のフィリップアイランドには問題なく出場できる見込みだ。
リズラ・スズキは、来期にカワサキへの移籍が決定しているジョン・ホプキンスは不参加のため、レギュラー・ライダーはクリス・バーミューレンのみ。カワサキ・レーシング・チームからは1名もレギュラー・ライダーの参加はなかった。
■テスト・ライダーは日本人4名
上記4名のレギュラー・ライダーの他にも各チームからは開発ライダーが参加しており、ホンダからは岡田忠之選手の1名、スズキからは日本GPにスポット参戦した秋吉耕佑選手と2戦後のマレーシアGPへのスポット参戦が予定されている青木宣篤選手の2名、カワサキからは今回約5年ぶりとなる日本GPを果たしたばかりの柳川明選手の1名という、合計4人の日本人ライダーが走行している。
■初日の非公式タイム
あいにくの曇り空となり、路面温度はレースウイーク初日の2日間と比較して15度近く低い30度前後となった合同テスト1日目のこの日は、途中で僅かな小雨はあったものの、路面にはほとんど影響なく、終日ドライ路面が保たれている。
以下に、もてぎ合同テスト1日目の各ライダーの走行結果を自己ベスト順に示す。
1) クリス・バーミューレン AUS リズラ・スズキ・MotoGP GSV-R 1分47秒894(-周)
2) コーリン・エドワーズ USA フィアット・ヤマハ・チーム YZR-M1 1分47秒947(-周)
3) ニッキー・ヘイデン USA レプソル・ホンダ・チーム RC212V 1分48秒065(86周)
4) バレンティーノ・ロッシ ITA フィアット・ヤマハ・チーム YZR-M1 1分48秒213(-周)
5) 秋吉耕佑 JPN リズラ・スズキ・MotoGP GSV-R 1分49秒090(-周)
6) 柳川明 JPN カワサキ・レーシング・チーム ZX-RR 1分50秒229(-周)
7) 岡田忠之 JPN HRC RC212V 1分50秒641(-周)
8) 青木宣篤 JPN スズキ・MotoGP GSV-R 1分50秒675(-周)
■初日トップタイムのバーミューレンは現行マシン
今回スズキとカワサキからのテスト内容に関する公式発表はなかったが、イギリスのロードレース誌であるMCN(www.motorcyclenews.com)によれば、スズキ勢は2008年型のプロトタイプマシンを今回は持ち込んでいるが、このプロトタイプによるテスト作業は青木宣篤選手が行っており、この日の最速タイムを記録したクリス・バーミューレンは現行マシンを使ったブリヂストンのタイヤテストにのみ集中していた様子だ。
■ヤマハ・ワークスは2008年に向けて気持ちを一新
レースウイーク中の2日目には、もてぎでのドゥカティーとケーシー・ストーナーのタイトル決定阻止に自信を示していたフィアット・ヤマハとバレンティーノ・ロッシだが、路面状況がウェット-ドライとなりフラッグ・トゥー・フラッグのルールが適用される難しい展開となった決勝レースでは、マシンを交換した後のフロントタイヤの違和感から順位は13位に終わり、6位で完走したストーナーにライダーズ・タイトルを奪われる結果となっている。
ロッシのチームメイトのコーリン・エドワーズも、ロッシと同様に交換後のマシンのフロントタイヤの不調に苦しみ、ロッシの1つ後ろの14位で決勝を終えるなど、今回は2007年シーズンのヤマハの不運を象徴するようなレース翌日の合同テストとなったが、すでにロッシやヤマハのスタッフは気持ちを来期に向けて切り替えている様子だ。
■ロッシは2種類の新型シャシーをテスト
この日、2名のライダーがミシュランの新型タイヤを揃って試す中、ヤマハワークスはロッシの2台のマシンを使用して2種類の2008年型プロトタイプシャシーの開発の方向性を探っており、少なくとも1つのシャシーについては現行マシンよりも高い性能である事が確認できたという。
■落ち着きを取り戻したミシュランとの関係
また、前日のレース後のヤマハ・ワークスの公式リリースがミシュランのフロントタイヤを酷評した事に対し、ミシュラン側の「マックス・ビアッジでもそこまでは言わない」という抗議のコメントをイタリアのロードレースサイトであるGPONEが取り上げるなど、一部でこの問題は物議を醸し出したが、今回のテスト後のコメントとしてロッシは「装着していたカットスリックが水に濡れて急激に温度が冷えた事が原因だった」と弁明しており、最終的にはミシュラン側と同様の見解に落ち着いている。
■バージェス「ロッシはピットに戻るべきじゃなかった」
なおGPONEは9月24日の同記事の中でロッシのチーフメカニックであるジェリー・バージェスのコメントを紹介しており、この記事によれば「フラッグ・トゥー・フラッグのルールは好きじゃないけど、ロッシはタイヤが温まるまではピットに戻らずにそのまま走り続けるべきでしたね。まあ、後から口で言うのは簡単ですが。」と述べたという。
■シャシーは新型、エンジンは従来型
この日の合同テストの中でロッシは黒カーボン仕様の外観のマシンに2種類の2008年型シャシーをテストしているが、この新型シャシーの挙動の違いを純粋に探る事を目的に、エンジンは日本GPのレースで使用した現行タイプを搭載していた事を明かしている。
ちなみにMCNは9月23日の記事の中で、日本GPのレースウイーク初日に白煙を吹いて停止したロッシのマシンのエンジンはミサノのレース中に白煙を吹いたものと同じニューマチックバルブを搭載した新型エンジンだったが、信頼性に疑問を持ったロッシが、レースウイーク2日目以降は金属スプリングを搭載した従来のバルブ機構を持つエンジンに戻す予定だと語っていた事を報じている。
■ロッシ「今後はエンジンの開発が重要になる」
もてぎでの1日のテストを終え、ドライでのレースウイーク中のレースタイヤにおける自己ベストよりも0.73秒遅い1分48秒213をこの日に記録したロッシは、新型シャシーの1つとミシュランのフロントタイヤに好感触を得る事ができたとコメントした。
「今日は来期に向けてのプロトタイプ第1号の初テストを行いましたが、まだ完全に全てが新型という訳ではありません。エンジンは昨日のレースで使ったのと同じものですからね。」とロッシ。
「ただ、シャシーについては2種類のものを試しました。これに昨日と同じエンジンと組み合わせたのは、シャシーの改善個所を正しく判断するためです。」
「1つのシャシーは剛性が高く、それで走ったときには若干振動が発生しましたが、もう一方の中間的な硬さの方で走った時にはとてもいい感触が得られました。もちろんまだこれは第1段階のテストに過ぎませんが、それを考慮に入れれば非常にいいテストができたと思っています。」
「今後は来期のエンジン開発に向けて取り組む必要があります。バレンシアの最終戦の後でも再びシャシーのテストを行いますが、その時には今とは異なるエンジンも試しますので、今からそれに乗るのが楽しみですね。」
「今日はその他にもミシュランが持ち込んだ新しい素材のいくつかをテストしましたが、特にフロントタイヤの性能が何点か良くなっているので、好感触を得る事ができています。」
「また結果として、昨日のフロントタイヤの問題を理解する事もできました。あの問題はどうやら温度の影響によるもので、ピットレーンでマシンを交換してからコースに復帰した直後はまだ路面が濡れていたために、フロントタイヤの温度が急激に下がった事が原因のようです。だからコーリンも自分も揃って同じ問題を抱えてしまい、コースに戻ったばかりの数周回はうまく走る事ができなかったんです。」
「次戦はオーストラリアですが、あそこではいい戦いができる自信がありますし、年間シーズンの残りを可能な限りいい形で終える事ができると思います。」
■エドワーズ「フロントタイヤに満足、次戦が楽しみ」
今回は現行マシンのままミシュランタイヤのテストに集中し、レースウイーク中のレースタイヤにおけるドライでの自己ベストを0.285秒上回る1分47秒947をこの日に記録したコーリン・エドワーズは、今回のテストに持ち込まれたフロントタイヤには非常に満足できたとコメントしており、SBK時代から得意とする次戦のオーストラリアに期待を示している。
「昨日は色々ありましたが、今日はすごくいい1日でした。今日試した新しいフロントタイヤには本当に満足しましたし、同時に試した数種類のリアも気に入ってます。」とエドワーズ。
「ミシュランは新しいいい素材をここには何種類か持ち込んでくれましたから、残りの3戦でそれらを期待を持って試す事ができそうです。今回はタイヤのテストにのみ集中し、バイクには一切手を加えていません。」
「試したタイヤはどれもすごく好調だったので、残りのレースに向けての自信が以前よりも深まりました。次はオーストラリアですが、あそこでヤマハのマシンは常に調子が良かったので、また自分の好きなサーキットで走れるのが楽しみです。いい結果を狙いたいですね。」
■ブリビオ監督「残り3戦でいいレースを」
フィアット・ヤマハのチーム監督であるダビデ・ブリビオは、今回2つ試した新型シャシーのうちの一方は、今後の2008年型マシンに採用する候補の1つになる可能性があると述べている。
「今日は2008年型バイクの開発の方向性をエンジニアが見極める事を目的として、2種類の異なるシャシーを試しました。」とブリビオ監督。
「2種類のうちの1つは現行のマシンよりも調子がいいようですので、将来的に採用するものの候補の1つに入るかもしれません。いずれにしても、今日は多くの有益な情報をエンジニアたちに提供する事ができたと思います。」
「また、バレンティーノとコーリンの両方がミシュランタイヤに関するテスト作業を行いましたが、この分野でも興味深い重要なデータをパートナー(ミシュラン)に提供する事ができました。色々な新しい素材も試しましたが、今シーズンの残り3戦に向けて役立ちそうな面白い結果も得られています。」
「これでフィリップアイランドに向けての準備は万全に整いましたから、昨日のレースの結果を忘れて、またいい戦いができる筈です。」
■レプソル・ホンダ、1日目は現行マシンでのタイヤテスト
ダニ・ペドロサがレース中の怪我のために今回のテストをキャンセルした事から、レプソル・ホンダのレギュラー・ライダーはニッキー・ヘイデンの1名のみが走行している。
2日間の日程で今回のテストに参加しているレプソル・ホンダチームだが、初日のヘイデンは2007年型現行マシンのサスペンションまわりに新型パーツを試しながら、ミシュランから提供された新型の高性能タイヤを試したとしている。
なお、テスト1日目の路面温度はレースウイーク中のドライでの走行時よりも15度近く低い事もあり、ヘイデンのこの日のタイムはフリー・プラクティス中の自己ベストよりも0.468秒遅い1分48秒065だった。
■ヘイデン「今期はタイヤを無視できない」
この日はミシュランの新型タイヤのテストに殆どの時間を費やしたというニッキー・ヘイデンは、レースの序盤にもっとタイヤの性能を発揮できるようなセッティングの改善策を探ったとしている。
「昨日を思えば、もし状況さえ違っていればもっと高い結果が望めたと思っています。ですから、今の自分たちにやれるのは仕事に戻って頑張る事だけです。」とヘイデン。
「午前中はマシンに少し調整を加えて、HRCの改良パーツをいくつかテストしました。同時にミシュランタイヤのテストも何本か行い、グリップの改善ならびにレース序盤の周回でもっと速く走れるような性能の改善に取り組んでいます。」
「今は非常にタイヤが重要な役割を占めますから、1日目はタイヤのテストに殆どの時間を費やす事になりました。」
「今にも雨が降り出しそうだった事を思えば今日の天気はラッキーでしたね。まあ、ビーチに遊びに行きたいような天候だったとは言えませんし、バイザーが曇る時も一時的にはありましたが、作業はすごくはかどりました。」
■2日目はホンダとスズキの2チームのみが参加
合同テスト2日目の9月25日の火曜日、この日はレプソル・ホンダとリズラ・スズキの2チームのみが初日と同じメンバーでテストを行っており、ヤマハとカワサキは1日目のみで予定のテストを終えている。
■2日目の非公式タイム
以下に、もてぎ合同テスト2日目の各ライダーの走行結果を自己ベスト順に示す。
1) ニッキー・ヘイデン USA レプソル・ホンダ・チーム RC212V 1分47秒277(89周)
2) 秋吉耕佑 JPN リズラ・スズキ・MotoGP GSV-R 1分48秒040(-周)
3) クリス・バーミューレン AUS リズラ・スズキ・MotoGP GSV-R 1分48秒141(-周)
4) 岡田忠之 JPN HRC RC212V 1分49秒062(-周)
5) 青木宣篤 JPN スズキ・MotoGP GSV-R 1分50秒211(-周)
■レプソル・ホンダは新型フェアリングとクラッチをテスト
合同テスト2日目、レプソル・ホンダのニッキー・ヘイデンは、2008年シーズンに向けて開発中のフェアリングとクラッチまわりの新型部品を試しており、今後のマシン開発に向けてホンダに有益なデータが提供できた事を満足している。
初日に引き続きミシュランのタイヤテストも継続して行っているヘイデンは、この日はフロントタイヤに気に入るものが見つかり、タイムはレースウイーク中のレースタイヤにおけるドライでの自己ベストを0.32秒上回る1分47秒277を記録した。
■ヘイデン「ほとんど貸し切り状態」
2日目はホンダとスズキと以外にはテストを実施しなかった事から、この日のツインリンクもてぎはほとんど貸し切り状態となり作業がはかどったとするニッキー・ヘイデンは、次戦も不安定な天候が予想されるオーストラリアGPに向けてのタイヤの準備を進めながら、予定していた全てのテスト完了する事ができたとコメントした。
「そうですね、今日はもてぎを貸し切りに近い状態で使えました。2日目は他のライダーがあまりここにいませんでしたからね。」とヘイデン。
「今日は多くの作業を行いました。新しいフェアリングもテストしましたし、いくつかクラッチの部品も試しています。これらは今シーズンに使う予定のものではなく、実際に使うのは多分来期になるでしょうね。」
「色々と好調でした。1分47秒台を次々と連続して記録できるようになり、レースウイーク中よりもタイムを縮める事ができています。また、ミシュランタイヤのテストも行いましたが、自分に合ういいフロントタイヤを見つける事ができました。」
「タイヤルールの関係上、確保しておいたタイヤの中から何か全く新しいものを選択する時には、いつもどうしても少しギャンブルみたいな感じになりますが、特にフィリップアイランドは常に天候が不安定ですから、どんな状況にも対応できるように備えておく必要がありそうです。」
「いずれにしても、ここまでにできる全ての改善はやり遂げたと思いますから、今回もまた一生懸命頑張ってくれたチームに深く感謝しています。」
「ここまでの数週間はかなりの忙しさでしたから、これからしばらくはリラックスして過ごし、フィリップ・アイランドの金曜午前のセッションに備えたいと思います。フィリップも他のライバルたちを打ち負かせるチャンスのあるサーキットの1つですしね。」
「勝てるチャンスはもう3回ありますから、全力で挑みますよ。」
|
|