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2007年3月14日
800ccマシンによる初の決勝戦となる2007年MotoGPの開幕レースが、カタールのドーハ近郊にある砂漠地帯、ロサイル国際サーキットで行われた。
■開幕レース日和のカタール
この日の気温は29度、路面温度は45度、湿度は11%となり、過去2日間の午後のフリー・プラクティスと予選開催時や、2月のカタールでの冬季テスト時と大きく変わらない走行条件に恵まれ、各チームとライダーたちにとっては有り難いレース日和となっている。
■レースウイークを通してマシンの仕上がりの高さを見せつけたヤマハ
今回の開幕レースウイークを通して最も好調なチームは、プレシーズン中からマシンの仕上がりの高さを誇り、他をよせつけない安定して高い走行ペースを維持するフィアット・ヤマハだった。
フィアット・ヤマハの2名のライダー、昨年までの990cc時代に5連覇を達成したバレンティーノ・ロッシと、元SBKチャンピオンのコーリン・エドワーズは、初日と2日目のフリー・プラクティスを通して、他のメーカーやチームを無視するかのように、タイムシート上のトップの座を争っている。
■ストーナーとホプキンスの仕上がりも順調
過去2日間、ヤマハ・ワークスの2名に続いて好調だったのは、ドゥカティーに移籍して1年目であり、初めて使用するブリヂストン・タイヤと自分のスタイルとの相性の高さを喜ぶケーシー・ストーナーと、プレシーズン中に絶好調な走りを見せていたにもかかわらず、2月のカタールでのIRTAテストで転倒を喫し、右足つま先と右手首を負傷したリズラ・スズキのジョン・ホプキンスだ。
■開幕レースウイーク中、若干目立たなかったホンダ勢
これらのヤマハ、ドゥカティー、スズキのトップ4名に続いて好調だったのは、ホンダの新型マシンのトップスピードに不足感を年始から訴え続けているホンダLCRのカルロス・チェカと、コンパクトになったホンダのマシンに好感触を示すレプソル・ホンダのダニ・ペドロサという2名のホンダ勢であり、RC212Vを駆るライダーの中では比較的に好調なタイムを記録し続けていた。
■スターティング・グリッド
その後の予選はロッシとストーナーの戦いとなり、この結果、0.005秒差でポールポジションを獲得したのはバレンティーノ・ロッシ、2番グリッドには昨年度のカタールでのポールシッターであるストーナー、1列目最後の3番グリッドにはコーリン・エドワーズが並ぶ事となり、ヤマハ・ワークス勢が今年は予選でもマシンが好調な事を示すと同時に、テスト期間を通してほとんど予選タイヤを履かなかったストーナーが、いきなりロッシのポールポジションを脅かすという予想外の展開も予選終盤には見られた。
2列目4番グリッドには、今年からチームがタイヤサプライヤーとして選択したブリヂストンに大きな自信を示すグレッシーニ・ホンダのトニ・エリアス、5番グリッドにはレプソル・ホンダのダニ・ペドロサというホンダの新世代2名が並び、その隣の6番グリッドには、手首の痛みがレースウイークを通して激しいリズラ・スズキのジョン・ホプキンスがつけている。
■IRTAテスト時の不調をそのまま持ち込んだヘイデン
昨年度MotoGP最高峰クラス・チャンピオンのニッキー・ヘイデンは、2月のカタールでのテスト時と同じく、フロントまわりの感触が得られずにセッティングの方向性をつかみきれないまま、開幕レースをドゥカティーのロリス・カピロッシと、今年は実質のカワサキのエースとなり好調な走りをプレシーズンを通して見せたランディー・ド・ピュニエが並ぶ3列目最後の9番グリッドからスタートする事になった。
名門ダンティーン・チームからの復活への期待を双肩に担うアレックス・バロスは、ワークス・ドゥカティーと同じデスモセディチGP7にブリヂストンタイヤを装着して5列目15番グリッドからMotoGPへの復帰戦を開始。
ホンダに移籍してから初のレースに挑むコニカミノルタ・ホンダの中野真矢選手は4列目11番グリッド、ヤマハに移籍してダンロップタイヤの開発を開始したばかりの玉田誠選手は7列目19番グリッド。
■開幕レース開始、800cc時代のオープニング
排気量が昨年から約20%縮小された800ccマシンが、ついに昨年からの長期に渡るテスト期間を終えて、予選終盤に転倒して強打した足の痛みのためにレース出場を断念したジェレミー・マクウイリアムスのイルモアの1台を除き、スターティング・グリッドに20台並んでシグナルが消えるのを待っている。ファクトリー6チームとサテライト6チームの12チームが、9ヶ月の期間に15ヶ国で行われる全18戦の開幕レース開始に向けてエンジンをまわす。
800cc化された排気量だけではなく、2007年から施行された燃料タンクの1リットル容量減、タイヤ持ち込み本数の制限などを受け、各メーカーの最終調整したエンジンの加速性能やトップスピード、ならびにマシンの足回りセッティングやハンドリング性能などが、『実戦』に向けてのその仕上がりで優劣を争うのはこれが初めての事となる。
■ホールショットを奪ったのはロッシ
シグナルが消え、ロサイルの誇る高速ストレートを全ライダーが一斉に1コーナーに向かって加速を開始した。1列目のフィアット・ヤマハのコーリン・エドワーズが砂の影響で加速に伸び悩む中、同様に砂に乗り上げてスタートに失敗した5列目プラマック・ダンティーンのアレックス・バロスが、後方6列目からスタートして過激な加速を見せるチームメイトのアレックス・ホフマンに交わされて最後尾付近まで下がっていく。
開幕レースでホールショットを奪ったのはポールポジションからスタートしたフィアット・ヤマハのバレンティーノ・ロッシ。ロッシに続いて1コーナーに2番手で飛び込んだのはドゥカティー・ワークスの真紅のマシンを駆るケーシー・ストーナー。
■ストーナーの後ろには3番手のエリアス
その後ろには、2列目からの好スタートを決めたグレッシーニ・ホンダのトニ・エリアスが3番手、レプソル・ホンダのダニ・ペドロサが4番手、スタート時の失敗にいらつくエドワーズが5番手に続き、6番手にはグレッシーニ・ホンダのマルコ・メランドリ、7番手にリズラ・スズキのジョン・ホプキンス、8番手にレプソル・ホンダのニッキー・ヘイデン、9番手にドゥカティーのロリス・カピロッシが団子状態と化す1コーナーから次々と抜け出ていく。
■ホフマンとバーミューレンが接触、揃って順位を後退
ストレートでドゥカティーのトップスピードを見せつけて1コーナーに10番手のポジションで飛び込んだホフマンは、内側につけるリズラ・スズキのクリス・バーミューレンの前輪に右足を接触して大きくラインを外れる。好スタートもむなしくホフマンはチームメイトのバロスが下がった19番手付近にまで順位を後退し、同様にバーミューレンも16番手まで順位を落とした。
■大きくラインを外せないカタールの路面状況
例年のカタール戦と同じく、正しいライン以外には砂の溜まったコース上で激しい追い抜きをするライダーは序盤には存在せず、全ライダーが規律正しく均等な間隔で長い1列を形成し、オープニングラップはゆるやかに流れていく。
■爆発的な加速でまわりを圧倒したドゥカティーとストーナー
順位変動のない静かなレースが続くかに見えた1ラップ目の最終コーナー、2番手から先頭のロッシの走りを観察していたストーナーがアクセルを開ける。赤いマシンは、ロッシのみならず見ている全ての観衆の度肝を抜くストレート加速を見せ、コントロールライン上ではロッシの青と白に色塗られたフィアット・ヤマハのYZR-M1を悠々と追い抜き、1ラップ目の公式タイムシートの先頭には実質的に大半をリードしたバレンティーノ・ロッシではなく、ケーシー・ストーナーとドゥカティー・デスモセディチGP7の名が刻まれた。
■ロッシの追い抜きに苦戦するペドロサ
2ラップ目の1コーナーに先頭で飛び込んだのは、一瞬にして後続との差を広げたストーナー、それに続いて1コーナーを奪おうとしたのは、ロッシのマシンよりも激しく加速してストレートで2番手に出たダニ・ペドロサだった。
3番手につけるロッシは前に出たペドロサに動じる様子もなく、ペドロサがブレーキレバーを握った後も全くブレーキをかけずにスムーズに1コーナーの進入を2番手の位置から悠然と奪う。ペドロサはロッシの真後ろの3番手につけ、エリアスは4番手に。ストレートで5番手に浮上したメランドリはチームメイトのエリアスのポジションを奪うべく粘着加速。
■例年通り序盤は長い1列のラインに
1コーナーを先頭で抜けたストーナーに続き、2番手にロッシ、3番手にペドロサ、4番手にエリアス、5番手にメランドリ、6番手にホプキンス、7番手にエドワーズ、8番手にカピロッシ、9番手にヘイデン、10番手にコニカミノルタ・ホンダの中野真矢選手、11番手にカワサキのランディー・ド・ピュニエ、12番手にホンダLCRのカルロス・チェカ、13番手にクリス・バーミューレン、14番手にダンロップTECH3ヤマハのシルバン・ギュントーリ、15番手に同じくTECH3の玉田誠選手、16番手にカワサキのオリビエ・ジャック、17番手にアレックス・バロス、18番手にチーム・ロバーツのケニー・ロバーツ・ジュニア、19番手にアレックス・ホフマン、20番手にイルモアのアンドリュー・ピットが、均等な1列のラインを形成しながら2コーナーへ次々と向かう。
■雰囲気の良いチームが目立つ2007年シーズン
メランドリはエリアスのインをついて4番手に浮上するが、すぐにエリアスは冬季テスト最後に見つけた自慢のタイヤでメランドリの前を奪い返す。今年はエドワースとロッシ、ストーナーとカピロッシ、ホプキンスとバーミューレンなど、チームメイト間が親しく雰囲気の良さが目立つシーズンとなっているが、グレッシーニの青い2台のマシンは容赦なくバトルを繰り広げていく。
■ペドロサに1コーナーを決して譲らないロッシ
3ラップ目の1コーナー、ストーナーがトップを走り続ける中、3番手のペドロサは再びロッシの前を奪おうとするが、コーナーの入り口に差し掛かって必ず2番手に位置するのはロッシだ。ペドロサはいち早くマシンを倒し込もうにも、ロッシがその右斜め前を滑らかに奪うので1テンポ遅れてからのコーナリング作業となる。ペドロサはそのまま大きく膨らみ、ロッシとの差を少し開けられてから2コーナーを目指す。
■次々と後方に飲み込まれるエリアス
メランドリはついにエリアスの前を堂々と奪いペドロサの後方4番手につけ、自慢のタイヤが早くから機能しなくなってきたエリアスはホプキンスにも前を奪われ6番手に後退した。その背後には既にカピロッシとエドワーズの渋い輝きが迫っている。
ロッシはファーステストを連発しながら低速左コーナーでは必ずストーナーの真後ろにつけるが、その後に続くコース終盤の高速右コーナーでは再び差を広げられ、再び最終コーナーで追い詰めても、その直後のロングストレートではなすすべがない。
■メインストレート、気持ちよさそうに加速するストーナー
4ラップ目の突入、ストーナーはメインストレートを先頭の位置から気持ち良さそうに加速し、1コーナーまでにロッシとの差を大きく開く。続いてロッシ、ペドロサ、メランドリ、ホプキンスがコントロールラインの上を通り抜け、エリアスはカピロッシに交わされて7番手のポジションから1コーナーに向かう。エリアスの背後には8番手のエドワーズが迫り寄る。
最終区間前の低速左コーナー、ついにロッシはストーナーのインを奪い一瞬前に出たが、次の切り返しでオーバーラン気味となりストーナーは悠々とロッシのインをすり抜ける。最終コーナーに先頭で向かったのは今回もストーナーだ。
■低速カーブでストーナーへの接近を繰り返すロッシ
5ラップ目、ストーナーがロッシとの差をメインストレートで大きく稼いで1コーナーに向かい、その後方でペドロサがロッシの前に出るが1コーナーを先に奪うのはロッシというパターンを皆が見慣れた頃に、ロッシのストーナーへの低速コーナーでの追撃が激しさを増してくる。4ラップ目には失敗した左低速コーナーでロッシはストーナーのインを奪うと、ついにコース終盤の高速セクションを2番手にストーナーを従えてトップのまま走り抜けた。
最初にホームストレートに戻ってきたのはロッシだ。
■コントロールライン上のトップは常にストーナー
6ラップ目のメインストレート、ロッシの最終区間でのテクニックを冷たくあしらうかの如く、ストーナーはコントロールライン上を再びトップで駆け抜けた。先頭のストーナーに続き、2番手のロッシ、3番手のペドロサ、4番手のメランドリ、5番手のホプキンスがトップから0.5秒圏内の位置から1コーナーを通過していく。ホプキンスとメランドリが激しく4番手を奪い合う。
真紅のドゥカティーを、フィアットカラーのヤマハ、レプソルカラーのホンダ、目にも眩しいリズラブルーのスズキが追いかける。
■最終コーナーではトップに立つロッシだが・・・
ここでもロッシは低速左コーナーでストーナーを交わして先頭に踊り出るが、ストーナーはロッシの様子を見るかのように真後ろを走行し、その背後にはペドロサが接近する。元王者を2年目の若手2台が追い、そのさらに後ろには右手首の痛みを忘れたジョン・ホプキンスが、初の表彰台となる3位圏内から離されずに加速を続ける。最終コーナーに2番手のストーナーを従えてトップで飛び込むロッシ。
7ラップ目のストレート、再びコントロールラインを余裕で最初に通り過ぎたのはストーナー、2番手にロッシ、3番手にペドロサ、4番手にホプキンス、5番手には後方から追い上げてきたカピロッシと僅差のメランドリが続き、1コーナーに向かう。
■カピロッシが無念の転倒
ロッシはコーナーでマシンを傾けるたびにストーナーの背後に密着。それを脱出加速でストーナーが追い払い再びメインストレートに向かう時、5番手を走行していたチームメイトのカピロッシは最終コーナーでフロントを滑らせ転倒、そのまま無念のリタイアとなった。
8ラップ目の1コーナーでもペドロサがロッシから前を奪えず、3番手で2コーナーに向かった頃、先頭の4台は後続の長い1列から抜け出し、ストーナーから1秒圏内をロッシ、ペドロサ、ホプキンスの3台が走行し、その4秒後方に5番手に浮上したエドワーズと、ペースの上がらなくなった6番手のメランドリが続いた。序盤に好調だったエリアスはメランドリの1.5秒後方の7番手につけている。
■落ち込むド・ピュニエ
旧チームメイトの中野選手を交わした後、トップスピードのハンデを感じながらも果敢に8番手のヘイデンとのバトルを繰り広げたカワサキのド・ピュニエはミスをして順位を2つ落とし、さらにその後はコーナーのブレーキングでフロントを滑らして、開幕レースを2年連続でリタイアした。「また開幕レースで転倒して気分は最悪。マシンは悪くない。」とド・ピュニエ。
■ヘイデンに絡むライダーには次々と災難が
9ラップ目には減量を続けるカルロス・チェカもヘイデンの背後に迫り、ついにワークス・ホンダのマシンを交わして8番手に浮上したが、やはりその直後にマシンを倒し込みすぎて、フロントを失い火花を散らしながら戦列を離れた。「開幕レースで滑るなんて、頑張ってくれたチームの皆に申し訳なくて仕方ありません。」とチェカ。
エリアスから3秒後方の8番手を走行するヘイデンの後ろには、中野選手を交わした9番手のクリス・バーミューレンが迫り、それを背後から10番手の中野選手が観察している。
■ストーナー攻略を思案するロッシ
10ラップ目に入ると、ストレートでは相変わらずストーナーがロッシから大差を稼ぐものの、コース中盤ではストーナー、ロッシ、ペドロサの3台が僅かな差で1列に並んだ。前方の3台を無理をせず追いかける4番手のホプキンス。
ロッシはレース序盤ほどにはコーナーでストーナーを追い詰める事はせず、一定の間隔を保ちながらストーナーの走りを観察し、レース終盤に向けての戦略を練っているかのような仕草を見せ始めた。
■ペドロサのミスを逃さないホプキンス
12ラップ目の終盤、膠着状態が続く先頭集団に少し動きが見える。ペドロサは最終コーナーでミスをして大回りを喫し、2番手のロッシとの差を少し開けてしまう。この瞬間を見逃さなかったリズラブルーのホプキンスは、ペドロサのインを抜けるとそのままメインストレートで激しい加速を展開。慌てたペドロサはホプキンスをストレート終盤までに抜き返すが、それでも1コーナーを構わず強引にペドロサから奪ったのはホプキンスだ。この瞬間、先頭はストーナー、2番手はロッシ、3番手には表彰台圏内に入ったホプキンス、4番手にはその背後につけたペドロサという順位に。
すぐにホプキンスはペドロサに交わされ再び4番手に後退するが、追撃の手は全く緩める様子がない。
■先頭集団は2台に
13ラップ目、ホプキンスとのバトルで先頭の2台のスリップにつけなくなったペドロサは先頭のハイペースのバトルにはついて行けなくなり、先頭集団はストーナーとロッシの2台のみに絞られた。猛加速で逃げるストーナーに追いすがるロッシ。
■旧スポンサーに襲いかかるモンスター
ロッシの1.5秒後方を走行するレッドブルの商標をヘルメットの一部に持つペドロサには、モンスター・エナジーの商標をヘルメットいっぱいにペイントしたホプキンスが襲いかかる。モンスター・エナジーは、通常のドリンクの3倍の栄養価を誇る、自らを邪悪なドリンクと称するカリフォルニアのスポーツ飲料だ。
■後方から中間グループに忍び寄るバロス
15ラップ目、順位は先頭からストーナー、2番手にロッシ、その3秒後方の3番手にはペドロサ、背後の4番手にはホプキンス、さらに4.5秒後方には5番手のエドワーズ。エドワーズの2秒後方には6番手のメランドリ、その5秒後方の7番手にはヘイデンを交わしたクリス・バーミューレン、8番手にはエリアス、9番手にはヘイデン、10番手には中野選手。
中野選手の2秒後方には、最後尾付近からの怒濤の追い上げを見せてきたアレックス・バロスが近づいている。
■後退を続けるエリアス
16ラップ目、ロッシが先頭のストーナーの真後ろを走行し続けている頃、バーミューレンとのバトルを繰り返すヘイデンは前方から後退してきたエリアスを交わす。エリアスはこの時点で9番手に後退。「レース用のタイヤをもう一度検討したい」とエリアス。
ロッシの追撃を許しながらも、17ラップ目に入るとストーナーはファーステストを記録し、メインストレートではロッシを15回目の引き離しにかかる。再びロッシは大きく1コーナー進入までにストーナーから遠ざかって行く。
■グラベルに突入し、さらにペースを落とすエリアス
ヘイデンとバーミューレンに続き、中野選手にも交わされたエリアスは、その直後にコーナーを曲がりきれずにグラベルに突入。転倒は免れたものの、ホフマンにも交わされ、この時点で12番手に順位を下げたエリアスは、その後もペースを落とし続ける。
バロスは中野選手を交わして9番手に。
■マシンと意見が合わなかったアンドリュー・ピット
18ラップ目、ロッシはコース中盤の低速区間ではストーナーの0.3秒後方につけるが、高速区間に入った途端にストーナーの逃亡を何度も許している。トップ2台が同じドラマを何度も繰り返している頃、レースウイーク2日目からマシンの不調を訴えていたイルモアのアンドリュー・ピットは、原因不明のメカニカル・トラブルによりリタイアした。「マシンの調子が悪かったので自分は完走だけを狙っていたのに、バイクの意見は違ったらしい。」と、ピットはその悔しさを顕わにしている。
■ついに動くロッシ
メランドリがエドワーズを交わして5番手、バロスがヘイデンを交わして8番手に浮上した19ラップ目、コントロールライン上ではどうしてもストーナーの前に出られずに業を煮やしたバレンティーノ・ロッシがついに動いた。低速左カーブでロッシはストーナーを交わすと、お家芸とも言えるレース終盤の渾身のアタックを見せる。通常であれば、この走りを見せられたライバルは戦意を失うのが定番だった。
■ロッシの渾身のアタックが水泡と化すメインストレート
コース最後の高速区間を渾身の走りで全てトップのまま走り抜き、最終コーナーを曲がってから20ラップ目のストレートでもさらに必死に加速を続けるロッシを、全くペースが落ちないどころか、終盤に向かってさらにラップタイムを上げるストーナーが涼しげに抜き去る。またもコントロールラインを最初に通過したのはストーナーの方だ。ロッシはどうしても先頭でチェッカーを受ける上で必要な距離をストーナーから奪う事ができない。
■アタック後に戦意を失ったのはロッシ
それどころか、残り3周となったこの時から、今度はストーナーがロッシを引き離す怒濤のアタックを開始する。
残り2周の21ラップ目に入り、ロッシは低速コーナーでもストーナーの背後に迫る事ができなくなった。タイヤを消耗し、ストーナーを追うのが精一杯となったロッシからは19ラップ目のような攻めの姿勢が薄れていく。
■燃えるホプキンス
ロッシの7秒後方ではペドロサの背後に忍び寄ったホプキンスが何度も表彰台圏内目がけてアタックを仕掛けようとするが、身軽なペドロサはコーナーの脱出加速でするりとホプキンスの射程距離から離れてしまう。ただ、ペドロサとしてもこの時点では、ホプキンスの襲撃を逃れるので既に精一杯の状態だったと言う。残り1周、ホプキンスは決して諦めない。
■後方ではヘイデンとバーミューレンが激しいバトルを展開
後方で熾烈な追い上げを見せたバロスはミスをしてヘイデンに前を奪い返され9番手に後退。8番手のヘイデンは前を行くクリス・バーミューレンからもポジションを取り返すべく、限界アタックを続けて最終ラップに突入。コニカミノルタ・ホンダの中野選手はレースウイーク中のラップタイム不足を痛感し、前方で繰り広げられる7番手争いを静観。
■最終ラップ、激しい走りでロッシを振り払うストーナー
最終ラップ入り口のコントロールラインを先頭からストーナー、0.6秒後方の2番手につけるロッシが通過し、さらにその7秒後から密着するホプキンスに追われながら逃げるペドロサが通過して行く。
残り1周で限界走行を見せるストーナーには、ロッシと言えども手がつけられなかった。温存していたかのようにドゥカティーパワーを全開にし、全てのコーナーをまるで昨年のカピロッシのようにマシンを暴れさせながら走るストーナーを、ロッシは後方から見守る他なかった。ストーナーとロッシの距離は徐々に開き、最終コーナーに差し掛かるまでには2.8秒の差が生まれている。
■800ccマシンでの初の勝利者はケーシー・ストーナー
堂々とコントロールラインをトップで駆け抜け、最高峰クラスでの初の優勝を800cc初年度の開幕戦で成し遂げるという栄誉を手にしたのは、ドゥカティーに移籍して1年目、最初のレースを終えたケーシー・ストーナーだ。990cc時代に5連覇を達成し、今期は開幕戦での優勝が有力視されていた元キングのバレンティーノ・ロッシはほぼ3秒遅れて2位。
■魔の手から逃げ切ったペドロサと、大健闘のホプキンス
最後までホプキンスからの追撃を逃れる事に成功したペドロサはストーナーから約8.5秒遅れでチェッカーを受け3位表彰台を獲得。また、0.5秒差で今回も表彰台を逃す事になったホプキンスだが、IRTAテストで負傷した右手首の痛みに耐えて開幕戦で4位という大健闘を見せ、今年のスズキとホプキンスの冬季テスト中の勢いが決して夢などではなかった事を世界にアピールした。
■落ち込むナンバー1
5位にはホプキンスから8秒遅れたマルコ・メランドリ、その1秒遅れの6位はコーリン・エドワーズ、さらに2秒遅れてヘイデンとバーミューレンがほぼ同時にコントロールラインを通過したが、この7位争いはクリス・バーミューレンに軍配が上がり、ディフェンディング・チャンピオンのヘイデンは開幕戦を8位という失意の結果に終えている。
9番手にはアレックス・バロス、10番手には中野真矢選手が続いた。
■失意のロバーツ・ジュニアに嬉しいニュース
完走はしたものの13番手に終わったケニー・ロバーツ・ジュニアは「今回のレースに関して言える明るい話はなにもありません。」と落胆の様子を隠しきれないが、レースの2日後の3月12日には、チームロバーツは最大の懸案事項だったスポンサー問題を解決し、今期のフル参戦の目処がやっと立ったという明るいニュースが彼には飛び込んでいる。
英国のユーロスポーツは、イギリスの自動車販売企業であるMotorpoint社が、チームロバーツの2007年度メインスポンサーとしての契約を正式に交わした事を発表しており、資金難によるチームの不利な面が次第に解決される兆しにある事を報じたようだ。
■初優勝で最高の笑顔を見せるケーシー・ストーナー
パルク・フェルメでは2位のロッシから勝利を称えられ、3位となったペドロサからも明るく話しかけられたストーナーは幸せそうな笑顔を見せ、オーストラリア国歌の流れる表彰台の真ん中では、さらに輝く笑顔を世界に披露した。
■ドゥーハン「シュワンツに似ている部分が課題」
ストーナーと同郷のオーストラリア人であり、ロッシと同じく最高峰クラス5連覇の記録を保持するミック・ドゥーハンは、オーストラリアの最大手新聞の1つであるヘラルド・サン紙のインタビューにおいて、今回のストーナーの勝利についてコメントしている。以下にその一部を引用したい。
「ケーシーがロッシと戦える速さを持つライダーなのは確かですよ。問題は安定してこの成績を維持できるかどうかでしょう。」とドゥーハン。
「去年ニッキー・ヘイデンはタイトルを勝ち取ってホンダのためにいい仕事をしたでしょう。あれはバレンティーノとヤマハが安定していなくて、ヘイデンが安定していたに過ぎない訳です。」
「ケーシーはスズキで優勝したケビン・シュワンツみたいなところがあるね。時としてすごく速いし、ただ集中力を欠いて実力を発揮できない日もある。要するに安定して勝利を重ねられるかという部分が今後の彼の課題でしょうね。今回1位でも次回に8位じゃ意味がない。ロッシはどのレースウイークでも1位か2位を必ず取ってくるからね。シーズンは全部で18戦あるから、それが重要ですよ。」
「今回の彼の戦いは素晴らしかったと思います。今後も同じ走りをできるかどうか本人も不安に思うでしょうが、それは今までに問題があったからです。今の彼はドゥカティーに愛着があるようだし、ドゥカティーもすごく良くやっています。とにかく最高のスタートが1戦目から切れた訳ですから、彼が安定した強さを維持できるように、私も今は祈っています。」
ドゥーハンはウェイン・レイニーと同じ言葉をこのインタビューの中で残している。
「遅いライダーに速く走らせるのは難しいけど、速いライダーに転ばないように教えるのは楽ですからね。」
■MotoGPクラス開幕戦、カタールグランプリ全走行結果
以下に、カタールグランプリでの最高峰クラスにおけるレースの結果を示す(各ライダーのコメントは名前をクリックして参照)。
1) ケーシー・ストーナー AUS ドゥカティ・マルボロ デスモセディチ GP7 43分02秒788(22周)
2) バレンティーノ・ロッシ ITA フィアット・ヤマハ・チーム YZR-M1 43分05秒626(22周)
3) ダニ・ペドロサ SPA レプソル・ホンダ・チーム RC212V 43分11秒318(22周)
4) ジョン・ホプキンス USA リズラ・スズキ・MotoGP GSV-R 43分11秒859(22周)
5) マルコ・メランドリ ITA ホンダ・グレッシーニ RC212V 43分20秒221(22周)
6) コーリン・エドワーズ USA フィアット・ヤマハ・チーム YZR-M1 43分21秒435(22周)
7) クリス・バーミューレン AUS リズラ・スズキ・MotoGP GSV-R 43分25秒704(22周)
8) ニッキー・ヘイデン USA レプソル・ホンダ・チーム RC212V 43分25秒845(22周)
9) アレックス・バロス BRA プラマック・ダンティーン デスモセディチ GP7 43分28秒749(22周)
10) 中野真矢 JPN コニカミノルタ・ホンダ RC212V 43分31秒244(22周)
11) アレックス・ホフマン GER プラマック・ダンティーン デスモセディチ GP7 43分37秒817(22周)
12) オリビエ・ジャック FRA カワサキ・レーシング・チーム ZX-RR 43分45秒736(22周)
13) ケニー・ロバーツJr USA チーム・ロバーツ KR212V 43分45秒765(22周)
14) トニ・エリアス SPA ホンダ・グレッシーニ RC212V 43分45秒777(22周)
15) シルバン・ギュントーリ FRA ダンロップ・ヤマハ・Tech3 YZR-M1 43分54秒427(22周)
16) 玉田誠 JPN ダンロップ・ヤマハ・Tech3 YZR-M1 44分00秒641(22周)
DNF) アンドリュー・ピット AUS イルモア・GP イルモアX3 30分31秒099(15周)
DNF) カルロス・チェカ SPA ホンダ・LCR RC212V 15分53秒958(8周)
DNF) ランディ・ド・ピュニエ FRA カワサキ・レーシング・チーム ZX-RR 13分56秒908(7周)
DNF) ロリス・カピロッシ ITA ドゥカティ・マルボロ デスモセディチ GP7 11分53秒279(6周)
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