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2007年2月8日
MotoGPクラスの2007年シーズンに向けての最後のメーカー合同テストが、マレーシアのセパンサーキットで3日目の最終日を迎えた。残るプレシーズンテストは今月中にカタールのロサイルとスペインのヘレス行われる2回のIRTAテストのみとなり、その後は3月8日の開幕を迎えるのみだ。
今年3度目となるメーカー合同テストの最終日となった2月7日、過去2日間と同様に、この日もヤマハ、カワサキ、イルモアの3ワークス、およびヤマハのサテライトチームであるTECH3の合計4チームの7名のライダーが、2月13日からカタールで行われるIRTAテストに照準を合わせて、各々にマシンの調整に取り組んでいる。
■イルモアのグラフィック・デザインが決定
今回、イルモアの広報の方から、参戦に向けてのマシンのグラフィック・デザイン第一案を頂いている。
また、今までは不明とされていたレギュラーライダーのバイクナンバーだが、上の写真によれば、アンドリュー・ピットのナンバーはSBK時代と同じ#88だ。
■セパン合同テスト(2月)、3日目の走行結果一覧
以下に、セパンでは今年2回目となるメーカー合同テスト3日目の結果を、各ライダーのタイム順に示す。この日の気温は29度、路面温度は45度と過去2日間より高めとなり、湿度は57%だった。
1) コーリン・エドワーズ USA ヤマハ・ファクトリー・レーシング YZR-M1 2分00秒248(46周)
2) バレンティーノ・ロッシ ITA ヤマハ・ファクトリー・レーシング YZR-M1 2分00秒793(43周)
3) ランディ・ド・ピュニエ FRA カワサキ・レーシング・チーム ZX-RR 2分02秒05(63周)
4) オリビエ・ジャック FRA カワサキ・レーシング・チーム ZX-RR 2分02秒58(55周)
5) 玉田誠 JPN ヤマハ・TECH3 YZR-M1 2分03秒380(35周)
6) シルバン・ギュントーリ FRA ヤマハ・TECH3 YZR-M1 2分04秒636(35周)
7) アンドリュー・ピット AUS イルモア・GP イルモアX3 2分07秒373(70周)
心配された亜熱帯気候独特の雷雨や通り雨は今回のセパンでは無縁となり、3日間を通してマシンの調整に取り組むチームやライダーたちは最適なテスト日和に恵まれている。
■セパン最速男となったエドワーズ
最終日に3日間総合のトップタイムを記録したのは、最大のライバルと言えるホンダ勢が1名もいない今回のテスト環境で、リラックスして開発に取り組んだというヤマハ・ワークスのライダー、コーリン・エドワーズだ。
今回、エドワーズはセパンでの800ccマシンにおける予選タイヤでの非公式最速ラップだったロッシの今年1月のタイムを0.68秒更新すると同時に、990cc時代のセパンにおけるポールポジションレコードをも0.35秒上回る2分0秒248の好タイムをこの日に記録している。くだけた表現をすれば、非公式タイムではあるが、今回のエドワーズよりも2輪でセパンを速く走ったライダーはこれまでこの世に存在しないという事だ。
また、総合2番手につけたのは2分0秒793を記録したエドワーズのチームメイトのバレンティーノ・ロッシであり、ロッシもこの日に1月の自己ベストタイムを上回っている。最終的に、今回の3日間はヤマハ・ワークスのロッシとエドワーズがトップと2番手を交互に入れ替える結果となり、ヤマハの新型800ccマシンの開発が順調に進み、安定した速さを手にした事をアピールしている。
■安定したド・ピュニエと、ようやくペースを上げたジャック
今回の総合タイムでヤマハに続いたのは、年初の800ccマシン本格デビューから大きなトラブルもなく、好調にタイムを刻み続けているカワサキ勢だ。ランディー・ド・ピュニエは3日間のタイムシートを通して3番手のポジションを安定してキープしており、昨年のエースライダーである中野選手が抜けた後の2007年シーズンに向けてのカワサキの意気込みを示したと言えるだろう。
また、年末からあまりタイムを伸ばす事ができていなかった3年ぶりに最高峰クラスへのレギュラー・ライダー復帰を果たすオリビエ・ジャックも、最終日には念願の2分2秒台に突入しており、開幕に向けてのマイペースな調整が、ようやく軌道に乗り始めた様子だ。この結果、ジャックは3日間の総合4番手となり、ダンロップタイヤの開発テストを中心に行っているTECH3ヤマハの玉田誠選手は総合5番手で今回のセパンを終えている。
■参加4チームの3日間のテストメニュー
ここでは、各チームの3日間のテスト内容を簡単にまとめておきたい。
ヤマハ・ワークス勢は初日にヤマハのファクトリーから提供された新型パーツを中心にテストしながらシャシーやサスペンションなど基本的なセッティングを再検証し、2日目にはミシュランタイヤのテスト、今回の最終日には予選タイヤを含むミシュランのテストの継続と、ロングランによるレース・シミュレーションというメニューを、リラックスした雰囲気の中で予定通りこなした。
カワサキは初日から3日間を通してレース・シミュレーションを取り入れながら、シャシーとサスペンションの調整を行い、ブリヂストンから提供された800cc専用タイヤのテストを行っている。特に今回のテストでカワサキが焦点をあてたのは、ロングランを繰り返す事によるマシンの耐久性検証、および1月のセパンでド・ピュニエが訴えていたロングラン時に劣化するというリアタイヤのグリップの強化だ。
今回の唯一のサテライト勢となったTECH3ヤマハは、テスト期間を通してダンロップタイヤの開発を急ピッチに進めている。MotoGP公式の発表によれば、玉田誠選手は3日間を通してタイヤの素材を検証しながらのテストを行い、マシンについては一度もメカニカル・トラブルはなかったという。なお、2日目の2分2秒台を記録した時のタイヤは、ヤマハのリリースによれば、予選タイヤではないが柔らかめのものであり、レースでの距離を耐えられるタイヤではないようだ。
2007年から2輪グランプリへの初チャレンジを開始するイルモアは、先々週のスペインでの単独テストに引き続き、今回のセパンでもエンジン性能の精度向上を狙ったテストメニューを最優先に、大量な作業を行ったようだ。また、この3日間はミシュランタイヤのテストも並行して行い、データ収集に躍起となっている。ジェレミー・マクウイリアムスの怪我による不在のため、膨大なテストを一人でこなしたアンドリュー・ピットは、あまりの忙しさに少し音を上げている様子も見受けられる。
■上位2チームの最終日の状況
以下に、ヤマハ・ワークスとカワサキ・レーシング・チームの最終日の状況と、各ライダーのコメントなどを紹介する。
■ヤマハ・ワークス、3日間を通して最高のテスト
今回のセパンでの最終日の午前中、ヤマハ・ワークス勢は前日までの2日間に満足の得られたシャシーとサスペンションのセッティングを再び強化し、ブレーキング時のさらなる安定性を探りながら、午後にはレースシミュレーションを行っている。
また、この日はミシュランの新型予選タイヤを試す機会にコーリン・エドワーズとバレンティーノ・ロッシの2名は恵まれており、今回のエドワーズの総合トップタイムと、ロッシの総合2番手タイムはその時に記録したものだ。
■エドワーズ「疲れてすぎて目の視点が定まらない」
昨年のセパンでチームメイトのバレンティーノ・ロッシが990ccマシンで記録したポールポジション・レコードを、ヤマハの新型800ccマシンで最終日に上回る最速ラップを刻んだコーリン・エドワーズは、午後にレースシミュレーションを開始した時にはすでに疲れ切っていて、走行中に目の視点がずれはじめたという。
「今朝はフロントタイヤを2本テストするところから始めて、今までとは違うバイクのセッティングも試しながら、いくつか一般的な事を検証しながら走り回っていました。」とエドワーズ。
「午後の終わりには別のリアタイヤを試しましたが、それの感触もすごく良かったですね。その後に2本の予選タイヤをテストしました。」
「最初の1本目を履いた時には数回小さなミスをしたので、2分1秒台の前半程度だと思っていましたが、実際は2分0秒6が記録されていてちょっと信じられませんでした。2本目はさらに驚異的で、バイクが完璧に感じられた程です。とにかく今回の結果は嬉しかったですね。」
「ロングランもかなりおもしろかったですね・・・午前中はすでに30周回も走ってぐったりと疲れていた上に、最初に全力で激しく飛ばしすぎたんです。気分良くは走れていたんですが、14周回を過ぎたところで景色が2重にダブって見え始めました!」
「そこから少しペースを落としましたが、あまり激しく攻める必要もなかったので、ちょっと早めにピットに戻る事にしました。いずれにしても、状況は前回のここでのテストに比べて大きく前進したので満足です。全体を通して最高のテストでした。」
■ロッシ「今日のコーリンは速すぎ」
2日目にはトップタイムを記録し、この最終日には総合トップの座をエドワーズに奪われたバレンティーノ・ロッシは、好調なチームメイトの状態を心から喜んでいる様子だ。
また、先日に引き続き、最終日もロッシは燃費性能を意識したエンジンの調整を行っている。マシンが800ccになり、今年から燃料タンクが1リットル分小さくなる事をロッシは非常に気にしている。
「今日もまた自分たちにとってすごくいい日でした。バイクの感触が最高(great)ですからとても嬉しいですね。」とロッシ。
「この3日間を通して、ブレーキング時の課題を解決できるようにサスペンションのセッティングには大量の時間を費やしましたが、結果は良好だと思っています。」
「今週は常に速く走れました。1月のテストの時よりも速くなったし、今日のロングランでも速かったのが一番重要でしたね。また、コーリンの調子がいいのでそれも嬉しいです。今日の彼のタイムはとんでもないですよ。すごい速さですね。」
「今日もエンジンマッピングを調整しました。昨日も言いましたが、今年の燃費性能は誰にとっても重要な課題になる筈ですよ。これだけは絶対にミスが許されません。」
「まだあらゆる分野において改善はできると思いますので、それを来週のカタールでは試したいと思います。最初のレースまであと1ヶ月しかありませんからね。来週のテストはかなり重要ですよ!」
■ブリビオ監督「重要なのは次回のカタール」
ヤマハ・ファクトリー・レーシングのチーム監督であるダビデ・ブリビオは、今回までのテストでマシンは満足のいく状態に近づいたが、本当に重要なのは次回のカタールでのテストだという。ブリビオ監督はそれについて2つの理由をあげている。
「いいテストが出来た事を喜んでセパンを後にできるのは間違いありません。2名のライダーと共に状況を大きく改善する事ができました。」とブリビオ監督。
「コーリンは1月の状態から急激に進化を遂げましたね。今日の彼以上に速くセパンを走ったライダーは今までに一人もいない筈です。これで自分たちの800ccマシンが990ccよりすでに速い事を確認する事にもなりました。」
「チームは真剣に頑張りましたし、一般的に言う新しいバイクの開発作業もとても順調です。」
「次回はカタールでのテストですが、2つの観点から見て非常に重要なテストになります。まずひとつは、今までとは違うタイプのサーキットですから、ここで学んだ多くの事を別のコースで再確認する事、ふたつめは、他のチームの全てのライダーが次回は揃いますから、彼らと相対的な力の差を確認する事です。」
■マシンの信頼性に重点を置き、今年はトラブルフリーを狙うカワサキ
セパンでの3日間を通して、ロングランを中心とする激しいテストメニューを全てこなしたカワサキ・レーシング・チームは、休む暇もなくシャシーとサスペンションのセッティングを調整しながら、3日間の毎日、レース・シミュレーションを行っている。
また、ブリヂストンの800cc専用タイヤも並行してテストしたランディー・ド・ピュニエとオリビエ・ジャックのフランス人ペアは、1月のセパンで見られたリアタイヤの早期消耗によるグリップ低下の問題が、今回の3日間で大幅に改善された事をチームに報告したようだ。
カワサキは年明けからマシンの信頼性向上に重点を置いている様子だが、カワサキの技術監督である金子直也氏は、今回のテストはレース距離を走った時のNinja ZX-RRの性能に焦点を置いたとしており、「3日間のレースシミュレーションを通してセッティングの変更を繰り返し、大幅な改善に成功した」と語っている。
また金子氏は、「最初のレースに向けて多くの貴重なデータも収集できたし、何より今回の結果は今のマシン開発の方向性が正しい事を証明している」とコメントした。
■ド・ピュニエ「ライディング・スタイルを変えてみた」
多くのレースシミュレーションを行い、3日間で237ラップという周回数をこなしたMotoGPクラス2年目のフランス人ライダーであるランディー・ド・ピュニエは、バイクのセッティングを調整する傍ら、より800ccマシンに適したライディング・スタイルを自ら模索している。
また、この日にド・ピュニエは1月のセパンでの自己ベストタイムを更新できてはいないが、これの原因として、今回の最終日の路面温度の上昇をあげている。
「この3日間は順調でした。どのレースシミュレーションでもラップタイムは安定して上向きでしたからとても満足です。」とド・ピュニエ。
「この結果は、基本的にはバイクのセッティングを少しずつ調整したからですが、それ以外にも、少しだけ自分のライディング・スタイルを変えて、もっと今のバイクに適した形になるように工夫しました。」
「理想的には、最終日に(1月のセパンでの)自己ベストを更新できれば良かったんですが、今日は前日までの2日間より少なくとも10度は路面温度が高かったので、現実的には不可能だったと思います。」
「これでセパンの2回のテストはうまくいきましたから、次のカタールで走るのが今は楽しみです。Ninja ZX-RRのベースセッティングがいい状態にある事を、あそこで確認できると思いますよ。」
■ジャック「いずれ速さは取り戻す」
最高峰クラスでのフル参戦は2003年のTECH3ヤマハ以来となるオリビエ・ジャックは、今年の彼の新しいチーフクルーであるフィオレンツォ・ファナリと共に、じっくりと今後の作業スタイルや方向性を共に探っている。
1月のテストと今回の最初の2日間はあまりペースを上げる様子を見せなかったジャックは、ファナリとの作業スタイルが定着してきたこの日、2日目のタイムを1秒以上更新する総合4番手タイムの2分2秒58を記録したが、まだあまり激しく攻めるような走りはしていないとコメントしている。
「今回のテストではすごく疲れました。」とジャック。
「何回かレースシミュレーションをしてマシンの信頼性をテストしましたが、マレーシアは気温が高いので体力的にはいつも厳しいんです。ただ、確かに大変でしたが、この3日間で成し遂げた進歩にはとても満足ですね。」
「このバイクのセッティング方法をより深く理解しましたし、セッティングの変更がマシン全体の性能にどう影響するかも分かりました。これは今後に(作業を進める上で)重要な事です。」
「バイクの感触は毎日良くなりました。これは自分のラップタイムにも表れていますが、まだまだタイムは上げられます。今はそれほど激しく攻めるような走り方はしていませんし、(フル参戦の)ライダーとして身体を慣らしている状態なんです。開発ライダーの期間が長かったですからね。」
「でも、自分の本来の走りは良く知っていますし、最初のレースではその速さも戻ってくると思います。とにかく今回は自分たちにとっていいテストでした。」
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