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2007年2月6日
今年3回目となるMotoGPメーカー合同テストが、マレーシアのセパン・サーキットで2月5日に1日目を迎えた。
■比較的リラックスムードのサーキット
今回も3日間の日程となるこのテストへの参加チームは、先週のフィリップ・アイランドに不参加だったヤマハ・ワークスとカワサキ・レーシング・チーム、およびイルモアの3ワークスと、サテライト勢では今回唯一の出場となるTECH3ヤマハの合計4チーム。
1月のセパン合同テストにはイルモアを除く全チームが集結していたが、今回はレギュラーライダーが7名のみという事もあり、各チームやライダー間でタイムを競い合ってマシン開発の優位性をアピールしあうというよりも、それぞれにマイペースで、じっくりと新型800ccマシンの開発を進めるという姿勢が目立つようだ。
■セパン合同テスト(2月)、1日目の走行結果一覧
以下に、セパンでは今年2度目となるメーカー合同テスト1日目の結果を、各ライダーのタイム順に示す。初日の上位ライダー2名は、前回のセパンから好調のヤマハ・ファクトリーペアだ。
1) コーリン・エドワーズ USA ヤマハ・ファクトリー・レーシング YZR-M1 2分02秒175(47周)
2) バレンティーノ・ロッシ ITA ヤマハ・ファクトリー・レーシング YZR-M1 2分02秒221(40周)
3) ランディ・ド・ピュニエ FRA カワサキ・レーシング・チーム ZX-RR 2分02秒966(85周)
4) 玉田誠 JPN ヤマハ・TECH3 YZR-M1 2分03秒219(68周)
5) オリビエ・ジャック FRA カワサキ・レーシング・チーム ZX-RR 2分03秒959(60周)
6) シルバン・ギュントーリ FRA ヤマハ・TECH3 YZR-M1 2分06秒558(55周)
7) アンドリュー・ピット AUS イルモア・GP イルモアX3 2分08秒640(49周)
この日のセパンの気温は28度、路面温度は39度と、1月の合同テストの時よりもやや低めとなっており、湿度は55%だった。
■イルモアのバイクナンバーは現在も不明
先々週は雪の降るスペインで単独テストを行っていたイルモアにとって、今回のセパンが今年初のメーカー合同テスト参加になるが、同チームから1名のみ走行しているアンドリュー・ピットのバイクナンバーは、現在もまだ決まっていないようだ。
なお、先日もお伝えしたが、ピットのチームメイトであり、昨年末のヘレスでのメーカー合同テスト3日目に転倒して大怪我を負い、その後に2回の手術を受けたジェレミー・マクウイリアムスのテストへの復帰は、2月13日から行われる次回のカタールを目標としている。
■リラックスして満足のいく初日を終えたヤマハ・ワークス
今年2度目のセパンでのメーカー合同テストの初日に、トップタイムである2分2秒175を記録したのは、ヤマハ・ワークスのコーリン・エドワーズだった。
エドワーズは先月のセパン合同テスト2日目には、レースタイヤで2分1秒930の好タイムを記録し、その時点で990cc時代にバレンティーノ・ロッシが記録したサーキット・レコードである2分2秒127を約0.2秒上回っていたが、今回の初日は2分01秒台に突入するライダーはエドワーズをはじめ一人もいなかった。
初日トップタイムのエドワーズと、2番手タイムの2分2秒221を記録したバレンティーノ・ロッシの所属するヤマハ・ワークスのピットは、この日は前回までのテストと比べて、少しリラックスしたムードだった様子だ。1日目に2名は揃ってヤマハが用意した新型パーツと、オーリンズのサスペンションを試しながら、50周に満たない周回数でじっくりとセッティングを探っている。
サーキットを走行するライダー数が少ない事から、比較的静かな環境の中でロッシとエドワーズはセッティングに集中する事ができたとしており、この日のテスト内容にも揃って満足だとコメントしている。2日目はミシュランタイヤのテストを開始するようだ。ちなみに、ヤマハ勢は昨年もフィリップ・アイランドの合同テストには参加をしていない。
なお、800ccマシンでの現在までのレースタイヤにおける最速ラップ(非公式)は、昨年11月のセパン合同テストでリズラ・スズキのジョン・ホプキンスが記録した2分1秒63だ。
■ブリビオ監督「部外者が少なくてリラックスできた」
ヤマハ・ワークスのチーム監督であるダビデ・ブリビオは、リラックスして進める事ができた初日のテストに満足している。前回のテストから若干問題視する傾向にあったブレーキのセッティングに関して、1日目から満足する結果が得られたとブリビオ監督はコメントしている。
「今日は初日からいい日になりましたね。まわりにあまり部外者もいないので、リラックスしたい雰囲気の中で過ごしました。」とブリビオ監督。
「初日はほとんどセッティング作業に特化し、新しいパーツをいくつか導入して試しましたが、ライダーたちにとってバイクはより好感触が得られるものになったようです。両方のライダーにとって基本的なセッティングは間違いなく改善されましたし、特に今回のテストで焦点をあてているブレーキに関しても大きな進歩が得られました。」
「今日は有益な情報がいくつも得られましたね。残り2日間もこの調子で作業を進めたいと思いますし、今回の結果(タイム)にも満足です。」
■エドワーズ「誰も錆びてなかった」
初日の47周回を終えてこの日のトップタイムをマークしたコーリン・エドワーズは、1日目からマシンは格段に進歩したと述べており、リア・サスペンションの課題解決を含む現状のほとんどに満足できているといった様子だ。
「前回よりも確実にいい感触でしたね・・・多分みんな休日の後で少し錆び付いてるんじゃないかと思ってましたが、実際は今回も『状況に異常なし(situation normal)』で、バイクは以前よりも強力になってる感じがしました。」とエドワーズ。
「今日の作業内容には満足です。今の段階でも速く走れますし、バイクの感触はどんどん良くなり続けていますからね。最初の42周回を走る中で、リアタイヤは2本しか使いませんでしたから、タイヤが好調なのも間違いないと思います。」
「チームは今日、ヤマハの新しいパーツのテストに集中しており、リアのサスペンションは格段に進化しました。この分野についてはまだ完璧と言える状況ではありませんが、今日は大きな変更を加える事でブレーキング時の安定性は100%良くなりました。これは結果にも表れています。」
「明日はもっとミシュランタイヤにテストの焦点をあてますので、さらに改善が進んで欲しいところですね。」
■ロッシ「エンジンのパーツが楽しみ」
ヤマハとのMotoGP契約を2008年まで延長し、800ccマシンの開発に雑念なく取り組めるとするバレンティーノ・ロッシは、この日に走行したライダーの中では最も少ない40周回で、1日目のセパンでのテストを終えた。
チームメイトのエドワーズに次ぐ2番手タイムの2分2秒221を記録したロッシは、今回セパンでのテストを選んだのは、タイムをあまり意識する事なく、自分の中でのマシンの熟成に気持ちを集中し、かつリラックスして作業を行いたかったからだとしている。
以前からロッシが気にしているエンジンパワーの向上については、日本のヤマハから新しいパーツが届くのを楽しみに待っている状態だとロッシは語る。
「今日はバイクのセッティングに時間を多く使いました。主にオーリンズから提供された新しいリアのフォークとブレーキングの改善を試みながら、いくつか異なる複数の方向性に取り組んでいます。」とロッシ。
「今回試してわかった事はすごく期待が持てる内容でしたから、残りの2日間への自信につながりました。」
「セパンからテストに戻ろうと決めたのは、もっとリラックスするためです。テストに参加するチームが少ないので、ラップタイムに気を捕らわれすぎる事もありませんからね。それが今回のテストを進める上での計画でした。」
「いずれにしても、自分のラップタイムは今でもすでに速いので、このままさらに上を狙うのは当然の事ですよ。明日はミシュランとの作業に集中して新しいタイヤをテストする予定です。」
「今は日本から新しいエンジンのパーツが届くのを待っているところです。もう少し馬力が得られる事に期待していますが、今のバイクでもこの状態ですから、ここまでの進捗状況にはとても満足です。」
■カワサキが唯一のブリヂストン勢
今回のセパンで唯一のブリヂストン勢となるのが、カワサキ・レーシング・チームだ。
年明け1回目のセパンでの好調な走りに引き続き、今回もカワサキのランディー・ド・ピュニエはロッシに続く3番手タイムの2分2秒966を、85周回というこの日の最多周回数の中で記録した。これは、前回のセパンの2日目にレースタイヤで記録したタイムとほぼ同タイムだ。
また、2度目のセパンではド・ピュニエと一緒に速く走りたいとコメントしていたチームメイトのオリビエ・ジャックだが、この日は前回のセパンでの自己ベストよりも約0.4秒遅い2分3秒959の5番手タイムで、初日の60周回を終えた。
■先週はカワサキの関連施設を訪問したド・ピュニエとジャック
なお、ホンダやドゥカティー、およびスズキ勢などがオーストラリアで合同テストを行っていた先週、ド・ピュニエとジャックの2名は、今年からチームの全ての指揮権を持つ依田一郎レーシング・ディレクターと共に、日本の明石にあるカワサキの工場と神戸にあるカワサキの博物館、および広島近くの三次市にある空力試験場を訪れたようだ。
明石のカワサキの工場を今回初めて訪れた2名のレギュラー・ライダーは、丹波晨一取締役社長と面会し、その後も新幹線に乗って国内を移動している。
工場の見学後、ド・ピュニエは、「この工場に来たのはこれが初めてですが、想像以上の規模の大きさにびっくりしてます!」と述べている。工場で多くの技術者に取り囲まれて歓迎された彼は、非常に良い経験ができたと満足した様子だ。
また、その後に一行はカワサキの開発ライダーである松戸直樹選手と合流すると、そのまま広島近くの三次市にある空力試験場に移動し、気温10度の空洞実験室の中でバイクにそれぞれ跨り、時速180キロの風圧を浴びたようだ。
この実験を経験したド・ピュニエは「とんでもなく寒いし何も見えませんよ。見た目は楽そうだったのに、3回の実験だけでもうたくさんって感じです。もう1回やれと言われてもちょっと考えます。」と、この体験にはかなり懲りた様子だが、エンジニアたちの裏での努力については「でも貴重な経験だったと思います。こういう実験が自分たちのバイクを進化させてくれる技術者たちには必要なんですね。」とコメントした。
■玉田選手はド・ピュニエに続く4番手
ヤマハの新型800ccマシンに乗り換え、TECH3ヤマハチームでダンロップタイヤを履いて今シーズンを戦う玉田誠選手は、チームにとって今年2度目となったメーカー合同テストの初日を2分3秒219の総合4番手タイムで終えた。
玉田選手のチームメイトであり、前回までは昨年末のプライベートテストで骨折した鎖骨の手術の影響が噂されたシルバン・ギュントーリのタイムは、この日は7番手タイムとなる2分6秒558だった。
■開幕に向けて浮上するか?ダンロップと玉田選手
この日の玉田選手は、前回の1月のセパン合同テストで記録した自己ベストを、今回の1日目から約0.1秒更新しており、マシンとタイヤの仕上がりはまずまずといった様子が伺える。明らかに調子は悪くなさそうだ。
ここでは少し、玉田選手とタイヤの相性、およびダンロップの今年にかける意気込みについて、以下に補足しておきたい。
■過去のアグレッシブな玉田選手の走りを支えたダンロップ
ホンダからヤマハへの移籍を昨年末に決断した時に玉田選手は「またダンロップタイヤを履くことになり嬉しいです。全日本のスーパーバイク時代にはダンロップのいい思い出がありますからね。」と述べていたが、ダンロップ側も、全日本時代から玉田選手の走りのスタイルを熟知しているという。これはダンロップにとっても、玉田選手はいい思い出のライダーだからだ。
全日本SB時代、プライベーターのマシンでワークス・ホンダの伊藤真一選手に真っ向から勝負を挑み、ワークスへの昇格後はSBKにスポット参戦をして、ポールポジションと圧勝とも言えるダブルウインを飾ったあのアグレッシブな玉田選手の走りを支えたのはダンロップタイヤだ。
■タイヤを選ぶライディング・スタイル
2004年はバレンティーノ・ロッシが玉田選手についてのコメントをいくつか残すほど、世界からその活躍が注目された玉田選手だが、MotoGPにおける初期の開発を担当したブリヂストンからミシュランに履き替えた昨年までの2年間は、フロントタイヤの接地感不足を最後まで解決する事なく、悔しい2シーズンを過ごす事になった。
フロントを重視し、コーナーで深く倒し込むライディング・スタイルの玉田選手にとって、フロントの接地感不足は致命傷だった。しかしながら、ロッシなどを中心に支えるミシュランが、玉田選手にのみ合うようなタイヤを、莫大な費用をかけて開発するとは考えにくかったのが現実と言える。もちろん、ミシュランが無策だった訳ではなく、昨年はコニカミノルタ・ホンダに向けてフロントタイヤを何本か用意しているが、これの成果はあまり得られず、諦めた玉田選手は自身のライディング・スタイルを変更するよう昨シーズンの後半は努め、最終的にはチームを離れる決断に至った。
■最高の組み合わせになる可能性も
世界GPでも再び玉田選手を支える事になったダンロップにとって、生粋のミシュラン信者である昨年のカルロス・チェカよりも、今年の玉田選手のように大排気量向けのダンロップタイヤで育ち、そこから本人のライディング・スタイルが定まったとも言えるライダーと組んだ方が、自分たちのタイヤの特性を有効に活かした開発の方向性がつかめる可能性がある。また、今年から導入されるタイヤ・レギュレーションは、間違いなく彼らダンロップ勢にのみ有利なルールだ。
ダンロップは玉田選手の望むフロントの接地感を提供できるように、今後も開発を続けてくるという。昨年末のテストから今回のセパン初日まで順調な上向き傾向にある玉田選手の走りとダンロップタイヤが、開幕までにどこまで熟成するか、今回のテストの残り2日間と併せて注意深く見守る必要がありそうだ。
■開幕に向けて必死のイルモア
長年F1のエンジン・サプライヤーを務め、念願が叶い今年から初の2輪ロードレースへの参戦を果たすイルモアは、1ヶ月後に迫った開幕レースに向けて必死のマシン開発作業を続けている。本来であれば、今年の過去2回のテストにも参加をしたかった様子だが、マシンの改善作業が間に合わなかったという。
今年からチーム監督に就任し、昨年までコスワースのチーフ・エンジニアとしてF1を戦っていたマイク・ジェーンズは、「開幕に真剣に焦点を合わせて作業を続けています。前回のセパンとフィリップ・アイランドのテストに間に合わなかった事は非常に残念ですが、昨年のヘレスに比べてエンジンの精度は格段に高くなり、マシンも乗りやすくなっています」とコメントしている。
昨年はSBKで初の優勝を獲得するなどの活躍を見せ、今年はイルモアのライダーとしてMotoGPに復帰したアンドリュー・ピットは、チームにとって今年初のメーカー合同テストとなる今回のセパンで、タイムシート上の最後尾となる7番手タイムの2分8秒640を記録して1日目の走行を終えた。
チームの単独テストを行った先々週の雪のスペインでは、エンジン性能の改善状況を喜び、セパンの温かい気候の中で走行できる事を楽しみにしていたピットだが、初日は走行ペースを上げるには至っていないようだ。
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