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2007年5月17日
MotoGP2007年シーズンは、前回の中国までの海外遠征期間を終え、ようやく各チームの本拠地が点在するヨーロッパでの本格的なラウンドに突入する。
■2007年シーズン中、最も忙しいスケジュールに突入
今週金曜日の5月18日から開催される第5戦目のフランスGPを皮切りに、ここからの2ヶ月間は一気に第11戦目のアメリカGPまでの7レースが、僅か3回のオフウイークを所々に挟む形で次々と行われるという、今シーズン中で最も忙しい期間を各チームは過ごす事になる。
■見直された昨年の過密3連スケジュール
昨年はオフウイークを全く挟まない3連戦が1シーズン中に2回あり、その最初の3連戦中のカタルーニャのオープニングラップで大事故が発生、その翌週のレースでも怪我人が続出した事で、過密スケジュールによるライダーや関係者への心身への負担が大きくクローズアップされる事になった。そのためか、今年は3週連続のレースとならないような配慮がカレンダーになされており、僅かながら負担は軽減されてはいるが、今年も厳しいスケジュールである事には何ら変わりはない。
■ヨーロッパラウンドで急激に力を発揮してくる地元勢
しかしながら、開幕戦からの海外遠征を終えたヨーロッパの各チームは、自分たちのホームグランドであるヨーロッパ地域で戦える事に何よりも喜びを感じている様子だ。グランプリの本場にある各サーキットは、日本人やアメリカ人を除く大多数のライダーにとっては無名時代から慣れ親しんだサーキットであり、遠征を済ませた途端にポイントランキングの上位にヨーロッパ勢が毎年返り咲くのもうなずける。
ここでは、今週から本格化するヨーロッパラウンドの最初の舞台であり、ミシュランタイヤの本拠地であるフランスのルマンの特徴やコース改修の歴史、マシンのセッティングの方向性、ならびに昨年のMotoGP最高峰クラスのレース内容などを振り返り紹介する。
■過去2戦の近代サーキットに続き、今週は伝統あるルマン
開幕戦のカタールはピット内にも冷房完備が行き届いた最新鋭のサーキットであり、過去2戦のイスタンブールサーキットと上海サーキットはドイツのティルケ社によってここ数年間に建築されたばかりの、やはり最新鋭の近代サーキットだったが、今週末は伝統あるルマン・サーキットでのレースだ。
ザ・ルマン・ブガッティ・グランプリ・レース・サーキット(通称ルマン)は、パリから約200Kmの距離の南西に位置し、TGV(フランスの新幹線)を使えばパリから数時間の所要時間で到着する。フランスの日本からの時差はマイナス7時間。
■世界で最も有名であり、伝統的なサーキット
ルマンはそのベースとなるコースが1923年に開設された歴史あるサーキットであり、ルマン24時間耐久レースやFIA3000チャンピオンシップ、およびフランス・ツーリング・カー選手権など、多くのGTカー選手権でも有名な伝統あるサーキットとして知られている。
ここでMotoGP(WGP)が最初に開催されたのは1969年のことだ。
尚、MotoGP等の2輪スプリントレースで使用されるコースと、主な4輪レースで使用されるコース内の通路は異なっており、有名なシケインを含むホームストレートは共通だが、2輪はその先にあるチャペルコーナーを境に右に折れ、内側のストップ・アンド・ゴーで有名なショートコースに入る。一方、24時間レース等はそのまま真っ直ぐに広大な田園の外周コースを走りぬける事になる。
■安全面向上に向けた改修工事が続く古いコースレイアウト
近年のルマンは、最新のマシン性能にあった安全面を確保する上での改修工事が絶え間なく続けられている。
ルマンは伝統ある古いコースでありながら、その1コーナーはMotoGPカレンダーの中では最速と言われる超高速コーナーだが、大規模なコース改修はこの第1コーナーから始まっている。
■プーチの1995年の事故後、コースは一度閉鎖に
現在のダニ・ペドロサの技術監督としても有名なアルベルト・プーチが1995年に彼のライダーとしてのキャリアに終止符を打つきっかけとなった1コーナーでの悪名高い事故をきっかけに、ルマンの内側コースはその年から5年間は一度閉鎖され、ライダーの安全性を向上する為の改修工事が行われている。
現在のラインに近い形に1コーナーは延長され、さらにその影響により速度が上がる事を考慮し、ランオフエリアの拡張およびシケインによる加速防止策がこの時に取られた。
こうしてルマンは2000年にはMotoGPコースに復帰し、その後7年間を通してMotoGPカレンダーに連続してエントリーされるようになったが、その間も改修工事は並行して行われており、2003年にはコース全長がより短くなり、2004年にアスファルトを全て舗装し直している。
■昨年は1コーナーとシケインを再改修
また、一番最近の改修工事は昨年の2006年に行われた1コーナーとシケインの改修であり、転倒したライダーが反対側のコースに飛び出すのを防止する事を目的に1コーナーの終端がややコース内側にひき直され、シケイン入り口が若干手前になり、ランオフエリアがさらに広く拡張された。
なお、今週は連続8回目のグランプリ開催となるが、基本的にコースレイアウトの状況は昨年と同じだ。
■コースレイアウトの特徴
ルマンは典型的なストップ・アンド・ゴーのレイアウトであり、決してテクニカルと言えるコースではない。しかしながら、ライダーにとっては挑戦的な度胸試しとも言えるコーナーが連続しており、好き嫌いに関しての意見は大きく分かれる事も少なくないようだ。
観戦する側にとっては、高速ストレートから低速コーナーに向けてのブレーキング合戦が激しく頻発する事から、ストップ・アンド・ゴーのサーキットの中ではかなり見応えのあるレース展開が毎年期待できる。
■スリリングな1コーナーからシケインにかけてのブレーキング合戦
MotoGPは全長4180mの内側コースで行われ、ホームストレートからこの1コーナーにかけては6速ギアを使用する長い超高速右コーナーになっており、その先のシケインへの飛び込みではライダー達にとって度胸試しとも言えるスリリングなブレーキング合戦が展開される。ルマンの中で最も特徴的でありテクニカルな部分であり、多くの新人ライダーが止まりきれずにコースアウトをする事でも有名だろう。
シケインの後のストレートを抜け、チャペルコーナーを右に折れた後は、MotoGPバイクでは殆ど2速で曲がるコーナーで構成されており、コーナー以外の場所では3速および4速が用いられる事が多い。
■タイヤには厳しいが、マシンセッティングの難易度は低め
タイヤの観点から言えば、低速のヘアピンやシケインへの進入のハードブレーキングと、その脱出時のフル加速という負担の多いサーキットであり、その上にコーナーの数は右コーナーが9つに対して左コーナーは4つしかなく、タイヤの両面に大きく異なる味付けが必要とされる。
しかしながら、マシンのセッティングの観点から言えば、あまりテクニカルとは言えないコースレイアウトである事から、マシンの絶妙なバランスセッティングが要求されるという難しいサーキットではないようだ。ライダーとメカニックはブレーキングの安定性を重視し、同時にヘアピンの脱出加速を重視してリアのトラクション向上をルマンでは狙うという。
■開幕戦からの雪辱をミシュランは本拠地で果たすか?
ルマンは言うまでもなくフランスのタイヤメーカーであるミシュランの本拠地であり、ミシュランのタイヤ工場もこのサーキットの非常に近くに位置している。従って、31本の厳しいタイヤ持ち込み制限のなかった昨年までは、地の利を活かしてレースウイーク中の路面状況を都度確認しながら新しいタイヤを急遽制作してサーキットに持ち込むという芸当ができていた訳だが、今年からはその絶対的優位な戦略が一切ミシュランには取れない。
ミシュランは過去11戦の最高峰クラスの戦いにおいて連続勝利を収めるという、昨年までは圧倒的とも言えるルマンでの勝利を収めてきたが、新タイヤレギュレーションにより動きが制限される今年は、ホームグランドのルマンと言えども、そう簡単に勢いに乗るブリヂストンを抑える事はできない可能性もある。
■好調のブリヂストンを本陣で迎え撃ちたいミシュラン
ミシュランの宿敵となる日本のブリヂストンは、今シーズンのここまでの4戦中の3戦で勝利を収めており、昨年まではミシュランに太刀打ちできなかったトルコや中国でも歴史的とも言える圧倒的勝利を手中に収めている事からも、ミシュランは全く油断のできない状況と言える。
ユーザー数を含め、今年は突如勢力を増したブリヂストン勢に対し、ミシュランが地元の意地をどれだけ見せてくるかにも、今週のルマンでは注目すべきだろう。
■ルマンに対して異様とも言える執念のロッシ
ルマンへの勝利に執念を燃やすのは何も地元のミシュランだけではない。昨年のレースでは他を寄せ付けないハイペースで予選での不調を挽回し、2位を走るレプソル・ホンダのダニ・ペドロサから戦意を奪ってトップを独走していたレースの残り7周の時点でエンジンが壊れてリタイアを喫したヤマハ・ワークスのバレンティーノ・ロッシも、ルマンには特別な思いを持つ1人だ。
昨年は開幕戦のオープニングラップで後続のトニ・エリアスに追突されて順位を大きく落とし、ヨーロッパラウンドの前戦の中国でもタイヤトラブルによりリタイアしていたロッシは、フランスでの勝利にタイトル制覇の可能性をかけていた。
■人の目をはばからず落ち込んだ昨年のロッシ
そのどうしても勝たなければならないレースで、余裕の勝利を目前にリタイアした時のロッシの落胆ぶりは大きく、かつての彼が誰にも見せたことのない呆然と立ちつくして微動だにしない姿や、その後にヘルメットを抱えてふさぎ込んだ姿は記憶に新しいところだ。
当然、レースに「たられば」はないにしても、もしロッシが昨年のルマンをあのまま制覇していれば、その後のレースで抱えた多くのトラブルが発生していたにしても、昨年度のチャンピオンとなったニッキー・ヘイデンから20ポイントの差で年間タイトルを獲得する事ができていた計算になる。
フィアット・ヤマハのバレンティーノ・ロッシは、今回のルマンを前にして「ルマンには恨みがあります」と語り、雪辱に向けての意識を高めている。
なお、ルマンは元来ヤマハのマシンとは非常に相性の良いサーキットであり、今シーズンのここまでに3勝をあげているドゥカティー・マルボロのチーム監督であるリビオ・スッポは「ルマンはヤマハサーキット。簡単には勝てないだろう。」と語った。
■昨年のレース内容
最後に、そのバレンティーノ・ロッシにとっては災害とも言える昨年のルマンでのレース展開を振り返ってみよう。
■例年通り不安定な気象条件だった昨年のルマン
気象条件は今年の中国と同じく、雨の予報が再三出されたものの、レースウイークは3日間を通してドライ・セッションに恵まれている。決勝当日は不安げに曇り空を見上げるライダーたちの姿は目立ったが、レース中も最後まで雨が降ることはなかった。
■ポールポジションはペドロサ、ロッシは3列目スタート
予選では中国で初勝利を収めたばかりのダニ・ペドロサがポールポジションを獲得し、その隣の2番グリッドには予選のセッション終盤で惜しくもポールポジションを逃したカワサキの中野真矢選手、3番グリッドには当時から初表彰台を狙い続けていたリズラ・スズキのジョン・ホプキンスが並んだ。
■波乱の第1シケイン
オープニングラップでは、3列目からのスタートを挽回しようとしたバレンティーノ・ロッシが強引に団子状態となったシケインに飛び込み、これにより好スタートを決めていたチームメイトのコーリン・エドワーズとドゥカティーのセテ・ジベルナウは行き場を失いグラベル側を走行して順位を大きく後退。
さらにはこの騒動から逃げ切れなかった地元ライダーであるカワサキのランディー・ド・ピュニエがグラベル側に押し出されて転倒。ド・ピュニエはこの時に脳震盪を起こして意識を失い、レースをリタイアしている。
■序盤のレースをリードしたのはホプキンス
序盤はホプキンスがレースをリードし、フォルツナ・ホンダのメランドリとペドロサ、およびドゥカティーのロリス・カピロッシがそれに迫る中、バレンティーノ・ロッシは怒濤の追い上げで順位を挽回して先頭集団に迫った。
4周目にロッシは先頭を行くホプキンスの後方2番手につけ、ロッシの後方3番手を走行するメランドリは激しいブレーキングを繰り返して後続のペドロサとカピロッシをブロックしたが、ブレーキングを遅らせすぎてあわやコースアウトという状態になったメランドリはペドロサをカピロッシに交わされて順位を5番手に後退。
■ロッシが2番手に浮上、中野選手にはペナルティー
5周目にロッシはホプキンスから前を奪うとトップに立ち、8週目にはコーナでミスを犯したホプキンスを交わしてペドロサがロッシの背後の2番手につけた。なお、この周回に6番手を走行していた中野選手にはジャンプスタートのペナルティーが提示され、ピットレーンの走行を強いられた中野選手は16番手に後退している。
■ホプキンスが転倒、ロッシは後続を引き離し単独トップに
10周目にホプキンスはブレーキレバーを強く握りすぎてフロントを失い転倒、そのまま15番手に後退し、勝負はロッシとペドロサの2台に絞られた。
後半にロッシは他を寄せ付けないハイペースな走りで一気にペドロサとの差を3秒まで広げ、21周目にその距離はさらに広がっていった。ロッシの勝利はもはや確実と誰もがそう思っただろう。
■エンジンが停止し立ちつくすロッシ
しかしながら、22周目に入ったコントロールラインにロッシの姿はなかった。ペドロサが飛ばす遙か彼方後方には、惰性でゆっくりと走行しながら停止するのを待つのみのマシンの上に、呆然と背筋を伸ばしてたたずむ姿があり、その横を後続のライダーたちが次々と通りすぎた。ロッシは完全に停止したマシンの上で置物のように固まり、微動だにしないままレースから脱落した。
■突如息を吹き返す2名のイタリアン
その残りのレース7周、ロッシのリタイアを見て突然元気を取り戻した2名のイタリア人、カピロッシとメランドリが先頭を行くペドロサを追い詰め、25周目にメランドリはペドロサを交わしてトップに立ち、最終ラップとなる28周目にはシケインでカピロッシがペドロサを交わした。
■2006年ルマンでの勝利者はマルコ・メランドリ
こうして2006年のルマンはフォルツナ・ホンダのマルコ・メランドリが制し、2位はドゥカティーのロリス・カピロッシ、3位はレプソル・ホンダのダニ・ペドロサが獲得している。
■ルマンのラップレコード
ルマンのコースレーコードは2006年にバレンティーノ・ロッシが記録した1分35秒087、ポールポジションレコードは同じく2006年にダニ・ペドロサが記録した1分33秒990。
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