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2007年3月2日
MotoGPの最高峰クラスがIRTAテストを行っていた2月24日、SBK(世界スーパーバイク選手権)が、カタールのドーハ近郊の砂漠地帯にあるロサイル国際サーキットにおいて、ついに2007シーズンの開幕レースの日を迎えた。
■ビアッジの参戦で話題を呼んだプレシーズン
今年のSBKは、昨年の1年間を通してSBK入りが噂された元MotoGPのスターライダーであるイタリア人のマックス・ビアッジがフル参戦を表明し、そのビアッジのアルスター・スズキ入りと同時に、2005年のSBKチャンピオンであるトロイ・コーサーがスズキからヤマハ・イタリアに移籍して、昨年までは何度もレース中に激しいバトルを繰り広げたライバルの芳賀紀行選手のチームメイトとなって共にヤマハの新型YZF-R1の開発をするなど、ストーブ・リーグ中から何かと話題が多い。
■昨年からのレギュラー・ライダーたちの対立の構図も
当然、2007年シーズンに向けて最も多くの注目を集めているのがマックス・ビアッジのSBK初年度の活躍だが、今年は昨年からのSBKレギュラー・ライダーにも期待のかかる1年となる。
ヤマハ・イタリアの芳賀コーサーペアもさる事ながら、昨シーズンからSBKドゥカティーチームに復帰して悠々と2006年のSBK年間タイトルをさらったトロイ・ベイリスの勢いが今年も続くのか、また、2006年は初のホンダでランキング2位を獲得し、今年はSBK7年目となる元最年少SBKチャンピオンのジェームス・トスランドが自身2度目の年間タイトルをベイリスから奪い取るのか、また、昨シーズン中盤から転ばない宣言をしてから再び安定して表彰台を狙うようになった今年はビアッジのチームメイトとなる加賀山選手など、誰がどのレースで勝利を収めても決しておかしくない強豪が揃った。
■MotoGPスターでも簡単には勝利を奪えない高いレベルの2007年SBK
また、ドゥカティー・ワークスに移籍してから2年目となるロレンツォ・ランチの成長、ならびに昨シーズンから好調に上位を狙うカワサキのフォンシ・ニエトの存在など、本人が開幕前に述べている通り、いかにMotoGPの強者であるマックス・ビアッジと言えども、そう簡単に初年度から年間タイトルを狙えるほど甘くはないのが今年のSBKだ。
■ビアッジのバイクナンバーは馴染みの#3
なお、昨シーズンにMotoGPからSBKに移籍して話題を呼んだアレックス・バロスは今期はMotoGPに復帰、ならびに、2年間SBKで戦った元MotoGPライダーのノリックこと阿部典史選手は全日本のJSBカテゴリーへの参戦が決定しているため、今シーズンのSBKに彼らの顔ぶれはない。ちなみに、昨年までノリックが使用していたバイクナンバーの3番は、その番号をMotoGP時代からトレードマークとしているビアッジが、今シーズンから使用する。
■スターティング・グリッド
今年の開幕レースのスターティング・グリッドは、ポールポジションに今年はヤマハ・イタリアで戦うトロイ・コーサー、1列目2番グリッドにはアルスター・スズキのマックス・ビアッジと、昨年までとは異なる新天地に移籍したライダー2名が、高いポジションをいきなり獲得している。
3番グリッドには、昨年のカタールでの開幕レース1を制したハンスプリー・テンケイト・ホンダのジェームス・トスランド、1列目最後の4番グリッドにはヤマハ・イタリアの芳賀紀行選手がつけた。
2列目先頭の5番グリッドは、ドゥカティー・ゼロックスのロレンツォ・ランチが、チームのエースライダーである昨年度チャンピオンのトロイ・ベイリスを6番グリッドに抑えて確保している。なお、今回のカタールではドゥカティー勢がリアのトラクションに苦しむ傾向にあり、圧勝が当たり前となったベイリスに、プレシーズン中と昨シーズン中の勢いがこのレースウイークの2日間には見られてれない。
7番グリッドには、今年はより安定して表彰台を狙えるように戦うというアルスター・スズキの加賀山選手、2列目最後の8番グリッドには、昨シーズンはバロスの移籍にまつわるスポンサーの問題などから古巣のクラフィ・ホンダでのシートを失い、ファンからの募金により別のチームから参戦継続が実現したドイツ人ライダーのマックス・ノイキルヒナーがつけている。ノイキルヒナーはスズキ・ジャーマニーから今年は参戦。
なお、SBKは1日にレース1とレース2という2回のレースが行われるが、スターティング・グリッドは終日変わらず、どちらも上記に示した通りのポジションからのスタートとなる。レースの周回数は全18ラップだ。
■レース1開始
この日のレース1開催時の気温は25度、路面温度は43度と、アスファルト上に残る砂も加わり、比較的タイヤに厳しいレース条件となっている。路面は完全ドライ。
■ホールショットを奪ったのはビアッジ
シグナルが消え、一斉に前へ進むライダーの中で好スタートを決めたのはポールポジションスタートのトロイ・コーサーだが、1コーナーまでにそれを追い上げ、1ラップ開始直後にホールショットを奪ったのは今回のレース1がSBKデビューレースとなるアルスター・スズキのマックス・ビアッジだ。
■勢いあまってビアッジが後退
ここで勢いあまったビアッジは2コーナーで膨らみ、その内側をコーサーと芳賀紀行選手のヤマハ・ペアが通過した事により、順位は先頭からコーサー、芳賀選手、ビアッジ、トスランドとなった。その後ろにドゥカティー・ワークスの2台が続き、さらに後方にはアルスター・スズキの加賀山選手。
最終コーナーでトスランドはビアッジを交わして3番手に浮上し、そのままストレート加速に入る。先頭はヤマハ・イタリアの2台。
DFXトリームのミッシェル・ファブリツィオは3コーナーで激しく転倒し、ここでレース1をリタイアした。
■トップに立つヤマハ・イタリアの2台
2ラップ目の1コーナー、3番手のトスランドはコーサーの後ろ2番手につける芳賀選手に並びかけるが、芳賀選手はインを許さない。諦めないトスランドは執拗に芳賀選手の後ろにつけると、コース中盤の右コーナーへの飛び込みで一気に芳賀選手から前を奪って2番手に浮上した。
■次々と前を交わしたトスランドがトップに
3ラップ目、勢いに乗るトスランドは1コーナーで先頭を行くコーサーからも前を奪いついにトップに立った。順位は先頭から等間隔に隙間なく先頭のトスランド、2番手のコーサー、3番手の芳賀選手、4番手のビアッジの4台、その2秒後ろには5番手のベイリス、6番手のランチ、7番手の加賀山選手、8番手のノイキルヒナーが続く。加賀山選手はランチを交わして6番手に浮上。
4ラップ目、先頭集団は完全に4台に絞られる。やや遅れてベイリスと加賀山選手、その後方にランチとノイキルヒナーが続いた。
■様子を見ていたビアッジがゆっくりと浮上
5ラップ目、それまでは先頭の3台の様子をうかがうように無理せず走行していたビアッジが、1コーナーで芳賀選手を交わして3番手に浮上。鋭いビアッジの飛び込み速度に、芳賀選手はなすすべなくこの時は前を奪われている。
後方の加賀山選手がベイリスを交わして5番手に浮上した頃、ビアッジは2台目のヤマハ・イタリアのマシンに狙いを定め、右コーナーの入り口でそれを交わして2番手にポジションを上げた。この結果、トロイ・コーサーは3番手に後退。
■独走態勢を築きたいトスランド
ヤマハ・イタリアの2台の赤いマシンとアルスター・スズキの1台の黄色いマシンが2番手を争って団子状態になる中で、それを引き離すように先頭の白いホンダのマシンのトスランドは、安定した速いペースで周回を重ねている。
ヤマハの2台と激しく前を争うビアッジは、左コーナーでミスを犯してゼブラゾーンに乗り上げ、コーサーに交わされて順位を3番手に落とした。
■トスランドの追撃態勢に入るビアッジ
6ラップ目の1コーナー、再びビアッジはコーサーをとらえて2番手に浮上し、前方1.5秒先を逃げるトスランドを追い続ける。
■フロントタイヤを使い切った芳賀選手
7ラップ目に入り、突然ヤマハの2台がペースを落とし始める。芳賀選手はレースウイーク中の懸念通りにフロントタイヤを6周で使い切り、ゆっくりと先頭の3名から後方に下がり始めた。この時の順位は先頭からトスランド、2番手にビアッジ、3番手にコーサー、4番手に芳賀選手、5番手に加賀山選手、6番手にベイリス、7番手にランチ、8番手にノイキルヒナー。芳賀選手のペースダウンにより、8台が長い0.5秒間隔の1列となっている。
■トスランドにプレッシャーをかけるビアッジ
2番手のビアッジは激しくペースを上げて先頭のトスランドを追い、2台の間隔が狭まっていく。なお、この時点で6番手のベイリスはレース1では無理をせず、ポイント獲得を優先するように頭を切り換えていたという。
8ラップ目に入るとビアッジはトスランドの真後ろにまで迫り、トスランドの後方に密着するような位置で1コーナーに飛び込んだ。
■コーサーのリアタイヤが大きく振動
先頭のトスランドとビアッジがバトルを開始し、3番手以降を引き離し始めると、芳賀選手と同様に調子の上がらなくなったヤマハ・イタリアのコーサーは極端にペースを落とし始める。コーサーのマシンはリアタイヤのリムとタイヤのラバーがこの時に滑りだしており、マシンの後部に激しい振動を抱えて加速ができない。コーサーのマシンが芳賀選手後方の集団に近づいていく。
■ビアッジがトップに立ち、すぐにそれを奪い返すトスランド
9ラップ目の1コーナーでついにビアッジはトスランドからインを奪い先頭に出るが、オープニングラップと同様に勢いあまって2コーナーで膨らみ、その内側をトスランドがすり抜ける。すぐにトスランドの真後ろにつけた2番手のビアッジは、コーナーの切り返しで再びトスランドから前を奪いトップに立った。
ビアッジから前を奪い返すべく右コーナーのイン側を狙うトスランドが先頭のビアッジに迫り寄るが、ビアッジは素速くマシンを倒し込みこれを阻止。だが、次に迫る最後から3つ目のコーナーではビアッジのミスによりトスランドがまたもトップに踊り出る。
2台はコーナーを通過する度に順位を奪い合うという激しいデットヒートを繰り返しながら、後続をさらに引き離す。
10ラップ目、コントロールラインを順番に先頭からトスランド、2番手のビアッジ、2.5秒後方3番手の芳賀選手、4番手のコーサー、5番手の加賀山選手、6番手のベイリス、その遙か後方に下がったランチが続く。
■レイトブレーキングでビアッジがトスランドを圧倒
11ラップ目、ビアッジは1コーナーでマシンを倒し込もうとするトスランドの真横にブレーキを遅らして飛び込み、慌てるトスランドの内側を悠々と通過。すぐに2コーナーで前を奪い返そうとするトスランドだが、今度のビアッジは2コーナーで膨らまない。先頭のビアッジにトスランドが並びかけるがビアッジもそのまま加速。
12ラップ目、リアの不調を訴えるコーサーが7番手まで後退した頃、加賀山選手が芳賀選手を交わして3番手に浮上した。順位は先頭からビアッジ、トスランド、加賀山選手、芳賀選手、ベイリス、ランチ、大幅に遅れたコーサー。
■ブレーキを遅らせすぎて毎回2コーナーで苦しむビアッジ
ここでまたもビアッジは2コーナーで膨らみ、その隙をついてトスランドが先頭に。すでに後方集団は先頭の2台からは見えない位置まで下がっている。この時、中冨選手は13番手を走行。
■ついに本性を現すビアッジ
13ラップ目、1コーナーの飛び込みでビアッジが前に立つと、今度はトスランドに隙を与えなかった。温存していたかのように徐々にペースを上げるビアッジに、ついにトスランドがコーナーで追いつけなくなる。
■雰囲気の良い今年のカワサキ
後方ではカワサキのレジス・ラコーニとフォンシ・ニエトがチームメイト同士で絡み、ライムグリーンのマシンが2台揃って宙を舞うと激しくグラベルに飛び込んだ。グラベルの中で立ち上がったラコーニとニエトは、殴り合うかのような雰囲気でつかつかとお互いに歩み寄ると、双方の無事を確認して仲良くハグ。
■後続を大幅に引き離す先頭の2台
14ラップ目、ビアッジはペースを上げ続け、トスランドはその0.2秒後方から必死に後を追っている。2台の遙か後方の第2集団は、3番手の加賀山選手、4番手のベイリス、5番手のランチ、フロントタイヤが使えず全くペースの上がらなくなった6番手の芳賀選手、7番手のノイキルヒナー、マシンの振動と戦う8番手のコーサーの順に並ぶ。
■トスランドに諦めの色が・・・
15ラップ目に入ると、ビアッジとトスランドの差は0.2秒から0.3秒に開き始め、16ラップ目にその差は0.5秒、17ラップ目に入ると1秒まで開いた。ビアッジへの激しい追い上げを続けたトスランドだが、ここでその走りに諦めの色が見え始める。
■表彰台圏内の加賀山選手をランチが猛ダッシュでパス
この時、3番手の加賀山選手が先頭の2台から10秒遅れの位置を走行中、突然5コーナー付近でドゥカティーのロレンツォ・ランチが加賀山選手からインを奪った。加賀山選手は4番手に後退し、表彰台圏内を残り1ラップ僅かで奪ったランチを後方から必死に追い上げる。
■大快挙、マックス・ビアッジはSBKデビュー・ウインを達成!
最終ラップの18周目、ペースの落ちないビアッジは余裕で先頭を走りきり、2番手のトスランドとの差を1.5秒まで開きながら、SBKデビューレースのチェッカーを、並み居る強豪ライダーを遙か後方に追いやって先頭でくぐり抜けた。デビュー・ウインを達成したビアッジは、両手でその爆発的な喜びを表現しながらウイニングランを開始。
■悔しいトスランドと加賀山選手
2番手には悔しがるハンスプリー・ホンダのジェームス・トスランドが入り、3番手には終盤に加賀山選手を交わしたドゥカティーのロレンソ・ランチが、昨シーズンの不調を振り払うかのように飛び込み、表彰台を獲得している。アルスター・スズキの加賀山選手は惜しくも4番手となり、初戦での表彰台を逃した。5位には昨年度チャンピオンのトロイ・ベイリス。
レース序盤に好調だったヤマハ・イタリア勢は、最終的に芳賀選手が8位、トロイ・コーサは9位に終わった。2台とも他のチーム以上に上昇した路面温度の影響をタイヤに受けてしまった様子だ。また、チームYZFヤマハでSBK2年目を戦う中冨伸一選手は、レース1を12位で終えている。
表彰台の上には、3年間見せた事のなかったような満面の笑みを浮かべるビアッジが立った。(各ライダーのコメントはレース2レポートの最後を参照の事)
■カタール開幕戦レース1、走行結果一覧
以下に、カタールでの開幕戦におけるSBKレース1の順位を示す。
1) マックス・ビアッジ ITA チーム・アルスター・スズキ・コロナ・エクストラ Suzuki GSX-R 1000 K7 36分10秒115(18周)
2) ジェームス・トスランド GBR ハンスプリー・テンケイト・ホンダ Honda CBR 1000RR 36分11秒598(18周)
3) ロレンツォ・ランチ ITA ドゥカティ・ゼッロクス・チーム Ducati 999 R 36分24秒021(18周)
4) 加賀山就臣 JPN チーム・アルスター・スズキ・コロナ・エクストラ Suzuki GSX-R 1000 K7 36分24秒934(18周)
5) トロイ・ベイリス AUS ドゥカティ・ゼッロクス・チーム Ducati 999 R 36分27秒420(18周)
6) マックス・ノイキルヒナー GER スズキ・ジャーマニー Suzuki GSX-R 1000 K6 36分35秒046(18周)
7) ロベルト・ロルフォ ITA ハンスプリー・テンケイト・ホンダ Honda CBR 1000RR 36分35秒280(18周)
8) 芳賀紀行 JPN ヤマハ・モーター・イタリア Yamaha YZF R1 36分37秒435(18周)
9) トロイ・コーサー AUS ヤマハ・モーター・イタリア Yamaha YZF R1 36分41秒352(18周)
10) ルーベン・ザウス ESP チーム・ステリルガルダ Ducati 999 R 36分41秒784(18周)
11) スティーブ・マーチン AUS D.F.X.トリーム Honda CBR 1000RR 36分52秒470(18周)
12) 中冨伸一 JPN チームYZFヤマハ Yamaha YZF R1 36分56秒960(18周)
13) アレッサンドロ・ポリータ ITA チェラーニ・チーム・スズキ・イタリア Suzuki GSX-R 1000 K6 37分09秒322(18周)
14) ヤコブ・シュムルツ CZE チーム・カラッチ・ドゥカティ・SC Ducati 999 R 37分10秒411(18周)
15) ディーン・エリソン GBR チーム・ペデルチーニ Ducati 999 R 37分31秒158(18周)
16) クリスチャン・ザイサー AUT LBR・レーシング・チーム MV Agusta F4 1000R 37分54秒421(18周)
17) Mashel Al Naimi QAT ダンティーン・MotoGP Kawasaki ZX 10R 36分57秒911(17周)
-) レジス・ラコーニ FRA カワサキ・PSG-1・コルセ Kawasaki ZX 10R 22分19秒919(11周)
-) フォンシ・ニエト ESP カワサキ・PSG-1・コルセ Kawasaki ZX 10R 22分19秒927(11周)
-) ジョシュア・ブルックス AUS アルト・エボルーション・ホンダ Honda CBR 1000RR 22分30秒306(11周)
-) ジリ・ドラズダック CZE ヤマハ・Jr・プロ・SBK・レーシング Yamaha YZF R1 14分37秒644(7周)
-) カール・マガリッジ AUS アルト・エボルーション・ホンダ Honda CBR 1000RR -分-秒-(0周)
-) ミッシェル・ファブリツィオ ITA D.F.X.トリーム Honda CBR 1000RR -分-秒-(0周)
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