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2007年8月17日
4週間の夏休みを終えたMotoGPの各チームは、8月17日から開催される第12戦のチェコGPに向けて、真夏のブルノ・サーキットに再び集結している。毎年夏休み明けとなるチェコGPには、各メーカーが夏休み中に準備した多くの新型パーツを投入してくる事でも知られているが、今年もその例外ではないようだ。
ここでは、前回のアメリカGP以降の新着トピックや、チェコGPの舞台となるブルノサーキットの特徴、ならびに昨年のレース結果などを振り返り紹介する。
■負傷ライダーの回復状況
夏休み前に重傷を負ったライダーは、オランダGPで左太もも付近の大腿骨を骨折し、その後の3レースを全て欠場しているグレッシーニ・ホンダのトニ・エリアス、ドイツGPで右手のひらに裂傷を負ったプラマック・ダンティーンのアレックス・バロス、ドイツで右手のひらを骨折し、その翌週のアメリカGPで残る左手のひらをも骨折したプラマック・ダンティーンのアレックス・ホフマン、アメリカGPの予選で左足首を痛め、夏休み中に骨折していた事が判明したグレッシーニ・ホンダのマルコ・メランドリの4名だが、ホフマンの1名をのぞき、休暇中は順調に怪我の回復が進んだ様子だ。
■3戦を欠場したエリアスはブルノから復帰
オランダGPにおける6月28日のフリー・プラクティス1で大腿骨を骨折し、オランダ、ドイツ、アメリカの3レースを欠場する事になったグレッシーニ・ホンダのトニ・エリアスは、今週行われたブルノに向けてのメディカル・チェックを無事に通過し、今回のブルノからレースに復帰する事が決定している。
エリアスは8月13日の月曜日に、チームメイトのメランドリとともにホンダのCBR600を使っての走行テストを行っており、特にレースをする上でのライディング・ポジションなどに無理がない事から、目標としていたブルノからの復帰を達成する事になった。
エリアスは「まだ回復状況は6割程度で痛みもありますが、今が復帰の時と判断しました。バイクに乗ってみて感触が良かったので嬉しかったです。」とコメントしている。
■メランドリ「ラグナの時に比べれば相当まし」
また、アメリカGP後に左足首の骨にひびが確認されたマルコ・メランドリも、今回のメディカル・チェックをエリアスと共に無事に通過しており、今週のブルノには2名のグレッシーニ・ホンダのレギュラー・ライダーは揃って出場できる事になった。
「足はまだ痛みますが、それでもラグナの時に比べれば相当ましです」とメランドリ。
■バロスの右手の怪我はほぼ完治
ドイツGP以降は2名のライダーが揃って怪我に苦しんだプラマック・ダンティーン・チームだが、アレックス・バロスがドイツGPで負った右手のひらの肉の裂傷はほぼ完治しており、ほぼ完全な体調で今回のブルノにバロスは挑めるようだ。
■ホフマンはブルノを欠場、代役は今年もシルバ
その一方で、アメリカGPのフリー・プラクティス1で左の手のひらを骨折したアレックス・ホフマンは、まだその左手がレースを戦える状態には回復しておらず、今回のブルノは欠場が決定している。
なお、ホフマンの代役には、昨年のチェコGPにおいてホフマンがドゥカティー・ワークスのセテ・ジベルナウの代役を務めた時に、プラマック・ダンティーン側でやはりホフマンの代役を務めていたスペイン人ライダーであるイバン・シルバ(写真右)が、今年のチェコGPでも起用される事になった。
■脱税疑惑報道にロッシがテレビで直接反論
この夏休み中は、イタリアのメディアが大きくバレンティーノ・ロッシの所得申告漏れにまつわる脱税疑惑のニュースを連日取り上げていたが、2000年からの5年間の追徴課税を含めた約181億円の支払い命令をイタリア国税局から通知された事、ならびにイギリスへの住居移転が脱税目的だったのではと大きく報道された件を受けて、ロッシはイタリアの国営放送局であるRAIに反論のコメントを述べており、この映像はイタリア国営チャンネルであるTG1と民放チャンネルのTG5の2局より、8月14日(火)の夜8時よりイタリア国内のファンへのメッセージとして放送された。
■ロッシ「極悪人扱いされていますが・・・」
TG5を運営するMediasetのWebサイトであるTgcomによれば、この日の放送の中でバレンティーノ・ロッシは以下の通りコメントし、意図して所得隠しを行った訳ではない事を主張している。
「まるで今の自分は極悪人(mostro)のように取り扱われていますが、自分の良心はきれいですし、この問題は近いうちに解決します。」とロッシ。
「イタリアの国税局は、おそらくイギリスのような他の国の税務局と意見を合わせる事はしないでしょうね。でも、彼らは僕に八つ当たりするのではなく、双方で話し合って解決の糸口を探る必要があります。」
またロッシは、イギリスは好きな土地だから移り住んだのであり、税の優遇を目的としたものではない事もコメントの中に付け加えている。
■ヤマハがニューマチック・バルブを投入
今シーズンの序盤は宿敵となったドゥカティーの圧倒的なエンジンパワーに苦しんだバレンティーノ・ロッシとフィアット・ヤマハだが、上りストレートでの馬力が重要視される今回のブルノからは、エンジンまわりの仕様に大きな変更を加えてくるようだ。
イギリスのロードレース誌であるMCN(www.motorcyclenews.com)の8月8日の記事によれば、ヤマハ・ワークスは今回のチェコGP翌日のブルノ合同テストからは、スズキとカワサキに続いてエンジンのバルブ・システムにニューマチック・バルブ(空圧弁)を導入し、トップエンドの出力向上を狙ってくる可能性が高いという。
(★8月18日追記:フリー・プラクティスからの導入と記載しておりましたが、ブルノ合同テストからの誤りでした。謹んで訂正とお詫びを申し上げます。)
■バージェス「今期はバレンティーノのようなライダーが不利」
この記事の中でMCNは、ロッシのチーフ・メカニックであるジェリー・バージェスのコメントを紹介しているので、その内容を以下に引用したい。
「今年の私たちのバイクは絶対的に正しい状態だと言えます。予選で1列目を逃す事はほとんどありませんでしたし、ポールポジションも獲得していますしね。」とバージェス。
「あともう少し出力が欲しいだけです。本当にそれだけですよ。シャシーには問題がありませんし、いい性質が得られていますので、あとはエンジンにほんの微量な追加のパワーがあればいいんです。」
「コイルバネの限界でしょうね。バネを使っている以上、バルブを押し上げる高さには限界がありますが、これがニューマチック・バルブになればさらにバルブを押し上げられるようになるんです。レーシング・エンジンのバルブはより高い開閉度が得られなければ最適な状態とは言えません。」
「要するにこうい事が言えます。各チームが異なるブルブ機構を採用していますが、スピードの面で他のチームの方が私たちより少し有利な状態になっているという事です。ドゥカティーはデスモドロミック・バルブだけで勝っている訳では当然ありませんが、スズキとカワサキがニューマチック・バルブを採用した事で大幅に性能を上げてきた事は否定のできない事実です。」
「私たちのエンジン自体はとてもいい仕上がりなんですよ。予選でのタイムの良さがその素性の良さを示しています。従って、他のチームがストレートでの優れた追い越し性能を使えない部分で、自分たちの力をさらに発揮する必要があるんです。」
「今年はかつてなかった程に、エンジン性能が足りないチームは不利な状況と言えます。コーナリング性能にも差がないので、ライダーにとってはコーナーでの追い抜きチャンスもあまりないからです。他の多くのライダーのマシンが非常に速いので、バレンティーノのようなコーナリング技術の高いライダーにとって、これは非常に厳しい状況ですね。」
「特にレースで長距離を走る場合はエンジン性能が非常に重要な部分を占めます。私たちは素晴らしいライダーとマシンの両方を手にしているのですが、恐らくエンジンに少しパワーが足りないんです。」
■ホンダのサテライト勢は全チームが改良型マシンに?
ドイツGPからはグレッシーニ・ホンダのマルコ・メランドリのマシンには新仕様のエンジンやエキゾーストを含むほぼレプソル・ホンダと同等のワークス仕様パーツ類、カルロス・チェカ(写真上は鈴鹿8耐のピット)のマシンには新型シャシーのみが投入され、コニカミノルタ・ホンダの中野真矢選手だけは昨年の11月のプレシーズン・テスト当時と大きく変わらぬ標準仕様のRC212Vのままで戦い続けるという不均衡な状態が続いていたホンダ・サテライト勢だが、今回のブルノからは全てのチームに新型パーツ類が行き渡るようだ。
■チェカに新仕様エンジン、やっと中野選手にも新型パーツ
現時点において、すでにカルロス・チェカのマシンにはメランドリと同様に新仕様エンジンと新エキゾースト・システム、中野選手のマシンにも何らかの新パーツがいくつか導入されており、両チームのメカニックは、すでに昨晩から新型マシンのセッティング検証を行っている。また、今回から現場復帰したグレッシーニ・ホンダのトニ・エリアスについては、恐らくメランドリと同等のマシンになる事が予想される。
なお、ブルノのレース後には2日間の日程で合同テストが予定されているため、2週間後のミサノまでにはさらに各チームのセッティングは熟成され、シーズン前半はマシンのセッティングに苦しんできたホンダ・サテライト勢が、そろって終盤戦に向けて調子を上げてくる事は間違いないだろう。
■カワサキの伝統カラーが復活
開幕時からシーズン序盤にかけてすでに新技術のいくつかを投入しており、あまり新型パーツ類の投入を今回のブルノではまだ公表していないカワサキとスズキだが、カワサキについては少なくとも今回からチームの全ての印象が大きく変わっている。世界中のファンの熱い要望に応え、昨年までと同じ伝統のライムグリーン・カラーが、ブルノからカワサキに復活した。
今回より、ランディー・ド・ピュニエとアンソニー・ウエストは、伝統のライム・グリーン・カラーに彩られたNinja ZX-RRに乗って、残りのMotoGPシーズンを戦う事になる。
■今期序盤のライムグリーン消滅にファンが大ブーイング
今年からチームの運営母体を自社管轄に移した後、カワサキのMotoGPレーシング・チームは、昨年までのカワサキ伝統と言えるライムグリーンを捨てて、冬季プレシーズン中からやや深めのメタリック・グリーンを採用していたが、このカラー変更については冬季のカラー発表時から世界中のカワサキ・ファンの間で多くの議論が飛び交っており、一部には受け入れられたものの、大多数のカワサキ・ファンの間ではコンセンサスが得られず、ブーイングの嵐が巻き起こっていた様子だ。
■カワサキ「ファンの期待に沿えて嬉しい」
伝統のライム・グリーン復活のいきさつを、カワサキのコミュニケーション・マネージャーであるイアン・ウィーラーは以下の通り説明している。
「シーズン前半戦からマシンの色については世界中のカワサキ・ファンの間で議論が活発に行われてきましたが、一部のファンからは人気を得たものの、大多数のファンは伝統のライムグリーンの復活を望んでいる事が、日本の同僚たちの調べて明らかになりました」とウィーラー。
なお、今回の伝統色復活はバイクのカラーリングだけではなく、ホスピタリティーを含むレース用のトラックやピットの内外装の全てに及んでおり、カワサキのスタッフは夏休み中に色変更だけでもかなりの作業量をこなす事になったとウィーラーは述べている。
「これでカワサキの熱心なファンの方々の希望に沿うことができたので、大変に嬉しく思います。ブルノから伝統色に戻るのは不思議な気分ですが、何かやはり安心感みたいなものを感じますね。」
■ブルノ・サーキットの歴史と概要
チェコ共和国の首都であるプラハから約200km南東に位置しているブルノ・サーキットの現在の全長は5,403メートルだが、過去には全長13.9キロメートルの距離を誇った曲がりくねりの激しい公道コースとして知られていた。1965年には、マイク・ヘイルウッドが当時のチェコ・グランプリを勝利している。
この危険な公道ロング・コースは1977年に10.9kmまで縮小されたが、当時の安全面での基準がクリアできなくなった事から、この年を最後にGPカレンダーからは削除されている。
■現在のコースレイアウトの原形は1987年に完成
その後は長年に渡り大規模な改修が繰り返され、1987年にはほぼ現在のコース・レイアウトに生まれ変わっており、10年ぶりのこの年にブルノは再びGPカレンダーに復帰している。ちなみにその時の最高峰クラスの勝利者は、NSR500を駆って戦ったホンダのワイン・ガードナーだった。
■MotoGPマシンの進化が分かるブルノ
1996年には小さな改修が施されて全長は現在の5,403メートルに落ち着き、以降はコースレイアウトに影響を及ぼすような改修工事は行われておらず、現在に至っている。2ストローク500ccの時代からコースレイアウトに大きな変更箇所がないため、ブルノはMotoGPマシンの性能向上を知るバロメーターにもなっており、MotoGPマシン(4ストローク990cc)が500ccマシンのタイムを昨年までに5秒上回っている事を見れば、技術の進化の度合いが分かる筈だ。
■セパンに次ぐ2番目の全長
なお、ブルノは今年のMotoGPカレンダーの中では、セパンの5,548メートルに次ぐ2番目に長いサーキットとなる。
■今年で38回目のグランプリ開催
現在のコース・レイアウトになってからブルノは今年でちょうど20周年目を迎えており、公道コースの時代を含めれば、グランプリが開催されるのは今回が38回目となる。自然の森林に囲まれたブルノは緑が深く、特に最終区間の美しい景観はライダーにも人気が高いようだ。
■ブルノのコースレイアウトと特徴、最大高低差は73.5メートル
ブルノ・サーキットは中速コースに分類される流れのよいテクニカルなサーキットとして知られており、特筆すべきはその高低差の激しさだ。最大高低差73.5メートルの丘の周りを、多くの高速コーナーと複数のシケインで結んだコースは、真にライダーとメカニック、およびマシンの性能を要求するという。
990cc時代には、各コーナーでの使用ギアは2速、高速の1コーナーだけは3速ギアが使用されていたようだが、コーナリング性能が高く排気量の少なくなった800ccマシンでは、さらに高いギアが使われそうだ。
■エンジンパワーとライダーの技量の両面が重要
上り勾配の激しいストレート部分ではマシンのエンジンパワーが重要視されるが、コース幅が全域にわたり15メートルと広いため、ライダーのライン取りの自由度が高く、ライダーには効率の良いレーシングラインの見極めも必要とされる。さらに最終区間近くなどの上り坂ではマシンの荷重変動が激しいために前輪が簡単に浮いてしまうので、その先にある各シケインの進入に向けては前輪を地面にしっかりと落ち着かせてからコーナリングする必要がある。
■タイヤに厳しいブルノに強いブリヂストン
ブルノの路面はグリップレベルが高くライダーには人気だが、その分上り加速時のリアタイヤや下りのハード・ブレーキング時のフロントタイヤの消耗は激しく、タイヤメーカーにとっても非常に厳しいサーキットだ。
なお、ブルノは過去2年間にブリヂストンが強さを発揮しており、2005年にはドゥカティーのロリス・カピロッシが2位、昨年の2006年には同じくカピロッシが勝利を獲得しており、今回のブルノから前半戦の雪辱を果たしたいミシュランにとっては、ドゥカティー・ブリヂストンが非常に得意とするサーキットでの最初の反撃という、難しい見せ場を迎えたと言えるだろう。
■ブレーキングに強い安定したマシンが不可欠
また、メカニックにとっては上り下りの加速とブレーキングに耐えるバランスの良いマシンのセッティング探しが重要となる。下り坂での追い抜き箇所が多い事から、通常よりもエンジンやシャシーに負担がかかるので、ブレーキングに強く安定したマシンに仕上げる事がメカニックには要求される。
■毎年慎重なライディングを見せる各ライダー
最大高低差の極端に激しく、マシンとライダーに厳しいこのサーキットでは、毎年マシンとタイヤを温存するかのような慎重なライディングを各ライダーが見せる事でも知られている。
■昨年のレース結果
昨年の2006年のブルノでは、2番グリッドからスタートしたドゥカティーのロリス・カピロッシが、ポールポジションからスタートしたキャメル・ヤマハのバレンティーノ・ロッシ以下後続を大きく引き離してトップに立ち、誰にも追いつかれる事のない圧倒的な速さで勝利を手にした。
カピロッシの後方では、王者ロッシとレプソル・ホンダの当時ルーキーだったダニ・ペドロサが接触すれすれの接近戦を展開し、最後までペドロサを抑えきったロッシが2位、ペドロサが3位表彰台を獲得している。
4位はチーム・ロバーツのケニー・ロバーツ・ジュニア、5位はフォルツナ・ホンダのマルコ・メランドリ、6位はホンダLCRのケーシー・ストーナー、7位はリズラ・スズキのジョン・ホプキンス、8位はカワサキの中野真矢選手、9位はレプソル・ホンダのニッキー・ヘイデン、10位はキャメル・ヤマハのコーリン・エドワーズだった。
■ブルノのコースレコード
ブルノのサーキットレコード(990cc)は2006年にロリス・カピロッシが記録した1分58秒157、ベストラップレコード(990cc)は2006年にバレンティーノ・ロッシが記録した1分56秒191。トップスピード記録は2004年にマックス・ビアッジが記録した311.239km/h。
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