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■MotoGPクラスのレース内容
●MotoGP午後決勝
レースウイークの3日間を通して20万1千人の熱狂的な観客が訪れたカタルーニャサーキットにおいて、最終日となった6月10日には11万2千600人のファンが見守る中、グランプリ界の重鎮であるケニー・ロバーツ・シニアに「こんなにハイレベルですごいレースは見たことがない」と言わしめた歴史的名勝負が、MotoGP第7戦カタルーニャグランプリの決勝レースの中で繰り広げられた。
■決勝当日も晴天に恵まれたカタルーニャ
前日の予選までの2日間と同じく、決勝当日のこの日もスペインのモントメロは晴天に恵まれ、レース開始時の気温は31度、路面温度は43度にまで上昇し、ライダーにとってだけではなく、マシンやタイヤにとっても暑くて厳しい過酷な25周のレースが、午後2時のカタルーニャで開始された。ポールポジションは予選で昨年の990cc時代の自身のポールレコードを800ccマシンで上回ったフィアット・ヤマハのバレンティーノ・ロッシが獲得している。
■オリビエ・ジャックは欠場
なお、レースウイーク2日目のフリー・プラクティス3を走行中に5コーナーのヘアピン部分でハイサイドを起こして頭部を強打したカワサキのオリビエ・ジャックは中国とルマンに続き今回もレースを怪我で欠場する事になり、今年のカタルーニャの最高峰クラス決勝は、ジャックをのぞき、チーム・ロバーツのカーチス・ロバーツを含む19人のライダーで争われる事となった。
■ペドロサが好スタート
シグナルが消え、地元期待のレプソル・ホンダのダニ・ペドロサが1列目3番グリッドから好調なスタートを見せて猛加速を開始。同時に2番グリッドのカワサキのランディー・ド・ピュニエが浮かせた前輪を慌てて元に戻し、その横のポールポジション・スタートのバレンティーノ・ロッシがスタート加速にやや出遅れる中、2列目からスタートしたリズラ・スズキのジョン・ホプキンスと、ポイントリーダーであるドゥカティーのケーシー・ストーナーが加速するペドロサに並びかける。
■ポールポジションスタートのロッシは4番手に
カタルーニャの長いホームストレート終端の1コーナーでホールショットを奪ったのはダニ・ペドロサだった。その背後ではもつれ合うように2番手につけたストーナー、3番手のホプキンス、4番手のロッシが1コーナーを抜け、前戦のムジェロで負傷した左ひざの痛みに苦しむド・ピュニエと、3列目からの好スタートを見せたグレッシーニ・ホンダの地元スペイン人ライダーであるエリアスがトップ集団に続いた。
11番グリッドから飛び出して一気に数人を交わしたリズラ・スズキのクリス・バーミューレンは1コーナで集団に飲み込まれて再び後退。
■勢いに乗るチェカをのぞく地元勢
トップで逃げるペドロサを2番手のストーナーが差をつめて通り過ぎた10コーナー、エリアスはマシンを激しく倒し込むとド・ピュニエから前を奪って5番手に浮上し、コース終盤のスタジアム区間を抜ける3番手のホプキンスと4番手のロッシに向けての加速を開始。
最終コーナーをトップのペドロサと2番手のストーナーが僅差で抜け、その後ろから3番手のホプキンス、4番手のロッシ、5番手のエリアス、6番手のド・ピュニエ、7番手にフィアット・ヤマハのコーリン・エドワーズ、8番手にグレッシーニ・ホンダのマルコ・メランドリ、9番手にレプソル・ホンダのニッキー・ヘイデン、10番手にリズラ・スズキのクリス・バーミューレン。
11番手には17番グリッドからの快調な追い上げを見せるドゥカティーのロリス・カピロッシ、12番手にプラマック・ダンティーンのアレックス・バロス、13番手にはバロスのチームメイトのアレックス・ホフマン、14番手にはコニカミノルタ・ホンダの中野真矢選手、15番手にTECH3ヤマハのシルバン・ギュントーリ、16番手にはレースウイークを通して正しいセッティングが得られていない地元スペインのベテランライダーであるホンダLCRのカルロス・チェカが続く。
■カーチス「レースで兄の前を走るのなんて初めて」
さらにその後方には、「兄のロバーツ・ジュニアよりもレースで前を走るなんて初めてだったから緊張した」と後に語るチーム・ロバーツのカーチス・ロバーツが17番手、18番手には予選で苦戦し6列目16番グリッドからスタートしたTECH3ヤマハの玉田誠選手、最後尾の19番手には全てのコーナーで大回り気味になるチーム・ロバーツのケニー・ロバーツ・ジュニア。
■チーム・ロバーツの新型シャシー投入はラグナ・セカを予定
現行マシンのシャシーに根本的な設計不良を前回のムジェロで発見し、改良版の投入は夏休み以降になるとチームが発表していたチーム・ロバーツだが、今回のカタルーニャでチームオーナーのケニー・ロバーツ・シニアは「ラグナから新型シャシーを投入する予定」とコメントしており、母国グランプリからの状況改善には期待が持てるようだ。
しかしながら、いずれにしても今回を含むアメリカGPまでの4戦は、問題を抱える現行マシンのままでチームロバーツが戦わなければならない事に変わりはない。
■ストレートでストーナーがトップに浮上
2ラップ目のホームストレート、最終コーナーから必死で加速するペドロサから余裕で前を奪ったのは、ドゥカティー得意ののストレートパワーを活かしたケーシー・ストーナーだ。1コーナーをトップで走り抜ける最高峰クラス2年目のストーナーを同じく2年目のペドロサが追い、その後方ではロッシが3番手のホプキンスの前に出ようと背後から激しく追い立てるが、各コーナーの深いブレーキングでホプキンスはロッシを抑え込んでいる。
■ホプキンスを交わすのに苦戦し、タイムをロスするロッシ
ファーステストを記録しながらストーナーが先頭で快調に飛ばす3ラップ目の1コーナー、やっとロッシはホプキンスから3番手のポジションを奪うと、距離をあけられた2番手のペドロサに向けての猛チャージを開始。ロッシに交わされて4番手に後退したホプキンスは、その直後に5番手のエリアスからの激しい追撃を受けている。
■ストーナーの背後に迫り寄るペドロサ
コースの前半で若干ペースを落としたペドロサは、残りの各コーナーで激しい挽回アタックを繰り返し、10コーナーの進入付近では完全にストーナーに追いつきその背後につけた。
4ラップ目の1コーナー、ペドロサはストーナーに並びかけるが惜しくも前には出られず、依然として先頭で逃げるのはストーナーのままだ。ペドロサはストーナーから全く離されずに近距離からチャンスをうかがうが、ストーナーは全く背後にすきを見せない。
■ホプキンスに迫るエリアス
トップの2台がやや抜け出してロッシがその差を縮めている最中、5番手のエリアスは何度もホプキンスから前を奪おうと試みるが、ホプキンスはペースを崩さず前方で加速するロッシを追い続けている。
トップのストーナーと2番手のペドロサが僅差で通り抜けた5ラップ目の1コーナー、激しい走りを見せるエリアスがホプキンスから前を奪うが、続く2コーナーに向けての切り返しでは再びホプキンスがエリアスから4番手のポジションを奪い返す。
■エリアスがド・ピュニエの痛い左ひざを直撃
ここでマシンを倒し込みすぎたエリアスは、両輪のグリップを失いそのままバランスを失って転倒しそうになったが、その右側にカワサキのマシンが並んだ瞬間、コーナリング中のその緑色の左ひざに彼のRC212Vをぶつけてバランスを取り戻した。
目が少し出るほどに痛い腫れ上がった左ひざのド・ピュニエは、「何がおきたのか良くわからなかったが、エリアスが左ひざと自分のハンドルにぶつかった」と、その時の驚きをレース後に語っているが、この時点では冷静にエリアスを追い6番手のポジションをキープしている。
「ここでトップ集団との差が少し開いてしまった」とド・ピュニエ。
■エドワーズは今回も「ノーグリップ」
ファーステストを刻みながら3番手を走るロッシの追撃の手が届かないまま、トップで逃げるストーナーの真後ろに各コーナーで2番手のペドロサが何度も迫る6ラップ目、カピロッシがヘイデンを交わして8番手に浮上しする中、カタルーニャのドライ路面に期待していたエドワーズは今回もリアのグリップに問題を抱え、レース開始直後からまったく攻めの走りができないまま10コーナーでヘイデンに交わされて10番手に後退。
■トップの2台に追いつくロッシ
7ラップ目に入ると、先頭で争う2台の背後にはロッシが追いつき、その後ろにはファーステストを記録しながらロッシを追うホプキンスがつけ、トップ集団は4台体制に拡張。5番手のエリアスはハイペースのホプキンスからやや離され始めている。
エリアスの後方には6番手にド・ピュニエ、その1.5秒後方には7番手のメランドリ、8番手にカピロッシ、9番手にヘイデン、10番手にバロス、11番手にバーミューレン、さらに12番手に後退したエドワーズが続く。
■エドワーズの救援策を検討するヤマハ
エドワースはこのレースについて「今日は全くだめ。リアにグリップが最初からなく、基本的にフロントに加重がかけられない状態だったので思い通りに曲がる事ができなかった。今週は全てのセッティングを試し、スプリングもバランスも調整したが何も解決できていない。」とコメントしており、好調なチームメイトのロッシとは対照的に苦しい状況に陥っている事を明かしている。
特にコーナリング時のクラッチワークの面でライディングスタイルがロッシと大きく異なる事を課題とするエドワーズだが、これについてフィアット・ヤマハのチーム監督であるダビデ・ブリビオは「ここまでの過去2戦のデータを分析して、彼に適したパッケージの方向性を見つけたい。そうすれば、予選で見せている彼の実力をレースでも発揮できるようになるだろう」と述べ、エドワーズの走りのスタイルに向けてのマシン調整にも力を入れて取り組む姿勢を示した。
■トップ集団は4台に
8ラップ目に入るとロッシはストーナーを必死に追うペドロサの背後に迫り、この3台は1つの小さなかたまりとなって各コーナを走り抜ける。4番手のホプキンスは少しの間隔を取ってこの3台の争いを見守るかのように追走。
ド・ピュニエがエリアスを交わして5番手に浮上した頃、7コーナー付近でロッシは完全にペドロサと差を削り取ると、前に出るチャンスをうかがい始めた。スタジアム区間に到達する事にはホプキンスが再びロッシの背後に迫る。
■悲鳴を上げるグレッシーニ・ホンダ
ペドロサがストーナーに若干距離を空けられた9ラップ目、シーズン序盤から抱える彼のRC212Vのフロントの飛び跳ね現象に各コーナーで悩まされ始めたメランドリは、8番手のカピロッシからのプレッシャーを真後ろから受けて苦しい走行を続けており、その背後では、今期は中間グループで争う事の多いヘイデン、バロス、バーミューレンの3名が前を競いながら高速コーナーを走り抜けている。
■メランドリ「バイクに自信が持てない」
メランドリはレース後に「今はすごく厳しい状況。チームが全力を尽くしているのに結果が出せない。バイクに自信が持てない。全く思い通りに走れないし、飛び跳ねまくって走るのさえ困難だった。何か根本的な変更が必要な時。」と、今シーズンを予想外に苦しむホンダ勢の中に限って言えば比較的高い位置につけてきたシーズン前半の中で、公式コメントとしては最も厳しいコメントを残している。
■グレッシーニ「危機的な状況。ホンダの対応を求む」
このメランドリのコメントと同時に、グレッシーニ・ホンダのチームオーナーであるファウスト・グレッシーニは「今回は自分の経験してきた中でも一番辛いレースと言える。今の自分たちは危機的な状況にあり、今後高いレベルで戦えるようになるには、ホンダに対応を求める必要がある。ライダーやチーム側が全力を尽くしきっているのは明らか」と苦しい言葉を発しており、同じくホンダのサテライトであり、エンジン性能やマシン全体の調整に関する困難な面について以前からHRCに応援を求めているホンダLCRやコニカミノルタ・ホンダに続き、具体的な救援策を求める意向を公式に初めて示した。
■今期は苦しみ続けるホンダサテライト勢
なお、現状のRC212Vの仕様範囲内でしか改善策が取れていないサテライト勢だが、このレースウイーク中に抜本的なセッティングでの改善策にホンダLCRとコニカミノルタ・ホンダはチャレンジしている。しかしながら、ホンダLCRのマシンは以前よりもフロントが曲がらないマシンになったとチェカが嘆き、コニカミノルタ・ホンダはチャタリングの削減に成功したと公表したのもつかの間、翌日のこの日のレースではいつも通り路面温度の変化に対応できず、期待した効果が得られないまま中野選手はレースでのラップタイムを上げる事ができていない。
■ワークスも同様に苦しい戦い
また、今シーズンを苦しんでいるのはサテライト勢だけでない事は、シーズンが中盤戦に入ったにもかかわらず、まだ一度もホンダ・ワークスが優勝を遂げていない事からも明らかだろう。例外的なRC212Vとの相性の良さをダニ・ペドロサは冬季シーズン中から見せているが、昨年度チャンピオンのニッキー・ヘイデンも、サテライト勢と変わらぬセッティング難から現在も抜け出せていない
■新型シャシーのテストを密かに開始していたホンダ
しかしながら、コニカミノルタ・ホンダのチームオーナーであるジャンルカ・モンティロンが、カタルーニャ入り直後に「近々パッケージ自体の改善が期待できる」とするコメントや、今回のレース後には「手の内のパッケージで努力するべき一時的な期間」との内容を発言している事からも、昨シーズンのヤマハと同様に、ホンダ本体が何らかの大きな動きをシーズン中に見せてくる事は想像に難くない。
実際、このレースウイーク中にダニ・ペドロサだけはHRCが持ち込んだ改良型シャシーを使用している。また、この翌日の6月11日から2日間の日程で開催されているカタルーニャ合同テストにおいては、ニッキー・ヘイデンもこのシャシーをテストしており、何らかの好感触を得ている様子だ。
■ロッシとのブレーキングバトルに敗れペドロサは3番手に
リアタイヤのバランスが崩れ、激しくなった振動とチャタリングにヘイデンが苦しみ始める11ラップ目、ロッシの背後からのプレッシャー攻撃にブレーキングで対抗してきたペドロサは、1コーナーでのロッシとの激しく深いブレーキングバトルに敗れて2番手を明け渡して3番手に後退。ロッシは2番手に浮上するや否や、今期の最大のライバルとなったストーナーへの追撃を開始し、この周回を使って一気にストーナーとの距離を縮めた。
■恒例のストレートバトルが勃発
12ラップ目、ついに今期の開幕戦から勃発した因縁のストレートバトルが、今回のカタルーニャの1キロメートル越えのホームストレートでも再開された。中国まではロングストレートでのドゥカティーの圧倒的パワーに太刀打ちする術を持たなかったヤマハとバレンティーノ・ロッシだが、今回のYZR-M1には中国以降に検証を開始し、前回のイタリアから本格投入したエンジンパーツが組み込まれており、「ストレートでの差は以前ほどではなくなっている筈だから大丈夫」とヤマハ側はコメントしている。
■明らかにストレート性能が改善されたYZR-M1
そのヤマハの期待通り、今回のロッシはホームストレートで加速するストーナーの後ろにつけると全力加速を見せ、やや遅れるもののカタールや中国の時のようにドゥカティーに大きく逃げ切られる事はなく、1コーナーに逃げ込もうとするストーナーにロッシはブレーキングで追いつき、2台はほぼ同時に1コーナーに飛び込んだ。
■トップに躍り出るロッシ
ロッシはストーナーの真後ろに接近し、高速カーブの3コーナーを2台同時に通り抜け、4コーナでさらに距離を奪うと、5コーナーから6コーナーにかけての激しいブレーキングバトルを経てトップに躍り出た。
■ブレーキングに余裕を見せるストーナーが再びトップに
しかしながら、ブレーキを終えてコンパクトに次の左コーナーを曲がるストーナーの横をロッシがつんのめる様に大回りした事で、一瞬にしてストーナーは先頭に返り咲いた。ロッシは背後から迫る3番手のペドロサを抑えると、再度ストーナーへのチャージを開始。
■1分43秒台のハイペースで飛ばす先頭の4台
13ラップ目、トップのストーナーが再びホームストレートで伸びのある加速を見せ、2番手のロッシがまた若干遅れながらそれを追い1コーナーに進入する。3番手のペドロサとホプキンスは激しく前を争うトップの2台から少しだけ引き離されるが、大きく取り残される様子はない。この時点で1分43秒台後半のハイペースをキープできているのはコース上の19台のうち、ストーナー、ロッシ、ペドロサ、ホプキンスの上位4名のみだ。
■ストレートでも迫るロッシ
改良が進んだヤマハのマシンでも、大きく差は広がらないが完全には並走してドゥカティーのストレート加速について行けない事が判明した14ラップ目突入に向けてのホームストレート、ロッシはストーナーの背後に隠れるようにスリップに入り込むと、ドゥカティーのマシンと同時に猛烈で鮮やかな加速を見せる。この間、ロッシは中国とカタールの時が嘘のようにストーナーとの差を近距離内で一定に保ち、1コーナーが近づくにつれその差を縮める事に成功。
■コーナーでも前を譲らないストーナー
3コーナーと4コーナーでの激しい高速コーナリング競争の後の5コーナー、ロッシはストーナーに接近しプレッシャーをかけるが、ふくらんでポジションを元に戻した12ラップ目のような激しいモーションは控えた。トップは依然としてストーナーだ。
15ラップ目のホームストレートを先頭からストーナー、その背後に2番手のロッシ、少し空けて3番手のペドロサが続き、トップ3台からの遅れが見え始めた4番手のホプキンス、5番手のド・ピュニエ、6番手のエリアス、7番手のカピロッシ、8番手のメランドリ、9番手のバーミューレン、10番手のヘイデン、11番手のバロス、12番手のエドワーズ、その後ろには中盤に入るまでペースが落ちずに好調だったTECH3ヤマハコンビの2名、13番手の玉田選手と14番手のギュントーリが続く。
■タイヤの改善が進むダンロップ
ダンロップTECH3ヤマハの2名は、フロントには前回のイタリア戦から投入した新型16インチタイヤ、リアには今回のカタルーニャ戦から投入したワイドサイズの新型リアタイヤを装着しており、この両方の新型タイヤは耐久性でも一貫性の面でも性能が非常に高く、この周回あたりからマシンにチャタリングが発生しなければ、前方のエドワーズとヘイデンをTECH3の2名が揃って捕らえる可能性があった。
■玉田選手「すごい改善状況」、ポンシャラル「ワークスに絡める」
玉田選手は今回のレース内容について「ここまでの今シーズンの中では一番いいレースができた。ダンロップが持ち込んでくれた新しいタイヤはグリップがレースの最後まで一貫していて、ホイールスピンが起きても走りへの大きな影響は出なかった。すごい改善状況だと思う」と述べて満足しており、TECH3のチームオーナーであるエルベ・ポンシャラルは「今のタイヤとパッケージに合わせた正しい作業の方向性が得られているし、バイクの改善も毎回進んでいる。800ccマシンの戦いは以前のグランプリよりも混戦だが、その中でファクトリー・マシンの数台にレースで迫る事もできるようになってきた」とコメントし、ダンロップタイヤの改善状況に高い満足感を示している。
「また新しいタイヤで次戦以降を戦うのが楽しみ。しかも次回のドニントンとその次のアッセンはダンロップとさらに相性がいいからね。」とポンシャラル監督。
■今回初のリタイアが地元勢から・・・
15ラップ目の中盤、ここで今回のレースでは初めての脱落者が地元勢の中から出てしまう。6番手のポジションを好調な走りでキープしていたグレッシーニ・ホンダのトニ・エリアスのマシンにメカニカルトラブルが発生し、ホンダのエンジンからは煙幕のような白煙が噴き出した。
事態に気付いたエリアスは慌ててマシンをコース脇に止めると、名残惜しそうにレースをながめながらマシンを降り、うなだれながらコースを後にした。
■後退を続けるメランドリ
エリアスのリタイア後の16ラップ目、そのチームメイトのメランドリはスズキのバーミューレンに前を奪われて9番手に後退。
17ラップ目に入るとペドロサが再びトップの2名に加わり、4番手のホプキンスが後退した事から18ラップ目にトップ集団のバトルは完全に3台体制となった。1コーナーで3人が完全な団子状態となり次々と2コーナーに向かうその後方では、ヘイデンがバロスのストレートパワーに負けて10番手に後退している。
■高速コーナーで横並びになる過激なトップ2台
ここでトップ2台の争いは急激に激しさを増し、3コーナーの高速コーナーでロッシはストーナーの前に出かけるが、ストーナーをこれを許さず2名は並走状態となり、5コーナーから6コーナーにかけても2台はそのままの状態でトップを奪い合うという、追い抜きポイントなどを無視したハイレベルの戦いが繰り広げられた。
ここでロッシが先頭に立ちバックストレートを加速するが、スタジアム区間を終えた最終コーナーまで必死に追いすがったストーナーが再びロッシとの差を縮めた。ロッシはストーナーを背後に従えてホームストレートに進入、19ラップ目を開始。
■ブレーキングで1コーナーを奪うロッシ
ホームストレートでストーナーはロッシの右側を奪い、1コーナーのイン側入り口に向けて先頭に立つが、高速直線加速の後のどこまでも深い激しいブレーキングの末に最初に1コーナーを奪ったのはロッシの方だ。
■またも高速コーナーで横並びになるハイレベルバトル
ストレートでもロッシから前を奪えなかったストーナーは再びロッシに追いすがり、前回のラップ周回とは逆の立場でストーナーが3コーナー入り口でロッシに並びかける。きれいにロッシのインを奪ったストーナーは立ち上がりの猛加速に入り、ロッシはまたもストーナーに外側から並びかけて2台は並走状態のまま4コーナーに突入。
■ロッシの深すぎるブレーキングと余裕のストーナー
ここでストーナーはロッシから完全に前を奪い先頭に立つが、続く5コーナーから6コーナーにかけての深すぎるブレーキングでロッシがまたトップを奪う。しかしながら、ロッシは12ラップ目と同様にコーナーを曲がりきる事ができず、その横を悠々とコンパクトにコーナリングするストーナーの背後に再びつけて加速を開始。
ひるんだロッシの一瞬のすきをつきたかった3番手のペドロサはロッシの背後に密着するが、怒濤の加速を繰り返しながら大回り気味に各コーナーを曲がりながらストーナーを追うロッシのインにどうしても入り込む事ができない。
■ペドロサを1コーナーで引き離すロッシ
ストーナーが余裕で1コーナーに向けての加速に入った20ラップ目のストレート、ペドロサは2番手のロッシの真横に並びかけて前に出るが、ロッシの一体どこまでブレーキを遅らせるのか分からない高速での1コーナー進入にペドロサは慌ててブレーキレバーを握り、元の3番手に。
■最終コーナーでロッシが再び先頭に
ロッシが再び背後に迫っている事を知るストーナーは、何度もロッシが抜き所として使用している4コーナー、5コーナー、6コーナーにかけて完全にインを閉める精密なライン取りを敢行するが、スタジアム区間で少しミスを犯した事で再び最終コーナーをロッシに奪われてしまう。
■どうしてもスリップにつきたいロッシ
21ラップ目の突入に向けてロッシが激しくホームストレートでの加速を開始するが、スリップを使わないストレートバトルでロッシに勝ち目はなく、またも1コーナーに最初に進入したのはストーナーの方だ。
高速カーブの3コーナーをストーナー、ロッシ、ペドロサの3台が同じように右に傾きながら連なって加速。ここではロッシは特に無理をする様子を見せずに、2番手のポジションからトップのストーナーを追っている。
■トップ2台の名勝負を間近で楽しむペドロサ
22ラップ目のホームストレート、今回ロッシはストーナーの背後から加速を開始し、スリップを使ってストーナーとの距離を僅差に保ちながら1コーナーに向かうと、深いブレーキングで滑るようにストーナーの前に出た。またもロッシはトップで1コーナーを抜けてレースのリードを開始。必死でロッシに追いすがる2番手のストーナーの背後には、目前で繰り広げられるトップ2名の壮絶なバトルを特等席で楽しみつつ、1区間だけどうしても2名よりも遅れる事からペースを保つ事が手一杯となり、完全に争いに加われなくなった事を悔しがるペドロサが続いた。
■ペドロサ「抜き所に関係なく追い抜き合ってる!」
「2人を見ていて本当に興奮しました。だって普通の抜き所とは全然関係のない場所で追い抜きあってるんだからね。あれには自分も加わりたかった!」とペドロサ。
■ストレートを逃げ切るロッシ
バックストレートの加速でもストーナーを一切寄せ付けず、そのまま一気に先頭のまま22ラップ目を終えたロッシは再びトップのポジションからリアを揺らしながら最終コーナーを抜け、ホームストレートでの23ラップ目に向けての加速を開始。2番手のストーナーも暴れるリアを抑えながらホームストレートに進入、得意のドゥカティーパワーを炸裂させる。ペドロサもスムーズにコーナーを抜けるとストーナーの背後に続いた。
■激しいブレーキングのストーナー、さらに深く回り込むロッシ
ストーナーはロッシのお株を奪うかのような激しいブレーキングで1コーナーのインに最初に到達したが、ロッシはその外側から回り込んで再びラップ目のリードを開始。高速右カーブの9コーナーでは先頭のロッシと必死にそれを追うストーナーが同時にリアを滑らせ、そこから10コーナーに向けてのバックストレートでの猛烈な加速を揃って開始する中、ペドロサはストーナーとの距離を完全に削り落として3番手のポジションから2人を観察している。
■残り2周、完全に前に出たストーナー
24ラップ目のストレートでストーナーはロッシの前に抜け出すと、ロッシのブレーキングを抑えて再び1コーナーを先頭で通り抜けた。これにより残り2周の開始時点でロッシは2番手に後退し、必死にストーナーを追う。
■トップ5台は5メーカー
ドゥカティーのストーナー、ヤマハのロッシ、ホンダのペドロサに続き、スズキのホプキンス、カワサキのド・ピュニエが順に1コーナーを抜けて行く。
■全てのコーナーで限界ブレーキングを見せるロッシとストーナー
トップの3名は均等に接近したまま、全てのコーナーを限界まで激しく攻め続けている。先頭のストーナーと2番手のロッシのブレーキング中の挙動は舟のようだ。2台はバイクを傾けるとクリッピングを僅かの差で抜け、次々と迫り来るコーナーで何度も同じ限界ブレーキングを見せつける。
■最終ラップ、1コーナーに逃げ込むストーナー
25周目の最終ラップ、ホームストレートをこれまでよりも鋭い加速でストーナーが通過し、ロッシはスリップに入る事ができずに差をストーナーに少し空けられてしまう。先頭で最後の1コーナーに進入したのはストーナーだ。必死のロッシ、観戦状態のペドロサがそれに続く。
■ポイントを全部押さえるストーナー
激烈加速に入ったトップの2台を追うペドロサは4コーナーで大回りを喫し、最後のバトルが本当に2台に絞られる。ロッシの抜き所としていた5コーナーから6コーナーにかけてトップ2名は並走状態になるが、ロッシは前に出る事ができない。左から右への切り返しの8コーナーでも、それに続くバックストレート前の9コーナーでも、ストーナーは背後から迫るロッシを完全に抑えて付け入るすきを与えていない。10コーナーでもロッシは前に出れない。11コーナー、12コーナー、13コーナーまでその状態は続き、最後のホームストレートでの激しい立ち上がり加速をストーナーは背後のロッシに見せつける。
■ストーナーが誰にも文句を言わせない今期4度目の勝利
興奮したメインスタンドの観客の前で最初にチェッカーを受けたのは、もう直線番長とは誰にも呼ばせない、真紅のドゥカティーに乗るケーシー・ストーナーだった。今期4勝目をあげ、満足げにウイニングランを開始したストーナーの背後からは0.069秒差でポール・トゥー・ウインを逃したフィアット・ヤマハのバレンティーノ・ロッシが近づき、お互いの健闘を称え合う握手を交わした。
■負けてもファンサービスを忘れないロッシと、淡々と勝つストーナー
ロッシはその後、まるで優勝したかのようにバーンナウトやウイリーでの走行を繰り返したが、本当に優勝したストーナーの方は誰よりも早くさっさとパルク・フェルメに戻り、歓喜に沸くドゥカティーのスタッフからの熱烈な歓迎を受けている。
■ストーナー「ヨーロッパでも勝てるでしょ?」
全ての観客を魅了する激しい走りで堂々とロッシを抑え、今回の勝利を手にしたストーナーは「ヨーロッパで自分たちが勝てないと言った人たちの間違いを今回も指摘する事ができましたね。ブレーキまわりのセッティングの良さが今回はすごく役に立ちました。だからバレンティーノは自分を抜くときに常に大回りになってしまい、何回でも彼を抜き返す事ができたんです」とコメントし、トップスピードだけではなく、ドゥカティーの高いブレーキング性能が今回のレースにおける優位性だった事を明かしている。
ドゥカティーMotoGPチームの監督であるリビオ・スッポは、「ケーシーは今回も信じられないほどの才能を証明した。彼のスピードではなく、彼という人物をチームに迎え入れる事ができた事実を誇りに思う」と述べ、今回のストーナーのスマートな走りと才能を賞賛した。
■ロッシ「今日のストーナーは神」
また、そのブレーキングでもストーナーに抑えられる事になったバレンティーノ・ロッシは、「勝てなかった事には落ち込んでいますが、あれだけの戦いを素晴らしいファンの中でできた事は感動的です。残念ながらスタートでは出遅れてホプキンスを交わすのに時間をロスしてしまいました。彼のブレーキングもすごいですからね。その後はストーナーとのすごいバトルでしたが、正直、勝ちたくてもあれ以上に攻める事なんて不可能です。ただ、今後何を改善していけばいいのか分かったので、今日の経験は素晴らしかったですね。ここでは過去に何回も勝ってるし、今日も勝ちたかったのですごく残念で悲しく思いますが、今回はあれ以上は無理でした」と、この日の敗北を素直に認めながらも、戦いの内容は素晴らしかったとするコメントを残している。
ロッシはコメントの最後に「ストーナーに勝てる事は分かっていますが、今日の彼は神のような走りでした。彼は素晴らしいライバルです。彼に祝福の言葉を贈りたい」とつけ加えている。
■ヤマハ「あのバトルで勝てないとは奇妙な感覚」
フィアット・ヤマハのチーム監督であるダビデ・ブリビオは「あれだけすごいレースで勝てないなんてね。おまけにバレンティーノさながらに戦うライダーも現れて、何とも奇妙な気分です。バレンティーノは全力を出し切ったのに、今日のストーナーには勝てなかった。」と、今シーズンの強敵の台頭を不思議な感覚で受け入れる気持ちを言葉にした。
■ペドロサは地元の期待に応える表彰台
地元期待のレプソル・ホンダのペドロサは、激しいトップ2名のバトルから全く遅れる事なく0.3秒の僅差でチェッカーを受け、母国スペインでの3位表彰台を無事に獲得した。
「最後までねばって、なんとか2名と戦う方法を見つけたかったですね。でも十分に近づく事はできたと思います」とペドロサ。
■だんだん贅沢になるリズラ・スズキ
「トップ5に入れたのは嬉しいけど、自分はもっと上を狙いたいんだ!」とコメントするリズラ・スズキのジョン・ホプキンスは、トップ3名から約7秒遅れの4位でコントロールラインを抜けている。
リズラ・スズキのポールデニング監督は、4位に満足できなくなった自分にジレンマを感じながら「これはホプキンスやクリスへの期待が高くなった証拠だね」とコメント。
■カワサキ絶賛、ド・ピュニエ「呼吸するのさえ厳しい」
さらにそこから10秒遅れてカワサキのランディー・ド・ピュニエがMotoGPクラスでの自己最高位となる5番手でチェッカーを受けた。高々とフロントを上げてゴールしたド・ピュニエを、カワサキのスタッフは「ビアッジ並に高いウイリーだった」と表現している。「今は(痛みで)呼吸するのさえ難しいけど、今日のこの結果は本当に嬉しい!」とド・ピュニエ。
ムジェロで負った左足の怪我とルマンで負傷した右の鎖骨の痛みに苦しみながらも、レースウイークを通して好調な走りを見せ、レースで5位の好成績を獲得したド・ピュニエに対し、カワサキのコンペティション・マネージャーであるミハエル・バルトレミーは、「レースウイーク中、彼はヘルメットを脱ぐたびに苦痛の表情が濃くなっていたにもかかわらず、今回のレースでは一貫したペースを守り、エリアスとの接触にも慌てなかった。最後にはカピロッシとバーミューレンに追いつかれるかと思ったが、彼は2名が背後に迫っているのを知るとリズムを取り戻し、最後までその差をキープして見せた。ドピュニエは新生カワサキに高い最高位をプレゼントしてくれた。」と絶賛している。
■カタルーニャGPレース結果
以下にカタルーニャGP決勝レースの結果を示す。
1) ケーシー・ストーナー AUS ドゥカティ・マルボロ デスモセディチ GP7 43分16秒907(25周)
2) バレンティーノ・ロッシ ITA フィアット・ヤマハ・チーム YZR-M1 43分16秒976(25周)
3) ダニ・ペドロサ SPA レプソル・ホンダ・チーム RC212V 43分17秒297(25周)
4) ジョン・ホプキンス USA リズラ・スズキ・MotoGP GSV-R 43分24秒721(25周)
5) ランディ・ド・ピュニエ FRA カワサキ・レーシング・チーム ZX-RR 43分34秒760(25周)
6) ロリス・カピロッシ ITA ドゥカティ・マルボロ デスモセディチ GP7 43分36秒316(25周)
7) クリス・バーミューレン AUS リズラ・スズキ・MotoGP GSV-R 43分36秒402(25周)
8) アレックス・バロス BRA プラマック・ダンティーン デスモセディチ GP7 43分41秒769(25周)
9) マルコ・メランドリ ITA ホンダ・グレッシーニ RC212V 43分41秒870(25周)
10) コーリン・エドワーズ USA フィアット・ヤマハ・チーム YZR-M1 43分52秒255(25周)
11) ニッキー・ヘイデン USA レプソル・ホンダ・チーム RC212V 43分53秒208(25周)
12) 玉田誠 JPN ダンロップ・ヤマハ・Tech3 YZR-M1 43分55秒627(25周)
13) アレックス・ホフマン GER プラマック・ダンティーン デスモセディチ GP7 43分57秒841(25周)
14) シルバン・ギュントーリ FRA ダンロップ・ヤマハ・Tech3 YZR-M1 44分01秒306(25周)
15) 中野真矢 JPN コニカミノルタ・ホンダ RC212V 44分11秒010(25周)
16) ケニー・ロバーツJr USA チーム・ロバーツ KR212V 44分16秒562(25周)
17) カルロス・チェカ SPA ホンダ・LCR RC212V 44分19秒222(25周)
18) カーチス・ロバーツ USA チーム・ロバーツ KR212V 44分20秒229(25周)
-) トニ・エリアス SPA ホンダ・グレッシーニ RC212V 24分23秒184(14周)
・決勝時の気温は31度、路面温度は43度、湿度は13%。路面状況はドライ。
・カタルーニャのサーキットレコード(990cc)は2006年にN.ヘイデンが記録した1分43秒048
・カタルーニャのベストラップレコード(800cc)は今回の予選でV.ロッシが記録した1分41秒840
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