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2007年5月26日
ミシュランタイヤがMotoGP(WGP)最高峰クラスでの10年以上もの連続勝利を誇っていた本拠地フランスのルマンサーキットにおいて、5月20日に行われたフランスGPで今年の最高峰クラスの表彰台を独占する圧倒的勝利を飾ったのは日本のブリヂストンタイヤだった。
ここでは、ブリヂストンの今回の勝利の要因と、地元フランスで敗者となったミシュランの言い分、ならびにブリヂストンの2輪スポーツ推進リーダーである山田宏氏のルマンでの勝利後のインタビューなどを紹介する。
■フランスでも止まらなかったブリヂストンの勢い
トルコのイスタンブールサーキットと中国の上海サーキットという、かつては勝利を収めた事のない苦手意識を持つサーキットで歴史的とも言える圧倒的な勝利を過去2戦で記録し、ミシュランが地元の意地をかけて挑んだ前回のフランスでも、ブリヂストンの今期の勢いは止まらなかったようだ。
■トルコと中国に続く圧倒的な勝利
結局、ミシュラン優位と囁かれたルマンで表彰台を獲得したのは、雨の中を危なげなくハイペースで走りきり初優勝を遂げたリズラ・スズキのクリス・バーミューレン、2位は今期からブリヂストンに履き替えたグレッシーニ・ホンダチームのマルコ・メランドリ、3位は今期のブリヂストンの勢いを加速しているポイントリーダー、ドゥカティーのケーシー・ストーナーの3名、言うまでもなく全員がブリヂストン・ユーザーだった。
表彰台に上った3名以外にも、レースの序盤にロッシを交わして先頭に立ち、惜しくもレインタイヤに履き替える前に転倒したフランス地元ライダーであるカワサキのランディー・ド・ピュニエや、5位を獲得したプラマック・ダンティーンのアレックス・ホフマンなど、今年のルマンはブリヂストンユーザーの活躍が目立った。
■ブリヂストンは開幕からの5戦で4勝
ブリヂストンはシーズン開始5戦目にして、ケーシー・ストーナーの3回と、今回のクリス・バーミューレンの1回という、合計4回の勝利をすでに手にしている。ちなみに、ブリヂストンの通算勝利回数は、今期のストーナーの3回を含むドゥカティーの9回、玉田誠選手の2004年のホンダ時代の2回、および今回のスズキの1回の合計12回。
■通算12回の勝利のうち、レインでの勝利は今回が初めて
冬季シーズン中から、今年初めてブリヂストンタイヤを経験したライダーの多くは、口を揃えて今期のレインタイヤの仕上がりを「ドライのように不安感なく走れる」と絶賛しており、ドゥカティーのロリス・カピロッシのような以前からのユーザーにも近年はレインタイヤの仕上がりに定評のあるブリヂストンだが、雨のレースで勝利を飾ったのは、通算12回の勝利のうち今回が初めての事だ。
昨年まではそのレインタイヤについても、一部のサーキットでは性能にムラがあるとライダーに指摘される事があり、勝利のチャンスを逃す事も少なくなかったブリヂストンだが、今年はウェットにも自信があるとブリヂストン関係者はコメントしている。
■今回の勝利の鍵となった雨のヘレス合同テスト
特に今回の勝利の鍵となったのは、3月に行われた第2戦のスペインGP翌日のヘレス合同テスト初日の雨だという。MotoGPクラスの全チームが参加したヘレスのテスト初日は終日雨となったが、この時に参加したテストライダーを含む19人の中でタイムテーブルのトップ3につけたのは、先頭が雨に強いカワサキのオリビエ・ジャック、2番手はそのチームメイトのランディー・ド・ピュニエ、3番手は雨のフランスで優勝を遂げる事になるリズラ・スズキのクリス・バーミューレンだった。
この時の経験を活かした新開発のレイン・タイヤをブリヂストンは今回のフランスに投入しており、今回の勝利から「現在のレインタイヤの開発の方向性に確かな自信を改めて持った」と、ブリヂストンのモーターサイクルレースタイヤ開発マネージャーである生方透氏は語っている。
■天候の読み間違いを悔やむミシュラン
また、今回地元で惨敗を喫する事になったミシュラン側は、今回の敗北は気象条件の変化の読み違いが全てだったと考えているようだ。
路面コンディションに変化が見られた場合にマシンの乗り換えが可能となるフラッグ・トゥー・フラッグ・ルールが適用され、実際に各ライダーがウェット用マシンに乗り換えたのは今回のルマンがMotoGP史上2度目だが、その1度目となった昨年のオーストラリア戦の経験を参考にした事が今回の敗因だと、ミシュランの2輪モータースポーツ総監督を務めるジャン-フィリップ・ウェーバーは語っている。
■ミシュランは小雨を想定しミディアムを各チームに推奨
今回のルマンのレース後にバレンティーノ・ロッシやヤマハ関係者がコメントしている通り、多くのミシュランユーザーは天候は豪雨になる事なく小雨のまま止むと予測し、ミディアムのレインタイヤを装着したスペアマシンに乗り換えた。この結果、ロッシは豪雨になってからは真っ直ぐに走る事すら難しい状況になっており、各コーナーで大回りを喫して、その度にストーナーやその他のライダーにポジションを奪わる結果に終わっている。
本来であれば、ブリヂストン勢と同様によりソフトなリアタイヤを装着するべきだったのだが、ロッシをはじめとするミシュラン勢が装着したタイヤはあの豪雨の中では少し硬すぎた。
■オーストラリアの再現は失敗に
ルマンでは誤りに終わったこのミディアム戦略は、昨年のオーストラリアではミディアムのレインタイヤに履き替えてから、当時ミシュランユーザーだったマルコ・メランドリが優勝、苦戦していたロッシが3位表彰台を獲得するという、前半のブリヂストン勢優位の体制から一気にミシュランが形勢を逆転して勝利を飾った時の記憶からきているようだ。
「レースの後でタイヤが硬すぎたと言うのは簡単ですが、常にああいう場面ではギャンブルにならざるを得ないのです」とミシュランのウェーバー総監督。
「前回のフィリップ・アイランドではミディアムをその場の判断で急遽選び、それで勝ちましたからね。実際に天気がどうなるかはその時にならないと分かりませんし、あのような豪雨になるとは思いませんでしたが、いずれにしても、ほとんどのミシュランユーザーのためには、もっとソフトなリアタイヤを選ばなければいけませんでした。」
■ミシュラン最高位のペドロサはソフトタイヤを選択
なお、今回のミシュランユーザーの中で最高位だったのは、雨を苦手とする事では有名なレプソル・ホンダのダニ・ペドロサの4位だが、この予想外のペドロサの活躍は、彼の普段からの独特なタイヤ選びが、今回のルマンの路面条件にマッチした事が理由のようだ。ウェーバー氏は以下の興味深いコメントを残している。
「ダニは普段からソフトタイヤを使用するライダーなので、今回の彼は(ミディアムの代わりに)よりソフトなタイヤを選んでいたんです。その結果、彼はウェットを苦手としているのにもかかわらず、今日は非常に速く走る事ができたんです。」
■ブリヂストン山田氏のルマン勝利後のインタビュー
最後に、ブリヂストンの2輪スポーツ推進リーダーの山田宏氏が、レインでの初勝利となったルマンでのレース直後のインタビューに、ブリヂストンの公式リリース内で回答しているので、その全文を紹介する。
●山田さん、開幕からの5戦で4勝目をあげた今のお気持ちをお聞かせ願えますか。
興奮しましたね。レース開始の10分前に雨ですからかなり慌ただしいグランプリになりましたが、最後に私たちのタイヤが勝敗を左右する重要な役割を果たした事を誇りに思います。通常とは異なるレースでしたが、私たちの新開発のウェット用タイヤの高い性能をアピールできて大変に嬉しいです。
クリスとマルコの走りは本当に素晴らしかったですし、それに見合う結果を彼らは得る事ができました。2人は少なくとも他のライダーよりも2秒は速く周回していましたので、それが今回の結果につながったんだと思います。
ケーシーも落ち着いたライディングで3位を獲得し、トップを行く年間ランキングのポイント差をさらに広げる事ができて本当に素晴らしかったです。
●MotoGPのレースでウェットの勝利をあげたのは今回が初めてですが、ウェットタイヤの性能には山田さん自身も驚いているのでしょうか。
私たちは去年からウェットタイヤの開発に多くの時間を費やしてきましたから、その努力が報われる思いですし、本当に満足しています。MotoGPのウェットレースでは以前に勝った事が一度もありませんから、今回の勝利はブリヂストンにとって記念すべき事です。
クリスとマルコとケーシーの後ろに、素晴らしいライディングで5位を獲得したアレックス・ホフマンの姿が見えて、さらにジョン・ホプキンスとロリス・カピロッシがトップ8に入りましたから、全体的に見ても高い結果を残す事になりました。
●ドライ・コンディションだった場合のレースへの見通しはお持ちでしたか。
今回のレースウイークは初日から不安定な気象条件に見舞われましたが、結局全てのプラクティス・セッションはドライ・コンディションでしたから、最初から継続的にドライでのタイヤの評価を進める事ができていました。
初日の1回目のプラクティスは路面が滑りやすかったのでかなり難しい状況でしたし、午後のセッションは小雨に中断されたりもしましたが、最後まで特に作業への大きな影響はありませんでしたからね。
土曜日の午前中にはソフトとミディアムの両方のリアタイヤの評価を終える事ができていましたし、ルマンでの結果には自信を持てる内容が得られていました。
●ソフトとミディアムを比較して大きな性能差はありましたか。
どちらの仕様のタイヤも非常に好調でした。高いレベルのグリップが得られていましたし、耐久性も良く、いいラップタイムが得られています。
土曜日は路面温度の変動が激しく、私たちの測定結果では、午前から午後にかけて20度も温度が上昇していました。この結果、予選のセッションではレースタイヤでもラップタイムが上がりましたし、路面温度に関係なくソフトとミディアムの両方ともに性能上の問題は発生していません。
ですから日曜日はどんな気象条件であろうと、スリックのレースタイヤには自信を持っていました。
●ブリヂストンはスズキチームと2004年から作業を続けていますが、最近の彼らの成績に誇りを感じるような気分になったりしますか。
はい。今年はスズキと4年目のシーズンに突入しましたが、どのグランプリでも毎回彼らが活躍しているのを見れてとても嬉しい気分になります。
ジョンとクリスは昨年にどちらもポールポジションを獲得していますが、今年のスズキ-ブリヂストンパッケージはさらに大きくレベルアップを遂げているのが見てとれますね。それに2人が揃ってこんなにいい成績を残すなんて素晴らしい事です。
ジョンは長年の目標だった表彰台を中国で獲得しましたし、クリスは日曜日のルマンで優勝しましたから、本当に良かったです。
残りのシーズンでもここまでと同様の活躍を彼らができるように、私たちのタイヤが役に立つ事を願っていますが、とにかく今は私たちのタイヤにスイッチしてからの最初のスズキの勝利を祝福したいです。
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