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■MotoGPクラスのレースの内容
●MotoGP午後決勝
5月20日の日曜日にフランスのルマンサーキットで行われたMotoGPクラスの決勝レースは、昨年のオーストラリアGPに続きフラッグ・トゥー・フラッグ・ルールが適用された。
ここでは、地元フランス勢がレース序盤にもかかわらず見せた最終ラップさながらの怒濤の走りと、チームの天候の読みが明暗を分ける事になった近年希に見る白熱のレースとなった2007年フランス・グランプリ、MotoGPクラス決勝レースの詳細内容を紹介する。
なお、全てのライダーや一部チーム関係者のレース後の詳細コメントはこちらの記事を参照の事。
■スペアマシンへの交換が許されるフラッグ・トゥー・フラッグ
2005年から適用されたこのルールは、ウェット宣言がレースの事前になされた場合、またはドライ宣言で開始されたレース中に白旗が振られてドライ-ウェット宣言が途中でなされた場合に、路面コンディションの変化をライダー各々が見計らい、スリックタイヤを履いたドライ路面用セッティングが施されたメインマシンから、レインタイヤを履いたウェット路面用のセッティングが施されたスペアマシンにレース中に乗り換えても良いというルールだ。
■かつては2ヒート制
この通称白旗ルールがなかった2004年以前は、ドライ路面で開始されたレースの途中で路面がウェットになった場合は、先頭を走るライダーの挙手とレース実行委員会の判断により一時的にレース(1ヒート目)が中断され、全員が新しい路面コンディションに適したタイヤやセッティングのマシンに乗り換え、走行中断時の順にスターティング・グリッドに並び直して改めてレース(2ヒート目)をスタートするという2ヒート制が取られていた。
■今年のルマンもフラッグ・トゥ・フラッグ適用レースに
偶然にも、この白旗ルールが施行されてから初めてレースに適用されたのは昨年のフランスGPのルマンだったが、その時には最後まで雨は降る事はなく、路面は実質ドライに保たれ、ピットでクルーたちが不安げな面持ちでスペアマシンを並べる中、誰1人としてバイクを交換するライダーは現れなかった。
■前回のオーストラリアで浮き彫りとなった乗り換えの難しさ
実際にバイクの乗り換えが発生したのは2006年のオーストラリアGPだが、この時には単独トップを走行していたカワサキの中野真矢選手が後続のライダーから築いていた膨大なタイム差を、タイヤ交換のタイミングと履き替えた後のレインタイヤの不調により瞬時に奪われるという初勝利を目前としていたカワサキと中野選手にとっては不幸な事態となった。
このオーストラリアの悪条件のレースで勝利を飾ったのはマルコ・メランドリ、2位は悪条件のレースになると必ずと言っても良いほどに好成績を収めるクリス・バーミューレン、3位はバレンティーノ・ロッシが獲得している。
■レース開始7分前にフラッグ・トゥー・フラッグ宣言
各ライダーがスターティング・グリッドに並び終え、レースが開始される7分前の午後1時53分、ルマンのコースの一部に小雨が通過した事から、今回の決勝がフラッグ・トゥー・フラッグ・ルールの適用レースである事が宣言された。
この時のルマン・サーキットの上空は黒い雲に覆われており、気温は13度、路面温度は16度、湿度は73%だった。
■ギャンブルに出たのは不調に喘ぐロバーツのみ
この時点ですぐにレインタイヤに履き替えたライダーは、マシンの開発の方向性に今シーズンは序盤から苦しみ、前日の2日間のレースウイーク中は「レースでは雨が降って欲しい」と雨乞いにも似た言葉を漏らしていたウェット条件での速さに定評のあるチーム・ロバーツのケニー・ロバーツ・ジュニアただ1人だった。
「ギャンブルに出てみた」とロバーツ・ジュニアは後に語っている。
なお、他の全てのライダーはドライ用のスリック・タイヤを履いたままウォームアップを開始し、レース中の天候状況の変化により作戦を変更するという手段を選んでいる。
■ウォーミングアップ中にマシンの不調に首をかしげるエドワーズ
前日の予選では自身のMotoGP経歴における初のポールポジションを獲得し、ヤマハが得意とするルマンのレースに大きな期待を抱いて臨んだフィアット・ヤマハのコーリン・エドワーズだが、レース開始直前のウォームアップ走行中にはタイヤのグリップが全く得られずに首をかしげている。
エドワーズは昨年のオーストラリアでも今年のヘレスにおける雨の合同テストでも、湿った路面になるとトラクションが全くコーナーで得られなくなるという問題を抱えており、初の勝利にかけるこの日も不幸にしてその例外とはならなかったようだ。
■ルマンのホールショットを奪ったのはストーナー
レッドシグナルが消え、ポールポジションスタートのエドワーズが加速できずに後退する中、6速ギアを用いる超高速の1コーナーに向けて勢いよく前に出たのは1列目2番グリッドからスタートしたドゥカティーのケーシー・ストーナーだった。
ストーナーの後ろには2列目スタートのリズラ・スズキのジョン・ホプキンスが2番手、フィアット・ヤマハのバレンティーノ・ロッシが3番手に続き、難関のオープニングラップの第1シケインに激しいブレーキングで並んで先頭から飛び込んだのはストーナーとロッシの2台だ。
■チャペルコーナーではロッシがトップに
素速く次々と狭いシケインを大勢のライダーが無事に切り返しながら通過し、次に続くコーナーを上っていく中、ブレーキングゾーンのチャペルコーナー入り口でストーナーを抑えて先頭に立ったのはロッシだった。ロッシの背後には2番手のストーナー、3番手のホプキンス、4番手につけたホンダLCRのカルロス・チェカが続く。
■好調のチェカと、突如トップ集団に沸いて出たバロス
コースの中盤区間では、チェカがホプキンスを交わして3番手に浮上し、続けてグレッシーニ・ホンダのトニ・エリアスと5列目から突然上位に浮上してきたプラマック・ダンティーンのアレックス・バロスの2名がホプキンスから前を奪い、さらに続けて背後からホプキンスに忍び寄ったグレッシーニ・ホンダのマルコ・メランドリもバロスに続いてホプキンスを交わした。この結果、ホプキンスは7番手に後退。
■地元勢のギュントーリが8番手に急浮上
さらに次の瞬間、11番グリッドからスタートした直後にはウイリーを喫して13番手にまで後退していたダンロップTECH3ヤマハの地元フランス人、シルバン・ギュントーリも突然ホプキンスの前に入り込んで7番手につけ、ホプキンスは8番手に。
■全く思い通りに走れないポールポジションスタートのエドワーズ
2ラップ目の1コーナーに先頭からロッシ、2番手にストーナー、3番手にチェカ、4番手にバロス、5番手にメランドリ、6番手にエリアス、7番手にギュントーリ、8番手にホプキンス、9番手にレプソル・ホンダのニッキー・ヘイデン、10番手に地元フランス期待のカワサキのランディー・ド・ピュニエ、11番手にドゥカティーのカピロッシ、12番手にプラマック・ダンティーンのアレックス・ホフマン、13番手にリズラ・スズキのクリス・バーミューレン、14番手にダンロップTECH3ヤマハの玉田誠選手、15番手にダニ・ペドロサ、16番手に中野選手、17番手にカワサキの現役SBKライダーのフォンシ・ニエト、18番手にタイヤのグリップが全く得られないエドワーズが続く。
■ニエトは今回の代役参戦がグランプリ100戦目
カワサキのオリビエ・ジャックの代役として出場しているフォンシ・ニエトは、今回のレースは偶然にして彼の小排気量クラス時代の経歴を含めるとグランプリ100戦目になるそうだ。
■雨乞い状態のロバーツ
なお、一刻も早く雨が降ることを願いながらウェットタイヤで走るロバーツ・ジュニアは、全く他のライダーについて行く事ができずに集団の遙か彼方の最後尾を走行している。
■怒濤の追い上げを見せるギュントーリ
7番手につけていたギュントーリの勢いは2ラップ目に入っても止まらず、チャペル・コーナーでグレッシーニ・ホンダのエリアスとメランドリを交わして5番手に浮上、最終コーナーではバロスに交わされたチェカの前も奪って4番手に。ギュントーリが各コーナーから姿を現すたびに地元フランスの大歓声がそれを迎え入れた。
■地元ド・ピュニエも上位に急浮上
勢いに乗るのはギュントーリだけではない。同じく母国GPにかけるカワサキのド・ピュニエも最終コーナーでは既に6番手を行くメランドリの背後の7番手につけており、3ラップ目のメインストレートから1コーナーにかけてはメランドリとその前を行くチェカを一気に交わして4番手のギュントーリの背後の5番手につけた。地元の歓声は地響きのようだ。
バロスがストーナーを交わして2番手につけると、3番手となったストーナーの背後では地元フランス人が4番手のポジションを奪い合い、その争いに背後のチェカも絡む。ここでドピュニエはギュントーリを交わしてストーナーの背後についた。
■序盤にもかかわらずフレンチバトルは最終ラップさながら
最終ラップにおけるトップ争いにしか見えない2人の勢いは全く止まらずに、4ラップ目の第1シケインの進入で2台は並びながらストーナーから前を奪うと、今度は休む間もなく3番手争いを始めた。路面が徐々に湿り気を増す中、危険を避けたい5番手となったストーナーは、前の2台の熾烈なフレンチバトルを背後で警戒しながら見ている。
ここでひるんだストーナーの隙をついてメランドリが5番手に浮上。ストーナーは6番手に後退。
■誰よりも早くウェット用マシンに乗り換えるエドワーズ
「氷の上を走っている気分だった」という18番手のエドワーズはこの段階でスリックタイヤでの走行を諦めピットイン。本降りにはならないと判断したフィアット・ヤマハチームは小雨用のウェットタイヤを装着したマシンをエドワーズに手渡し再びコースに彼を送り出した。
■ド・ピュニエがトップを行くロッシの背後に
バックストレート内のシケインでド・ピュニエはバロスを交わして2番手に浮上、ついにそのまま先頭を行くロッシの前を狙い始めた。ギュントーリは3番手となったバロスの背後につけて2番手のド・ピュニエの後ろに入ろうとするが、簡単にベテランのバロスの前に出る事はできない。
5ラップ目、順位は先頭からロッシ、2番手にド・ピュニエ、3番手にバロス、4番手にギュントーリ、5番手にメランドリ、6番手にストーナー、7番手にチェカ、8番手に急上昇を見せるペドロサ、やや間を開けて9番手のカピロッシ、10番手のホプキンスが順番に1コーナーからシケインに飛び込む。
ヘアピンの1つでストーナーがメランドリを交わして5番手に、ペドロサがブレーキングでチェカのインを奪い7番手に浮上したその直後、ギュントーリは最終コーナーでついにバロスを交わし、ド・ピュニエの背後の3番手に。さらにギュントーリに背後から迫られた2番手のド・ピュニエはトップを行くロッシに絡み始めた。
■ロバーツはギャンブル失敗
いつまでたったも雨が激しく降らない事から、ロバーツ・ジュニアが何の優位性もレインタイヤから得られなくなった6ラップ目、信じられない光景がフランスの観衆のど真ん中で発生する。
■両フレンチが同時にロッシを交わしてワンツーバトルを開始
第1シケインの進入でギュントーリがド・ピュニエに並びかけ、ド・ピュニエは逃げるように加速しながら先頭のロッシを交わし、ギュントーリもほぼ同時にロッシから激しい走りで前を奪った。先頭を行くのは地元フランス人2名となり、ルマンサーキットの興奮は最高潮に達している。続くヘアピンではギュントーリがド・ピュニエから前を奪い、ついにはダンロップTECH3ヤマハのマシンがレースをリードするという前代未聞の事態が発生した。
■先頭を走るダンロップTECH3ヤマハ
トップとしてダンロップカラーのマシンがロッシの前を走り始めたその頃、8番手を争うメランドリとホプキンスが激しく前を奪い合い、5番手にまで浮上したペドロサは4番手を行くバロスの追撃を開始している。
路面が一部で乾いたり湿ったりを繰り返す不安定な状況の7ラップ目、1コーナーを先頭からギュントーリ、その背後に密着する2番手のド・ピュニエ、トップのフランス人2名からはやや距離をおいて様子をうかがう3番手のロッシ、ロッシに接近する4番手のバロス、バロスの真後ろにつける5番手のペドロサ、6番手のストーナー、7番手のチェカ、激しく8番手を奪い合うメランドリとホプキンスが通過して行く。
■カワサキが再びトップに
ホプキンスは低速コーナーで一気にチェカ、ストーナー、メランドリの3名を交わすと7番手に浮上、その直後にはド・ピュニエがギュントーリから前を奪って先頭に立ち、グリーンのマシンが再びレースのリードを開始した。
■ピットインのサインを用意する各チーム
ここで急に雨脚が強まり、各チームからバイクの交換を意味するピットインのサインが次々と出され始める。
■火花を散らすチェカ
7ラップ目の最終区間、再び走りの勢いを増してストーナーとペドロサに並びかけ、5番手に付近に浮上したチェカが先頭集団と共にシケインに進入するが、前方を走るバロスが思いの他早くスローダウンしたためにチェカは逃げ場を失い、まわりのライダーとの衝突を避けるためにイン側に寄ったがスピードを殺しきれずにフロントを失ってロッシの横で火花を散らした。
幸いチェカはいつものように誰も巻き込む事無く、自分が怪我をする事も無くきれいにコースを横切りグラベルに飛び込んだ。マシンのダメージが大きかった事から、ここでチェカは表彰台を狙っていたルマンのレースにおいて無念のリタイアを喫している。
■不安定な路面の中、レースをリードし続ける地元勢
8ラップ目に突入時の順位は先頭からド・ピュニエ、2番手にギュントーリ、3番手にペドロサ、4番手にホプキンス、5番手にロッシ、6番手にメランドリ、7番手にストーナー、8番手にバロス、9番手にカピロッシ、10番手に玉田選手、11番手にヘイデン、12番手にバーミューレン、13番手にホフマン、14番手に中野選手、15番手にエリアス、16番手にニエト、17番手にロバーツ・ジュニア、18番手にすでにタイヤ交換を済ませたエドワーズ。
■ギュントーリは4番手に後退
低速コーナーの入り口でギュントーリはホプキンスとペドロサに同時に交わされて4番手に後退し、ホプキンスはそのまま先頭のド・ピュニエを追った。ギュントーリの背後には5番手のロッシと6番手のメランドリが続く。
■ギュントーリが転倒、事態を覚悟していたポンシャラル監督
雨量が急に増えて路面が水滴だらけになったこの時、ダンロップTECH3ヤマハのチームオーナーであるエルベ・ポンシャラル監督が「ギュントーリの転倒は覚悟していた」という最終区間のシケイン、その悪い予感はあたり、ロッシの目前でギュントーリのマシンは何の予兆を見せる事なく突然ハイサイドを起こして激しく吹っ飛んだ。ロッシは運良くこれに接触する事はなかったが、この時に少しコースを外れかけている。
悔しがるギュントーリはマシンを自力で起こすと、ゆっくりと走ってそのままピットに戻り、ウェット用マシンに乗り換えて再び走行を開始。
■ホフマンとニエトがマシンを変更
ここで初めて4ラップ目のエドワーズに続きウェット用バイクに乗り換えるライダーが現れ、プラマック・ダンティーンのアレックス・ホフマンと、カワサキのフォンシ・ニエトの2名がピットレーンに入る。
■エリアスが激しく転倒
先頭を行くランディー・ド・ピュニエが9ラップ目を開始した頃の最終シケイン、15番手を走行していたエリアスもギュントーリに引き続いて激しく宙を舞いグラベルに飛び込んだ。
ここで背中を強打したエリアスはレースの継続を断念しているが、その後のレントゲン検査の結果、幸いどこにも骨折などの深刻な怪我は見つかっていない。
■ピットインせずに先頭で逃げ続けるド・ピュニエ
ホフマンとニエトがレイン用マシンでコースに復帰した9ラップ目、1人ハイペースで必死に逃げ続けるド・ピュニエの後ろには2番手のホプキンス、3番手のペドロサ、4番手のメランドリ、5番手のロッシ、6番手のバロス、タイヤが温まり急激にポジションを挽回した7番手のカピロッシ、8番手のストーナー、9番手のヘイデンなどが続く。
■マシン交換を目前にしてド・ピュニエも転倒
ここでタイヤの交換を考えながら先頭を走っていたド・ピュニエは、最終コーナー手前のクランクでリアを滑らせ、突き飛ばされたように激しい勢いでグラベルを転がった。ギュントーリに続くフランス人ライダーの転倒に母国の観衆が大きなため息を漏らす中、ド・ピュニエはグラベルの中で肩を痛めて苦しむ姿を見せたが、特に骨折や他の部分の怪我はなかったようだ。
■両フレンチ脱落後のトップはジョン・ホプキンス
先頭集団のホプキンス、ペドロサ、メランドリ、ロッシ、ストーナーの5人が10ラップ目に突入する中、後続のヘイデン、カピロッシ、バーミューレン、バロス、玉田選手、中野選手の6人は、9ラップ目の終盤にピットインし、レイン用マシンに乗り換えている。
■マシン交換のタイミングが遅れたトップ5
10ラップ目、ついにルマンはどこを走っても水浸しの状態となり、スリックタイヤのままさらにもう1周回を行わなければならなくなったトップの5名は、ほとんどマシンを傾ける事なく速度を控えめに走行し、誰も転倒する事無くコース終盤のピットレーンに辿り着いた。
■豪雨にはならないと予想していたフィアット・ヤマハ
この時、雨が降り続く事を予想した他のチームとは異なり、フィアット・ヤマハチームだけはコーリン・エドワーズの時と同じくバレンティーノ・ロッシのマシンにも小雨用のタイヤを装着してコースに送り出している。
■最適なタイミングでタイヤ交換をしていたバーミューレン
8ラップ目にピットインしてマシンを交換したクリス・バーミューレンがトップで最終コーナーに進入した11ラップ目の開始時点、最後にタイヤを交換した5人がコースに再び加わり、1コーナーに向けて先頭からメランドリ、2番手にホプキンス、3番手にペドロサ、4番手にストーナー、5番手にロッシ、6番手にバーミューレン、7番手にヘイデン、8番手にカピロッシ、9番手にホフマン、10番手にバロス、11番手に玉田選手、12番手に中野選手、13番手にギュントーリ、14番手にニエト、15番手にロバーツ・ジュニア、16番手のエドワーズが続いた。ホプキンスはメランドリを交わして再びトップに浮上。
■タイヤの温まらないトップ5名
ここでバーミューレンはタイヤの温まっていないロッシ、ストーナー、ペドロサ、メランドリを交わすと先頭のホプキンスの後方2番手につけ、レースはリズラ・スズキ勢のワンツー体制というかつて見慣れないレース展開に様変わりした。
■ウェット用マシンにトラブルを抱えていた3名
なお、多くのライダーが雨の中のウェット用マシンに好感触を示す中、この時点で3名のライダーはマシンに異変を感じたいたようだ。
トップを行くホプキンスのマシンにはレインセッティングにいくつかの問題が見つかり、その後はペースを落とし始めている。
また、最適なタイミングでマシン交換を行った筈のバロスとカピロッシのデスモセディチはさらに最悪な状況にあり、2人にマシンが手渡された時に正しくレイン用のセッティングが施されていなかったという。この2名は雨天になると他を圧倒する速さで走る事では有名なライダーだが、今回はこのセッティングミスの影響から、ホプキンスと一緒に大きく順位を後退させる事になる。
■ウェット用とは言えなかったカピロッシのマシン
特に致命傷となったのがカピロッシのマシンであり、メカニックのミスによりレイン用のエンジンマッピングがロードされていなかった事から、カピロッシはコーナーでブレーキングを行うたびに転倒しそうになっている。
ドゥカティー・マルボロ・チームの監督であるリビオ・スッポは、この件に関してカピロッシに深い謝罪の言葉を述べているが、最も得意な筈のレイン走行で非常に怖い思いをしたカピロッシの落ち込みは大きかった様子だ。
■リズラ・スズキがワンツー体制に
12ラップ目の1コーナー、調子に陰りの見え始めたホプキンスをバーミューレンが交わし、ついにMotoGPデビュー以降の悪条件のセッションでは、必ずトップレベルの活躍を見せてきたバーミューレンが先頭に躍り出た。
2番手となったホプキンスの後ろには3番手のメランドリがつけ、次の低速コーナーでメランドリがホプキンスを交わし、バックストレート前のヘアピンではホプキンスがメランドリのインを奪い返し、さらに最後のシケインで再びメランドリがホプキンスの前を奪うという激しい2位争いが逃げるバーミューレンの後ろで展開された。
■バーミューレンの追撃態勢に入るメランドリ
13ラップ目に突入するとメランドリが完全に2番手のポジションを確保し、その後ろには3番手に後退したホプキンス、4番手のロッシ、5番手のペドロサ、6番手のヘイデンが続き、1コーナーではストーナーがペドロサとヘイデンのレプソル勢に割って入り6番手につけた。ホプキンスはペースが上がらず4番手に後退し、ロッシは3番手に浮上。
先頭集団はトップのバーミューレン、メランドリ、ロッシ、ホプキンスの4台となり、すこし間隔を開けてストーナー、ペドロサ、ヘイデン、ホフマンの4台がそれに続いた。
■トラブルを抱えたカピロッシの背後に迫る中野選手
ホフマンの後方9番手にはマシンセッティングの不調に苦しむバロスが走行、さらにレイン用セッティングとは言い難いマシンのカピロッシもすでにバロスの後方10番手に下がっており、その後もポジションの後退を続けた。カピロッシの背後にはレインセッティングに好感触を示す中野選手がゆっくりと迫る。
■エドワーズが2度目のタイヤ交換
この時点の最後尾となる16番手を小雨用のレインタイヤで走行していたエドワーズは、ハードレイン用のウェットタイヤに履き替えるべく再びピットイン。コースに戻ってからは少し調子を取り戻り、若干ながらペースを上げていった。
14ラップ目の1コーナーでヘイデンがペドロサを交わし、先頭集団は先頭からバーミューレン、メランドリ、ロッシ、ホプキンス、ストーナー、ヘイデン、ペドロサ、ホフマンの順に。
ホプキンスはヘアピンでミスをしてカーブを曲がりきれずに軽くコースアウトを喫したが、すぐに走行を再開したために大きくポジションを落とす事はなかった。
■絶え間なく雨は降り続きグリップを失うロッシのレインタイヤ
雨が激しくなる一方の15ラップ目、小雨用のタイヤをロッシのマシン装着したフィアット・ヤマハの思惑は大きく外れ、路面に水滴が留まる中でロッシは若干のペースダウンを余儀なくされた。先頭のバーミューレンの1秒後方に2番手のメランドリが迫る中、ロッシはメランドリのペースにはついて行けずにその3秒後方まで後退し、その後もペースが上がる様子は見られない。
16ラップ目に入ると先頭集団は2つに分断され、バーミューレンとメランドリが完全なるトップグループとなり、その後方の第2集団がロッシとストーナーのペアになった。ストーナーの1秒後方にはヘイデン、ホフマン、ペドロサが続く。
■ストーナーがロッシを交わして表彰台圏内に突入
ロッシとストーナーがバランスを失いながらチャペルコーナーを通過した17ラップ目、グリップが得られないロッシはバックストレート中央のシケインでオーバーランを喫し、その隙をついてストーナーが前に出て3番手に浮上。
ロバーツ・ジュニアが周回遅れとなった18ラップ目、バーミューレンの真後ろにはメランドリがつけ、昨年のオーストラリアの再現を狙う。4番手に後退したロッシの0.9秒後方にはヘイデン。
■信じられないハイペースで余裕の走りを見せるバーミューレン
迫るメランドリを振り払うかのように、雨の中での信じられないハイペースを再びバーミューレンが見せつけ始めた20ラップ目、この時点の順位は先頭からバーミューレン、2番手にメランドリ、3番手にストーナー、4番手にロッシ、5番手にヘイデン、6番手にホフマン、7番手にペドロサ、8番手にホプキンス、9番手にバロス、10番手にカピロッシ、11番手に中野選手、12番手に玉田選手、13番手にニエト、14番手にギュントーリ。レースの最初からレインタイヤを履いたロバーツ・ジュニアと、2回タイヤを交換したエドワースは周回遅れとなっている。
ギュントーリも周回遅れとなった21ラップ目、突然の洪水となった路面の上でロッシはストーナーのペースについていけなくなり大きく遅れを取り始めた。
■カピロッシを交わした中野選手が2戦連続の転倒
ニエトと玉田選手も周回遅れの仲間入りをした22ラップ目、カピロッシを交わし、さらにバロスを射程圏内に入れた中野選手が第1シケインでフロントを失い転倒。中野選手に怪我はなかったが、レースの継続はこの時点で断念しており、中国に続く2戦連続のリタイヤとなってしまった。
■ヘイデンも遅れるロッシを交わし4番手に浮上
23ラップ目、ロッシがコーナーで再び大回りを喫し、ヘイデンはそのインをついて4番手に浮上。
■メランドリ「自分の足は短すぎる」
24ラップ目に入るとバーミューレンはさらに快調に飛ばすようになり、「自分は足が短いのでウェットのレースになるとひざがあまりたくさん落とせないからフロントを安定させられない。今回はクリスの番」と述べるメランドリを、1ラップあたり1秒引き離し始めた。
■雨での自分の走りを喜ぶペドロサ
その遙か後方となった5番手のロッシの背後には、ホフマンとペドロサの2名が真後ろにまで迫り、25ラップ目のチャペルコーナーでペドロサはホフマンとロッシの2名を同時に交わすと、一気に5番手にポジションをアップした。「雨でもしっかり走れたので嬉しい」と、ウェット・コンディションが苦手とここまで言われ続けてきたペドロサは語る。
■天候を呪うロバーツのマシンに不幸が
完走すればポイントが獲得できるサバイバルレースとなった26ラップ目、チーム・ロバーツのKR212Vのエンジンがここで突然停止し、忍耐の走りを続けてきたロバーツ・ジュニアは残り2周にして無念のリタイアを喫した。
■4位完走を目前にヘイデンが大クラッシュ
また、ロッシがホフマンにも交わされて7番手に後退した直後、バックストレート内のシケインでアクシデントが発生する。4番手を安定して走行中だったニッキー・ヘイデンが突然シケインの進入直前にマシンごと前方に吹っ飛び、レプソル・カラーのマシンがそのままバリアに突撃してカウルが飛び散った。
この事故で胸を強打したヘイデンは、あと2周を走りきれば4位確実という場面でリタイアとなったが、あばら骨の接合部分の軟骨に若干のダメージはあったものの、主要な骨には一切骨折などの致命傷は見つかっておらず、レース翌日の2日間のテストにも無事に参加を果たしている。
■ヘイデン「マシンが突然試合を放棄した」
なお、今回の転倒に関してヘイデンは「確かにちょっとスピードは出ていたが、ブレーキレバーに軽く触れた瞬間にマシンが試合を突然放棄した」とリタイア後に語っている。
■バーミューレンが大差の初優勝、バロスは最終ラップで転倒
27ラップ目に入るとリズラ・スズキのクリス・バーミューレンはさらに気持ちよくトップを独走して2番手のメランドリを見る間に引き離し、バロスが8番手を走行していたホプキンスを交わそうとして転倒した最終ラップの28ラップ目も難なく走りきって、念願だったMotoGPクラスでの初優勝を波乱のレースの中で手にした。
バーミューレンは水しぶきを上げてのウイリーゴールで自身の初優勝を飾り、リズラ・スズキの2回連続の表彰台をもたらしている。パルクフェルメで満面の笑みを見せるバーミューレン。
■ストーナーはまたも表彰台を獲得
バーミューレンから12秒遅れてチェッカーを受けたグレッシーニ・ホンダのメランドリは2位表彰台を獲得。ポイントリーダーのドゥカティーのケーシー・ストーナーはメランドリから15秒遅れで3位を確保し、開幕からの5戦を通して3回の優勝を含む4回目の表彰台を獲得するという強さを今回も見せつけた。
4位には雨での自身の安定した走行に満足するレプソル・ホンダのダニ・ペドロサが入り、5位はレースウイークを通してセッティングに苦しみ、初日は「今日の事はもう忘れたい」とコメント、2日目には不調のマシンをコンクリートバリアに立てかけて去っていったアレックス・ホフマンが獲得した。
■優勝者以上に喜ぶホフマン
MotoGP経歴上の自己最高位となる5位を獲得したホフマンは、初優勝を果たしたバーミューレン以上の喜びを見せ、コントロールラインを抜けてからチームのピットにマシンを戻すまで派手なガッツポーズのアクションが止まらなかった。
■ロッシ「雨のクリスはマジシャン」
なお、今週はストーナーの前でチェッカーを切りたかった6位のバレンティーノ・ロッシと、初優勝を狙いながらも12位に終わったコーリン・エドワーズの2名が戻ったフィアット・ヤマハのピットは非常に静かだった。
ロッシは「今回はクリスの初優勝とすごい走りを称えたい。雨の時のクリスはちょっとしたマジシャンだね!」と、悪天候で強さを発揮するバーミューレンの勝利を賞賛している。
■フランスGPレース結果
以下にフランスGP決勝レースの結果を示す(全ライダーの詳細コメントはこちらの記事を参照の事)。
1) クリス・バーミューレン AUS リズラ・スズキ・MotoGP GSV-R 50分58秒713(28周)
2) マルコ・メランドリ ITA ホンダ・グレッシーニ RC212V 51分11秒312(28周)
3) ケーシー・ストーナー AUS ドゥカティ・マルボロ デスモセディチGP7 51分26秒060(28周)
4) ダニ・ペドロサ SPA レプソル・ホンダ・チーム RC212V 51分36秒041(28周)
5) アレックス・ホフマン GER プラマック・ダンティーン デスモセディチGP7 51分47秒879(28周)
6) バレンティーノ・ロッシ ITA フィアット・ヤマハ・チーム YZR-M1 51分52秒276(28周)
7) ジョン・ホプキンス USA リズラ・スズキ・MotoGP GSV-R 51分59秒786(28周)
8) ロリス・カピロッシ ITA ドゥカティ・マルボロ デスモセディチGP7 52分19秒954(28周)
9) 玉田誠 JPN ダンロップ・ヤマハ・Tech3 YZR-M1 51分34秒842(27周)
10) シルバン・ギュントーリ FRA ダンロップ・ヤマハ・Tech3 YZR-M1 51分40秒165(27周)
11) フォンシ・ニエト SPA カワサキ・レーシング・チーム ZX-RR 51分50秒572(27周)
12) コーリン・エドワーズ USA フィアット・ヤマハ・チーム YZR-M1 51分06秒769(25周)
-) アレックス・バロス BRA プラマック・ダンティーン デスモセディチGP7 50分05秒770(27周)
-) ケニー・ロバーツJr USA チーム・ロバーツ KR212V 50分16秒009(26周)
-) ニッキー・ヘイデン USA レプソル・ホンダ・チーム RC212V 45分50秒382(25周)
-) 中野真矢 JPN コニカミノルタ・ホンダ RC212V 36分48秒570(20周)
-) ランディ・ド・ピュニエ FRA カワサキ・レーシング・チーム ZX-RR 13分35秒554(8周)
-) トニ・エリアス SPA ホンダ・グレッシーニ RC212V 12分00秒579(7周)
-) カルロス・チェカ SPA ホンダ・LCR RC212V 10分15秒683(6周)
・決勝時の気温は13度、路面温度は16度、湿度は73%。路面状況はウェット。
・ルマンのサーキットレーコード(990cc)は2006年にV.ロッシが記録した1分35秒087
・ルマンのベストラップレコード(800cc)は今回の予選でC.エドワーズが記録した1分33秒616
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