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2008年1月11日
パナソニック・トヨタ・レーシングF1チームは、フルモデルチェンジを遂げた2008年度F1グランプリに向けての新型車両であるTF108の公開式典を、同チームの本拠地として知られるドイツはケルンのテクニカル・センターで1月10日に行い、完成したばかりのTF108を世界のプレスに対して初公開した。
■パナソニック・トヨタF1チームが新型車両のTF108を公開
ここでは、1月10日にトヨタ・パナソニック・レーシンが公開したTF108の外観や主要諸元、ならびに同チームの首脳陣が今回の発表の際にコメントした内容を通じて、トヨタ新型F1車両のTF108に関する技術的な特徴、ならびに2007年モデルからの変更点などを紹介する。
■公開当日、チームの主要メンバーと全ドライバーがケルンに集結
1月10日、パナソニック・トヨタ・レーシング・チームの面々は、その技術本部のテクニカル・センターを構えるドイツのケルンに集結し、昨年に引き続き2008年度の正ドライバーを務めるヤルノ・トゥルーリと、今期から正ドライバーとしてチームに加わった2007年のGP2チャンピオンであるティモ・グロック、ならびに2008年度の第3ドライバーとなった小林可夢偉選手の3名のドライバーが現地で見守る中、シェイクダウンを待つばかりとなった新型車両のTF108を発表した。
2007年のF1グランプリはトヨタにとって決して楽なシーズンとは言えなかったが、昨シーズンのマシンが苦戦を強いられる中、その1年間を通じてトヨタは休む暇なく2008年型マシンの開発を継続し、大幅な性能改善に成功して今回発表したTF108の完成にこぎつけたという。
■最も大きな変更点はロングホイールベース化
パナソニック・トヨタ・レーシングのこの日の発表によれば、TF108は昨年のマシンよりもロングホイールベース化が図られており、これによりさらなる空力特性の改善がなされ、サスペンションレイアウトに関しても大きなメリットが得られた様子だ。
トヨタは風洞テストと様々なシミュレーションを繰り返した結果、TF108のシャシーは昨年度のマシンよりも空力などの面で飛躍的な進歩を遂げており、チームの長期目標として掲げてきたレースでの勝利に向けて、大きく前進する事ができたとの自信を示している。
■標準ECUに向けてリファインされたRVX-08エンジン
また、今回トヨタが改善に取り組んだのは当然シャシーのみではなく、TF108のボディーの下には新開発のトランスミッション、および今期2008年シーズンの新レギュレーションに沿ったワンメイクの標準ECUに合わせて最適化を施したエンジンのRVX-08が隠されている。
■トヨタ技術首脳陣が語るTF108についてのコメントと技術詳細
以下に、トヨタチーム代表の山科忠氏、トヨタ・モーター・スポーツ(TMG)の社長であるジョン・ハウエット氏、シャシー部門の責任者を務めるパスカル・バセロン、エンジン部門の責任者であるルカ・マルモリーニのコメントなどを通じ、トヨタが2002年にF1グランプリへの参戦を開始してから現在までの経験の集大成と言える新型マシン、TF108の開発経緯や技術的な特徴などを紹介する。
■山科忠氏チーム代表「表彰台を狙っていけるマシン」
2008年シーズンもパナソニック・トヨタ・レーシングのチーム代表を務める山科忠氏は、今回発表のTF108はトヨタの長年の夢に一歩近づいたマシンだとコメントしている。
「もちろんわたしたちの最終目標は表彰台の頂点に立つ事です。フォーミュラワンの世界で勝利を記録する事ですが、近いうちにそれを達成したいですね」と山科代表。
「昨年の自分たちの走りには満足できていませんから、2008年の目標が成績を飛躍的に向上させる事であるのは明白です。今年は十分に戦える車が準備できたと思いますので、チームのドライバーたちも安定したポイント獲得、ならびに表彰台を狙っていく事でしょう」
TF108の開発コンセプトを現実のものにできるよう、ここまで開発スタッフは弛まぬ改革への挑戦を繰り返す事を信条とするトヨタの精神に則り、必死の努力を休みなく続けてきたと山科代表は強調する。
「ファクトリーの全員は意欲に溢れており、『kaizen(改善)』に向けての可能な限りの努力を必死に続けています。チームの仕事の成果は目覚ましいものがありますよ。全ての部署間におけるコミュニケーションも大変に円滑であり、これがTF108の開発作業を進める上で大変に役だっています」
「全メンバーが一丸となって働いてくれていますから、本当に満足できる状況です。真のチーム・スピリットを発揮できていると思いますし、このチームが秘める力は大変に素晴らしいものだと自負しています。適材適所の配置がなされていますから、全てにおいて見通しは明るいですよ」
■ジョン・ハウエットTMG社長「重要なのはライバルとの相対性能」
TMG(トヨタモータースポーツ社)の社長を務めるジョン・ハウエット氏は、TF108は昨年のマシンと比較すれば飛躍的な進歩を遂げたマシンだと自負しながらも、他のライバルたちのマシンの進歩と相対的に見た上で、どこまで優位に立てるかが勝負だと語っている。
「2008年に向けての準備は順調に進んでいる様子ですし、これには疑う余地がありません。常に大変な作業が続けられていますからね」とハウエット社長。
「わたしたちはTF108の開発に、TF107が初めてサーキットでの走行を開始したのとほぼ同タイミングに着手しました。開発作業は過酷なものでしたが、フォーミュラワンの激しい戦いの中ですから、それは当然の事です」
「取り組んだ最も大きな課題は、性能向上に影響する主要パーツの改善と、それらの分野への資材のさらなる注ぎ込みでした。車の性能が上がっているのは明白な事実ですし、これは劇的な進化でありさらに今後も開発は続きます」
「しかしながら、これは他のライバルたちの車も同様でしょうから、重要になるのはそれらと相対的に見て実際どれだけ性能を上げる事ができたかです」
「チームの改善に向けての弛まぬ研究努力、ならびに新しいレギュレーションに対応する中で、TF108は以前のマシンとは外観も内側も大きく異なるものとなりました。フォーミュラワンの技術は休みなく進化を続けていますが、チームの設計者たちはそれに遅れる事なく、TF108に目を見張るような変更を加え続けてきました」
「今回の変更個所で鍵となるのはフロントとリアの車軸の距離であるホイールベースをより長く取った点ですね」
■パスカル・バセロン:シャシー部門責任者「パッケージを全面的に最適化」
パナソニック・トヨタ・レーシングのシャシー部門シニアゼネラルマネージャーを務めるパスカル・バセロンは、TF108の車体は、そのロングホイールベース化により独特な空力性能を生み出し、同時にサスペンションレイアウトの観点においても有利な点をもたらしたと語る。
●ロングホイールベース化の理由は剛性の強化と空力特性の改善
「ロングホイールベース化を図った最大の理由は剛性をより高めるためですが、副次効果として空力特性の飛躍的な向上にも期待を寄せています。エアロパーツの表面をより幅広く設ける事ができましたからね」
「この車の開発にあたり、空力特性に関する考え方を大幅に変更しました。TF107はTF106の進化形モデルでしたが、今回の新しいパッケージはトヨタにとっての新しいスタートになると言っても過言ではないでしょう」
「空力設計の主要部分はTF108専用として新しく見直し、パッケージの全てにわたり最適化を行いました。また、機械駆動部についてはすでに強力なベースが仕上がっていたので、その分野にはいくつかのチューニングを施しています」
●性能を引き出せなかった2007年マシンの反省から生まれたTF108
性能向上に向けての考え方として、パスカルは昨年のマシンであるTF107の特性を振り返り、それを分析する形で以下の通りコメントを加えた。
「2007年シーズンは本来の求めていた性能を全体的に発揮するには至りませんでしたし、いくつかのウイークポイントがあったのは否めない事実です。ですから、TF108の開発目標には空力特性と操舵性(ドライバビリティ)の向上を掲げ、2008年シーズンに向けては操縦の範囲がより広がるものにしたいと思いました」
■ルカ・マルモリーニ:エンジン部門責任者「標準ECUの採用は大きな挑戦」
また、今回トヨタが改善に積み重ねた努力はシャシーの分野に限られたものではないようだ。TF108を包むボディー表面の下には、トヨタが2008年に向けて新開発したトランスミッションも横たわっている。
●標準ECUの採用はエンジン技術者にとっては大きな出来事
また、さらに彼らが強調するのは、RVX-08エンジンを今年からコントロールする事になる2008年度のF1規約により使用が義務付けられた標準ECU(電子制御装置)への挑戦だ。トヨタのエンジン部門のシニアゼネラルマネージャーを務めるルカ・マルモリーニは、以下の通り説明する。
「フォーミュラワンのエンジンは全てにおいて最新の自動車エンジンと言えます。多くの機械駆動部でさえ電子制御装置によりコントロールされていますから、これは本当に大きな挑戦になりますよ」とマルモリーニ。
「F1マシンで使用するような高回転エンジンの場合、制御システムが置き換わるなんて事はエンジンそのものに本当に過激な変更が発生する事を意味するんです。今回の新しいECUを適合させるために、開発の観点から見ても本当に大きな投資がなされました」
●エンジンの刷新が禁止された中での限られた努力
ちなみに、エンジン開発の分野は細かな信頼性の向上を目的とした微調整を除き、F1の世界では規約によりすでに凍結されている。しかしながら、マルモリーニやその他のエンジン開発スタッフが2008年に向けて行った作業は決して少なくなかったと彼は強調している。
エンジン開発の分野は、その性能を最大限に引き出すには常日頃の微細な改善努力が大きく影響する世界だ。そのため、エンジンの構成部品は今でも細かな観点から日夜見直しが行われており、エンジン開発の凍結というF1規約はこれらの努力を制限するものではない。
●新ECUに合わせたチューニングが生んだ効果
また今年はトラクション・コントロール機能のない新しいワンメイクECUが全チームに配布された事もあり、各チームのエンジン技術者がパーツの性能向上や最適化に向けての多大な努力を強いられている事は言うまでもない。マルモリーニは続ける。
「これらの作業努力の全てはラップタイムや性能面に良い影響をもたらす結果となりました。ただ、今説明しているのは飛躍的と言えるような大きな改善の話ではありません。わたしたちは自由を奪われたままの状態ですからね」
「わたしたちは非常に限られた取り決め範囲の中でしか作業を行う事ができません。ただ、それでもいくつか面白い開発成果が得られていますし、2008年の成果には期待が持てる状態だと言えます」
■空力パッケージの改善は開幕レースの直前まで続行
この最新の車両を仕上げたパナソニック・トヨタ・レーシング・チームは、野心的とも言える目標を今年は掲げているという。集中的な開発作業はTF108が発表された今後もオーストラリアでの開幕戦となる3月16日まで休む事なく続けられ、最終版と言える空力パッケージが全て揃うのはその開幕レースの時だ。
●開発完了までの遠い道のり
シャシー部門シニアゼネラルマネージャーのパスカル・バセロンは、チームは2008年シーズンに向けての新しい挑戦に向けて万全な状態にあると述べ、以下の通り今回の新車発表についてのコメントを結んだ。
「現在の局面に至るまで、メンバーの全員は必死に頑張ってきました。ただ、本当の意味での作業の完了はまだ遠い先の話です。現在わたしたちは新しい車がサーキットで見せる特性への理解を深める事に集中していくところです。ハンドルまわりのセッティングも必要ですし、開発の方向性を見極めていかねばなりませんからね」
「車の性能を最大限に引き出せるようにするには、シーズンが開幕するまでの間にまだまだ多くの作業が必要ですよ。努力を絶やしている暇などありません」
■トヨタTF108の主要諸元
以下に、パナソニック・トヨタ・レーシングが1月10日に発表したTF108の主要諸元を掲載する。
●シャシー
・モノコック構造:成型カーボンファイバーおよびハニカム構造
・燃料タンク:ATL製安全タンク
・サスペンション: カーボンファイバー製トラックロッドおよびプッシュロッド付きカーボンファイバー製ダブルウィッシュボーン
・ダンパー:ペンスキー製
・ホイール:BBS製鍛造マグネシウム
・タイヤ:ブリヂストン製ポテンザ
・ブレーキキャリパー:ブレンボ製
・ブレーキマスターシリンダー:ブレンボ製
・ブレーキ素材:ヒッコ(前後カーボン製)
・ステアリング:トヨタ製パワーステアリング
・ステアリング表示板:トヨタ製カーボンファイバーホイール、トヨタ/マネッティ・マレリ製計器板
・ドライバーシート:カーボンファイバー構造
・ドライバー拘束具:タカタ
・HANS(首および頭部のサポート)装置:ハバード-ダウニング製
・エレクトロニクス:トヨタ/マネッティ・マレリ マクラーレン・エレクトロニクス・システムズ製ECU(FIAの規定による)
・トランスミッション:7速後退付きギア
・全長:4636mm
・全高:950mm
・全幅:1800mm
・総重量:605kg (ドライバーおよびカメラを含む)
●エンジン
・型式:RVX-08
・気筒数:8
・排気量:2,398cc
・馬力:およそ740馬力
・最高回転数:最高回転数19,000rpm(FIAの規定による)
・バルブ駆動:圧搾空気式
・スロットル駆動:油圧式
・スパークプラグ:デンソー製
●燃料および油脂類
・ガソリン:エッソ製
・潤滑油など:エッソ製
■サーキット・デビューは数日後のヘレス・サーキット
チームは数日後にスペインのヘレス・サーキットに移動し、1月13日にはTF108の初の走行テストを実施する予定だ。シーズンの開幕までにパナソニック・トヨタ・レーシング・チームはその後さらに5回のテストを予定しており、開幕レースまでの過酷な準備作業を続けていく。
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