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2007年11月2日
ついに波乱の800cc初年度となった2007年MotoGPシーズンが、最終戦のレースウイーク初日を11月2日にスペインのバレンシア、リカルド・トルモ・サーキット(通称バレンシア・サーキット)で迎える事になった。また、日曜日の最終戦の2日後には、2008年シーズンに向けての最初のテストもこのバレンシアで行われる予定だ。
ここでは、MotoGP第18戦バレンシアGPの舞台になるバレンシア・サーキットの特徴および地元ライダーであるレプソル・ホンダのダニ・ペドロサによる詳細コース説明、最終戦を前に感傷的になる各チームやライダーの状況やコメント、ならびに昨年のバレンシア戦のレース結果など、今シーズン最後となる新着トピックを紹介する。
■プラマック・ダンティーンがアリーチェ・チームに
来期からライダー体制がトニ・エリアスとシルバン・ギュントーリの2名に変わるダンティーン・チームだが、来期はタイトル・スポンサーがイタリアの大手電話会社であるテレコム・イタリアとなり、チーム名もアリーチェ・チーム(Alice Team)に変わる事が正式に決定している。
ダンティーン・チームの11月1日の公式発表によれば、テレコム・イタリアとの契約期間は2年。バイクはドゥカティー・コルセから提供されるデスモセディチGP8サテライト仕様、タイヤは今期と同じくブリヂストンとなる。
■マシンカラーは真紅?
なお、ドゥカティー・マルボロ・チームのスポンサーだけではなく、F1フェラーリ・チームのスポンサーとしても有名な真っ赤なロゴを持つイタリア・テレコムがタイトル・スポンサーを務める事で、来期のダンティーンのマシンはドゥカティー・ワークスと同じ真紅のマシンに、アリーチェ(Alice)の白地が入るデザインになる事が予想される。
■中上貴晶選手が125ccクラスにワイルドカード出場
日本の2輪ロードレース界のホープ、元全日本125ccクラスのチャンピオンであり、2年間のMotoGPアカデミーとCEV(スペイン選手権)125ccクラスへの参戦を経た中上貴晶(なかがみたかあき)選手が、ついに今週末のバレンシア戦の125ccクラスでグランプリ・デビューを果たす事になった。
中上選手は全日本選手権において名門HARC PROからホンダのRS125Rで戦い、日本人ライダーとしては初となるMotoGPアカデミー生として活動する傍ら、125ccクラスでの全日本タイトルを14歳だった2006年に獲得している。また、今期の2007年は2年目のMotoGPアカデミーでの経験を重ねながら、念願だったスペイン選手権での表彰台も獲得した。今回の125ccクラスの動きには注目が必要だろう。
■新タイヤルールの決定は予選当日の11月3日
今期から施行された31本のタイヤ持ち込み制限などの新ルールが、ブリヂストンとミシュランの大きな性能差を生んだとして数々の波紋を生み出した今期のタイヤ・レギュレーションだが、DORNAはこの対策として提示していた2008年からのシングル・タイヤ・ルール(タイヤ・ワンメイク)の導入案を10月24日に正式に取り下げており、来期のタイヤルールは今シーズンの内容に若干の数値的な変更を加えるレベルの改訂となる見込みだ。
新しい本数制限などを含むタイヤ・レギュレーションの最終決定は、今週末の予選当日の11月3日に開催される臨時のグランプリ委員会の場にて行われる予定となっており、2008年からはレースウイーク前日までのタイヤ持ち込み本数が拡大される見込みだとFIMは伝えている。
■バレンシア・サーキットの特徴
バレンシア・サーキットは、MotoGPカレンダーの中に5つある反時計周りのサーキットのうちの1つであり、最初に世界グランプリを迎えたのは1999年と、まだ比較的に新しい歴史を持つサーキットだ。ここでは、今週末に9年連続してのグランプリ開催の舞台となるバレンシア・サーキットの特徴を紹介する。
■MotoGPカレンダーにおける2番目の低速サーキット
バレンシアはMotoGPバイクでの1ラップあたり最高の平均速度は時速155kmと遅く、今年のグランプリの中では2番目に低速のサーキットとなる。ちなみに、最も低速なサーキットはポルトガルのエストリル・サーキットであり、3番目に低速なサーキットはアメリカのラグナ・セカだ。
しかしながら、バレンシアは低速コースレイアウトと呼ばれながらも、各コーナーに設けられた適切なバンクから非常に流れの良いサーキットとなっており、小回りなコーナリングが小排気量クラスのマシンに比べて苦手なMotoGPマシンを扱うライダーにも人気が高い。
■ライダーの技量が重要視されるバレンシア
バレンシアは5つの右コーナーと9つの左コーナーからなる全長4005メートルのサーキットであり、ストレートはそれほど短くない876メートルを誇る。多くの中低速コーナーが短いストレートでつながるコースレイアウトとなっている事から、ライダーは休む暇なくブレーキング、コーナリング、および加速を連続して繰り返す事になる。身体にかかる横Gは常に大きく、ライダーにとっては体力的に厳しいサーキットだ。
13コーナーの左にループするロングコーナーと、スピードを殺さず高速のまま飛び込む1コーナーが最も大きな特徴とされるこのコースは、幾何学的に描かれたカーブの数々により激しい切り返しを要求するコーナリング重視のレイアウトである事から、マシンのパワーよりも、ライダーのライディング技術がより重要視されるサーキットと言える。
■サーキットの全景を見渡せるスタジアム構造
また、バレンシアは観戦者の立場を中心に考えて設計された近代サーキットとしても知られている。15万人を収容可能な観客席は、特徴的なコースレイアウトぐるりと取り囲み、障害物に視界をほとんど邪魔される事なくサーキットの全景を見渡せる工夫が施されており、モータースポーツの世界選手権が行われる大規模サーキットとしては他に類を見ないゴーカート場を巨大化したような景観を持つ。
このレース観戦者にとって大変に嬉しい空間設計は、1980年代後半の小排気量連続王者であり、アスパルの通称で親しまれ、現在は125ccと250ccクラスの名門アスパル・チームのオーナーであるホルヘ・マルティネス(アスパル)の考案によるものだ。
■セッティングの難易度は低め、馬力が使い切れない低速コース
バレンシアは2速と3速を多用するサーキットであり、そのためミッションまわりのセッティングさえうまく行けば、特にメカニックにとってはテクニカル的に難しいサーキットではないようだ。当然、この2つのギアの調整は非常に重要になるが、セッティングの難易度は決して高くない。
また、他のサーキットと比較して高速と呼べる個所はバック・ストレートとメイン・ストレートの2個所しか存在しないため、MotoGPマシンの場合はスロットルを大きく開ける機会はあまりなく、馬力面に優れたバイクが優位性を維持できる場所でもない。むしろ必要なのはブレーキングと加速を休みなく繰り返すライダーの集中力のようだ。
■ライダーに要求されるのは体力と集中力
マシンのセッティングが容易なバレンシアは、タイヤの選択を間違えなければライダーにとってもそれほど難易度の高いコースレイアウトではないという。しかしながら、短いブレーキングエリアと加速エリアで細かくブレーキとスロットルのタイミングを繰り返し合わせ続けるライダーには体力と集中力が要求され、気力や体力が途切れた場合には高いペースを維持するのが難しくなるようだ。
いずれにしても、ライダーにとってはブレーキングのポイントと脱出加速のポイントにミスを犯さなければ好タイムが比較的容易に狙えるコースレイアウトのため、各ライダー間のタイムに大きな差が生じにくく、毎年接近戦のバトルが期待できる。
なお、タイムを稼ぐ上で非常に重要となるのが13コーナーの左ロングカーブから最終コーナーにかけてのスピードの維持であり、メインストレートに向けて十分な脱出加速を得られたライダーが勝利の鍵を握る。
■路面温度が低く、タイヤ選択も大きく勝敗を左右
バレンシアGPは季節的な関係上、路面温度が毎年低くなる事が多く、マシンの性能差よりもレースでのタイヤ選択が勝敗を大きく左右するという。特に左コーナーが続いた後の右コーナーでは側面のゴムの温度が冷えている事から、転倒を招く事も少なくないようだ。
■ペドロサと一緒にバレンシアを走ろう
今回のバレンシアGPに向けてレプソルYPFは、「ペドロサと一緒にバレンシアを走ろう」と題し、地元ライダーであるレプソル・ホンダのダニ・ペドロサによるバレンシア・サーキットの詳細なコース説明を公開しているので、以下にその全文を紹介する。
■メインストレート〜1コーナー
ストレートはあまり長くありませんが、すごくスピードは出ます。
続いて短いブレーキング・ポイントを経て1コーナーに入りますが、大排気量のバイクではそれほど追い抜きのしやすい場所とは言えませんね。小排気量クラスの場合はいい追い抜きポイントになります。
ここでは3速を使用しますが、普通このコースの高速区間を走り抜ける時には常に3速を使用し、そのまま3速で加速しながら次のコーナーに向かう形になります。
■2コーナー
ここでは1速を使います。長いストレートに続かないので全体的にスピードは控えめですから、だいたいここがいい追い抜きポイントになりますね。
また、この部分は観客席の側ですから、ファンの声援がすごく耳に入る場所です。進入は1速を使い、脱出でギアを上げながら3コーナーに向かいます。
■3コーナー
ここでもまた左コーナーが続きますが、スロットルを緩めないように注意しながら、かつスムーズに走るようにしないとスライドします。そして次は右コーナーです。
■4コーナー
4コーナーが最初の右カーブになりますから、タイヤの側面が冷えていて転倒するケースがこの部分では多いですね。
2速のまま脱出して、スロットルを完全に閉じきった状態で続く右カーブの5コーナーには進入します。
■5コーナー
ここでも2速を使いますが、バックストレートに続く左6コーナーに向けて上る必要がありますから、脱出にしっかり備えた走りが必要な部分です。
■6コーナー〜7コーナー
ここも観客の声援が良く聞こえる部分です。ギアを2回か3回チェンジアップして、バイクにもよりますが4速か5速に入れます。そうしたらバックストレートのブレーキングポイント(7コーナー)に到達です。
■8コーナー
ここのブレーキングも追い抜きがしやすい重要な場所です。走行ラインは限られていますが、それでもミスをしやすいので注意が必要です。
コーナーの脱出時にはギアをチェンジアップします。
■9コーナー〜10コーナー
ここは左カーブ(9コーナー)から右カーブ(10コーナー)に続くシケインです。すごく高速で、ずっとスロットルは開けっ放しですね。右カーブではマシンを傾けたままのブレーキングも必要ですから、このサーキットではかなり危険な場所ですし転倒者も多いんです。
そして、そのまま次のカーブに進入です。
■11コーナー
ここは1速を使うヘアピンですが、特に大きな問題もなく脱出加速に入れます。すぐにギアを3速まで上げて次のコーナーに向かいます。
■12コーナー
ここでギアを2速に戻します。タイトカーブなのにすごくスピードの出る場所ですね。コーナーを脱出したらギアを一気に2つ上げて、次は左ロングカーブの13コーナーです。
■13コーナー
このコーナーは横滑りが激しいですよ。通り抜けたら、次はこのサーキットの最終コーナーです。
■14コーナー
ここは2速で通過しますが、特に大きな問題は発生しない場所です。ただ、マシンには大きく横Gがかかり、コースの外側に押し出されそうな感じになるので、うまくスロットルを操作して可能な限りスピードを殺さないように気をつけてメインストレートに戻ります。
■最終戦を前にした各チームやライダーの状況
今シーズンから来シーズンにかけては、多くのライダーが長年在籍したチームを離れて新天地での活動を予定しているため、今回の最終戦に向けては各ライダーのやや感傷的なコメントが目立つ。
ここでは最終戦のバレンシアGPを前にした各チームやライダーたちのコメントなどを以下に紹介する。
■リラックスして戦いに挑むドゥカティー
今期のタイヤルールに波紋を投げかけるほどの絶好調ぶりを見せたドゥカティー・マルボロ・チームは、昨シーズンの最終戦ではスポット参戦のトロイ・ベイリスとロリス・カピロッシがワンツー勝利を飾ったいい思い出のあるバレンシアに戻っている。
今シーズンの年間チャンピオンとなったケーシー・ストーナーが、初めてドゥカティーのマシンに乗ったのも昨年の最終戦直後のバレンシアだが、この時にストーナーが10回の勝利と合計14回の表彰台を2007年シーズン中に獲得し、日本GPで早々と年間タイトルを決めると予測した人など誰1人としていなかった事だろう。
■スッポ監督「可能な限り最高な形でシーズンを終えたい」
ドゥカティーのチーム監督を務めるリビオ・スッポは、「バレンシアは去年にワンツー勝利を飾った特別な場所。素晴らしかったシーズンを可能な限り最高な形で終わりたい」と今回の戦いに向けてコメントしており、ストーナーの今期11回目の勝利に向けて、2007年度のライダー部門、チーム部門、ならびにコンストラクターズ部門の完全制覇前と変わらぬ姿勢を示している。
■ストーナー「それでも勝ちたい」
また、最高のシーズンとなった2007年シーズンの最後のレースを、自身のグランプリでのレース初勝利を2003年の125ccクラスで果たしたバレンシアで迎える事になったケーシー・ストーナーは、「バレンシアは特別な週末になりそう。タイトル争いはすでに終わっているが、今週末のレースへの意欲は最高潮。全てのレースが自分にとっては重要だし、常に勝利を狙っていく。ただ1つだけ他のレースと異なるのはすごくリラックスできている事。今期は自分の能力に自信を高める事ができたし、今のバイクならどれだけやれるかも分かっている」と述べており、最終戦も当然勝利で飾る構えだ。
■カピロッシ「5年間のドゥカティーでの最後のレース」
ストーナーのチームメイトのロリス・カピロッシは、今回のレースを最後に5年間のドゥカティーでの活動を終え、来シーズンはリズラ・スズキ・チームに移籍する事が決定している。
「このプロジェクトに関わってきた全員にとってバレンシアは特別な週末になる」とカピロッシは語る。
「今回がこのチームでの素晴らしい5年間の最後のレースになる。去年はここでトロイが優勝して自分は2位に入るという素晴らしい経験をしたが、今年も同じような走りを見せたい。過去5年間の素晴らしい思い出があるので今週はとても感傷的になるだろう。もちろん辛い時期もあったが、記憶に残るいい思い出がたくさんある」
「ドゥカティーで最初に表彰台を獲得したのは2003年4月の鈴鹿だった。最初の勝利が2003年6月のカタルーニャ。今年はもてぎでの3連覇も達成できた。これらは素晴らしい経験だった。最高の形でドゥカティーでの最後の仕事を成し遂げたい」
■ロッシのランキング2位だけは死守したいフィアット・ヤマハ
他のチームと同様に、ストーナーのタイトル決定後はすでに来期マシンの開発を見越してマシンの調整を進めているフィアット・ヤマハ・チームだが、バレンティーノ・ロッシは今回の最終戦では間違ってもランキング2位の座を落とす事だけはしたくないと考えている様子だ。
ロッシはすでに年間ランキング3位のペドロサからは24ポイントの差をリードしており、ロッシが今回1ポイントでも獲得すればペドロサは優勝してもロッシを上回る事はできない状態だが、昨年はポールポジションからのスタートに大失敗し、さらには5ラップ目に転倒してヘイデンの逆転タイトルを許すという苦い経験をしているバレンシアだけに、ロッシは決して油断をしない構えだ。
■ロッシ「得意なサーキットなのに去年は最悪だった」
ロッシは1996年から昨年まで、年間ランキングでは必ず2位以上を獲得しており、記録には無頓着なロッシでも、さすがにこの記録だけは保持したいという。
「前回のマレーシアのレースウイークは残念な内容だったが、レース当日にはすべての調子が上がったので自信にはつながった。セパンでは上位グリッドからのスタートがどれだけ大事か十分に分かったから、今回は初日からいい調子だと嬉しい」とロッシ。
「バレンシアは過去にずっと得意なサーキットだったけど、去年の思い出だけは最悪!長くて厳しいシーズンだったが、やっと最後のレースに辿り着いたので、今回はいい週末になる事を願っている」
「何よりもここで勝って、チームのみんなが満足してシーズンを追われるようにしたい。やる気はいつもと変わらずとても高いし、全力で戦いたい。ランキング2位は優勝とは全然違うけど、1996年からランキング2位より下を取った事がない自分にはすごく重要。この記録は維持したいしね」
■エドワーズ「チームが努力を誇れる結果を残したい」
また、来期からTECH3ヤマハに移籍する事が決定しているコーリン・エドワーズにとっては、今回の戦いがヤマハ・ワークスでの3年間の活動の最後のレースとなる。現在はランキング8位の座を2ポイント差のニッキー・ヘイデンと争うエドワーズは、最後のレースはヤマハのメンバーに報いる走りをしたいとコメントした。
「ここまでの2戦は特に厳しかったが、今週の金曜日には新たな気持ちで挑みたい。この選手権の中で勝つ事は容易じゃないが、全てのレースでそれを目標としている。今シーズンにチームのみんなはすごく頑張ってくれたから、最後のレースで彼らが誇れるような結果を残したい」とエドワーズ。
■ブリビオ監督「火曜日からのテストも楽しみ」
フィアット・ヤマハのチーム監督であるダビデ・ブリビオは、すでに2008年シーズンに向けて気持ちを切り替えている様子だ。「2007年の最後のレースだが、火曜日からは来期のテストも始まるし、今からすでに2008年シーズンを楽しみにしている。すでにバイクまわりの作業は来期を見越したものになっているが、この最終戦では高い戦闘力を維持できるようにしたい」とブリビオ監督。
■レプソル・ホンダ、ナンバーワンマシンでの最後のレース
レプソル・ホンダのニッキー・ヘイデンとダニ・ペドロサは、昨年はヘイデンがロッシから逆転タイトルを奪い、最高の思い出の場所となったバレンシアに戻り、新マシンのセッティングに苦しんだシーズン最後のレースでの勝利を狙う。
■ヘイデン「もう最終戦なんて信じられない」
今期はシーズン前半にマシンの不調で苦しみ、まだ一度もナンバーワン仕様のバイクで優勝を決める事ができていない昨年度チャンピオンのニッキー・ヘイデンは、マシンの調子が上がりかけた所で最終戦を迎えてしまった事を悔しいとしながらも、去年の最高の思い出があるバレンシアで、シーズン最後にふさわしい走りを見せる事を誓っている。
「バレンシアでのレースを迎える事になったが、もう最終戦なんて信じられない。今週末はすごく楽しみだが、シーズンがほとんど終わってしまった事を喜べない。過去数戦はいいペースで走れているので、終わるのではなく、新しいシーズンに向かって行きたい」とヘイデン。
「今シーズンは全然自分の思い通りにはいかなかった。もう少し残りのレースがあれば良かったのにね。いずれにしても、去年は最高の思い出の場所になったからバレンシアで走るのが楽しみ。何よりここのコースレイアウトが好き。過去にもいい走りができたサーキットだから、これがシーズン最後のチャンスだと思うし、自分らしい走りができるように頑張りたい」
「ナンバーワンのマシンで走る最後のレースになるから、いつも通り激しく攻めていきたい」
■ペドロサ「今回は全てが噛み合って欲しい」
また、今年3度目となる母国スペインでのレースを楽しみにしているというダニ・ペドロサは、バレンシアはあまり好みのサーキットではないとしながらも、今回のレースウイークを楽しみ、ファンの期待に応える走りがしたいと語る。
「バレンシアは自分のホームだし、シーズン最後のレースだから雰囲気は格別。今シーズン中にいい結果を残す最後のチャンスだから、チーム全員のモチベーションはすごく高い。当然ここでの目標は優勝する事と、レースウイークを楽しむ事」とペドロサ。
「ここ何戦かはいいレースができているが、常に何かしらの問題を抱えている。だから今週は全てがうまく噛み合う事を祈ってるし、チームの頑張りに見合う結果を残したい。」
「サーキットはあまり自分の好みのレイアウトではないが、過去にここではいい走りができているので、自信はかなりある。観衆からの大きな声援は自分を特別な気分にさせてくれるし、レースが本当に楽しみ。今回はファンが喜べるような結果を残したい」
■リズラ・スズキ、ジョンとクリスのデュオはこれで見納め
ランキング4位の座をグレシーニ・ホンダのマルコ・メランドリと揃って争うリズラ・スズキのジョン・ホプキンスとクリス・バーミューレンの2名にとっても、今回のレースがチームメイトとしてシーズン戦う最後のレースとなる。
■ホプキンス「感傷的になりそう」
来期はカワサキに移籍し、水色のスーツを脱いで緑色に全身を染める事が決定しているジョン・ホプキンスは、2003年からの5年間のスズキでの活動を振り返り感傷的になりながらも、今回のレースでは全力を出し切り、スペイン戦では優勝者がウイニングランの最中に花火の火付け役になる事が名物となっているが、今回はその役目を担当したいとコメントしている。
「感傷的なレースウイークになりそうだけど、だからといって気が散る事はない。年間ランキングを可能な限り高い位置で終えたいし、今年のスズキのライダーのナンバーワンになりたい」とホプキンス。
「最高の形でチームのメンバーやスズキに、彼らが今までしてくれた事への大きな感謝の気持ちを示せるようにしたい。バレンシアは雰囲気が最高だし、レースの最後に花火に火をつける役目になりたい!」
■バーミューレン「来期テストに入る前にレースで結果を」
また、来期以降はカピロッシと共にスズキで年間タイトルを狙うとするバーミューレンは、来シーズンの準備をする意味でも、今回の最終戦で高い結果を残しておく必要があるとコメントした。
「まだ今シーズン中にやっておかなければいけない事がたくさんあるし、バレンシアではできる限り高い結果を残しておく事が重要。ここは楽しんで走れるサーキットなので、レース後もテスト作業をここで続けられるのが嬉しい。テストの前の今回のレースは来期に向けての第一歩なので、高い結果が残せるように頑張りたい」とバーミューレン。
■成長したド・ピュニエを送り出すカワサキ
カワサキでの2年間の活動を経て急成長を遂げたランディー・ド・ピュニエは、今回のバレンシア戦を最後にカワサキから離れ、250cc時代の古巣でもあるLCRチームに移籍し、来年はホンダのマシンでMotoGPクラスを戦う事が決定している。
■ド・ピュニエ「カワサキを去る前に表彰台に再度立ちたい」
MotoGPクラス2年目となる今年の日本GPで初の最高峰クラスでの表彰台を獲得しているド・ピュニエは、250cc時代に優勝経験のある得意のバレンシアでは、カワサキでの最後のレースを今期2度目の表彰台で飾りたいと考えているようだ。
「普段の自分は高速サーキットが好きだが、それでもバレンシアは好き。250cc時代には優勝と3位表彰台を獲得しているので、自分との相性はいい筈!」とド・ピュニエ。
「ここまでの3戦はトップ6入りを2回と表彰台を獲得しているし、いい感触が得られているから、カワサキで走る最後のレースとなる今回のスペインでも高い結果が残したい。この2年間を通してチームのみんなとはたくさんのいい思い出があるし、カワサキを去る前にもう一度表彰台に乗りたい」
■激動の1年を過ごしたウエスト「もう馬鹿なミスはしない」
また、今年は250ccクラスとWSSのレギュラー参戦を経て、イギリスGPからはMotoGPクラスのレギュラー・ライダーに抜擢されるという異例のシーズンを過ごし、その後の好調な走りで来期のカワサキのシートも獲得するに至ったアンソニー・ウエストは、最終戦ではセパンの時のようにスターティング・グリッドの位置を間違えて並び、ペナルティーを課せられるような初歩的ミスは犯したくないとコメントしている。
「ここではいい走りがしたい。予選でもセパンと同じくらいにいい結果が狙いたいし、もうここでは馬鹿なミスを犯したくない。シーズンの最後にいい結果が残せたら嬉しい」と、予選での自己最高位である5位をセパンでは台無しにしてしまったウエスト。
■グレッシーニ・ホンダの2名は来期からドゥカティー・ブリヂストン
グレッシーニ・ホンダのマルコ・メランドリとトニ・エリアスは、揃って今回のレースを最後にそれぞれ別のチームに移籍する事が決定している。メランドリはドゥカティー・ワークス、エリアスはアリーチェ・チーム(現プラマック・ダンティーン)と、それぞれにブリヂストンを履くドゥカティーのデスモセディチで戦う事になる。
ちなみに、グレッシーニ・チームは今回のレース後の火曜日から行われる2008年シーズンに向けてのバレンシア・テストに参加する予定だが、この時のライダーは来期の2名のライダー、中野真矢選手とアレックス・デ・アンジェリスがテストを担当する。
■メランドリ「マレーシアの結果が自信につながった」
前回のセパンでは2位表彰台を獲得し、バレンシアでは2005年に優勝した経験を持つマルコ・メランドリは、グレッシーニ・ホンダでの3年間の締めくくりとして今回のバレンシアでは高い結果を残し、チームのメンバーに感謝の気持ちを伝えたいとしている。
「最後のレースでもいい結果を残して今シーズンを終わりたい。マレーシアでは過去にいい結果を残していなかったので、前回の2位表彰台は嬉しかった。バイクにも自分のライディング・スタイルにも合っていないサーキットでの好成績は大きな自信と意欲につながったし、バイクとタイヤのパッケージは完璧だったから、今回のレースウイークにも自信がある。目標はランキング4位を維持する事。そしてファウストとチームのメンバーに3年間の感謝を示す最後のチャンス」とメランドリ。
■エリアス「地元ファンの声援で苦手なサーキットを乗り切りたい」
また、地元スペインでのレースが楽しみだとするエリアスは「スペインのファンの前で走る時は通常以上の力を発揮できる。高速区間が少なくて曲がりくねった特徴のサーキットは苦手なので今回もその特別な力が必要。このサーキットはあまり好きではないが、スペインの観衆の大声援の後押しがあるから大丈夫だと思う」と述べており、苦手とするバレンシアをファンの声援で乗り切る構えだ。
■有終の美を飾りたいコニカミノルタ・ホンダ
期待の大きかった今シーズンを予想外の低迷状態で過ごす事になったコニカミノルタ・ホンダと中野真矢選手は、あまりマシンの性能差が顕著にならないバレンシアでは、タイヤ選択に細心の注意を払って今シーズンの最高位を狙いたいとしている。
■モンティロン「最後にトップ10を」
コニカミノルタ・ホンダのオーナーであるジャンルカ・モンティロンは、「厳しい1年だったが、ついに最終戦に辿り着いた。いくつかの理由により今期の結果は満足できるものではなかったが、だからこそバレンシアではより良い結果を残し、最後のレースでパートナーやスポンサーに満足のいく結果を提供したい」と述べ、中野選手に対しては「チームが良い結果を残せるように、実力を発揮してトップ10付近が狙えるように頑張って欲しい」とコメントした。
■中野選手「最後にいい結果を残せると信じる」
来年はグレッシーニ・ホンダ・チームでカワサキ時代と同じブリヂストン・タイヤを履く事が決定している中野真矢選手は、最終戦に向けて「チームと自分の両方が、特別な形で最後のレースを終えられる事を願っていると思う。バレンシアは挑戦しがいのあるコーナーがいくつもあって、楽しめるので大好きなサーキット。前回のマレーシアとは大きく異なりここは路面温度が低いので、レースに向けてはいいタイヤを見つける必要がある。コニカミノルタ・ホンダ・チームの全員にとって難しい1年だったが、今週のバレンシアでは何かいい結果が残せると信じている」と、苦しかったシーズンの最後をいいレースで締めくくりたいとの気持ちを示した。
■ベルナルデッレ「いい結果を残し、自分たちの状況を改善したい」
コニカミノルタ・ホンダの技術責任者であるジュリオ・ベルナルデッレは、「バレンシアではミシュランからいいタイヤが提供される事を祈っている。それがあれば、シーズン最後のレースをいくらかいい結果で終える事ができるようになる筈。今週はいい仕事ができるチャンスに恵まれる事を願っているし、その結果、自分たちの状況が良くなる事を望んでいる。今回はシーズン最後のレースだから、チームの全員が良い結果を望んでいる」とコメントし、来期はチームスコットと合流する事になりそうなJiRの状況改善に向けての希望を述べている。
■ホンダLCR、チェカのグランプリ最後のレース
コニカミノルタ・ホンダ・チームと同様に、ミシュランを履くホンダのRC212Vのセッティングに苦しむ1年を過ごす事になったホンダLCRのカルロス・チェカは、今回のレースを最後にMotoGPを離れ、テンケイト・ホンダ・チームから来期のSBKにフル参戦する事が決定している。
■チェカ「グランプリ最後・・・でも先の事は分からない」
グランプリでの最後のレースを前にチェカは「公式的に見解を述べれば、今回がMotoGPでの自分の最後のレースになるが、将来に何が起こるかは誰にも分からない。いずれにしても、自分のグランプリ経歴の最後を、みんなのためにもいい感触で終われるようにしたい。今回はLCRチームのためにも、友人やサーキットに応援に来てくれるファンのためにも、自分にとっての特別なレースになる。ここでのプレシーズンテストは好調だったし、マシンの馬力に左右されにくいサーキットだから、最高の走りでトップ10入りを果たしたい」と述べ、グランプリ最後のレースを地元ファンの前でいい形で終えられるように頑張る姿勢を示した。
■昨年のバレンシアGP概要
最後に、昨シーズンのバレンシアGPの結果を簡単に振り返っておきたい。昨年は1戦前のエストリルでポイントリーダーだったニッキー・ヘイデンがチームメイトのダニ・ペドロサの追突を受けて転倒し、再びポイントリーダーとなったロッシが8ポイント差のランキング2位に下がったヘイデンと年間タイトルを争うという、非常に緊張感の高い最終戦だった。
■ポールポジションはロッシ、タイトルは絶望と見られたヘイデン
予選でバレンティーノ・ロッシはポールポジションを獲得し、2番グリッドはドゥカティーのセテ・ジベルナウの代役参戦となった当時SBKタイトルを決めたばかりのトロイ・ベイリス、1列目最後の3番グリッドは同じくドゥカティーのロリス・カピロッシが獲得。エストリルでの転倒による肩の骨折をひた隠しにするヘイデンは2列目5番グリッドとなり、ロッシにスタートから逃げ切られた場合、ヘイデンの逆転タイトルはかなり難しい状況になると多くが予想していた。
■レース開始直後にロッシがまさかのウイリー
ところがレース開始直後、ポールポジションのバレンティーノ・ロッシはスタートに大失敗してフロントを浮かせながら失速、ポジションを一気に7番手付近に後退。ホールショットをSBKチャンピオンのベイリスが奪い、その背後の3番手にはカピロッシ、4番手にはヘイデンのアシストを誓うペドロサ、5番手にはホンダLCRのケーシー・ストーナーを交わしたヘイデンが続いた。
■今期のストーナーを思わせる走りのベイリス
レース序盤から先頭のベイリスは怒濤の猛ダッシュを見せ、レギュラー・ライダーであるカピロッシはそれを追走しようと試みるが、絶好調のベイリスからは見る間に引き離されて一時的に5番手までポジションを落とす。
■強引にまわりのライダーから前を奪おうとするロッシ
3ラップ目に、エストリルでヘイデンに怪我を負わせたペドロサは背後のヘイデンに足を出して前に出るよう指示。ヘイデンはトップを猛進するベイリスの背後となる2番手につけ、後方7番手のロッシはやや強引に他のライダーをかき分けながらポジションを上げようとの焦りが見える必死の走りを繰り返す。
■焦りすぎたロッシが転倒、順位は最後尾に
先頭の3台が集団を抜け出し先を急ぐ5ラップ目、ヤマハのスタッフが目を覆う惨状がスクリーンに映し出された。バーミューレンの前を走行していたロッシが左カーブで転倒し、ロッシのマシンはゆっくりとアスファルトを滑りながらグラベルに飛び込んだ。
ここでロッシは走行を再開するものの、順位は最後尾となる20番手に後退。カピロッシが順位を挽回して2番手に再浮上した事でヘイデンは3番手に後退するが、トップ3の順位がこのままであれば、ロッシは8番手以上のポジションに復帰しない限りタイトルを決める事ができず、ヘイデンの逆転タイトルが決定してしまう。
■ロッシは後方から怒濤の追い上げ、3番手で様子を見るヘイデン
ドゥカティーの2台が快調に飛ばす後ろでヘイデンがその様子をうかがいながら3番手を走り続ける10ラップ目、ロッシはここでポイント圏内の15番手に復帰し、残り6ラップの段階ではさらにポジションを2つ上げて13番手に浮上。
■ヘイデンの逆転タイトルが決定
ロッシの必死の走りもむなしく、順位は変わらないまま周回は最終ラップを迎え、ここで最初にチェッカーを受けたのは、レギュラー・ライダー時代には一度も優勝していないにもかかわらず初めて履いたブリヂストンタイヤで圧倒的な勝利を飾ったドゥカティーのトロイ・ベイリス、2位は同じくドゥカティーのロリス・カピロッシ、そして3位表彰台を獲得したのは、大波乱の逆転劇で年間タイトルを勝ち取り、2007年度の新チャンピオンに輝いたレプソル・ホンダのニッキー・ヘイデンだった。
■泣き崩れるヘイデンに容赦のない花火師
ヘルメットを脱ぎ、バイクをコース上に停めて空を見上げながら大声で泣き続けるヘイデンは、無理矢理スペインの花火職人にバイクから引きずり下ろされ、各クラスのレース勝利者にしか許されない祝福の爆竹への点火を行い、スタンドは歓声に揺れた。
■バレンシアのコース・レコード
バレンシアのサーキットレコード(990cc)は2006年にロリス・カピロッシが記録した1分32秒924、ベストラップレコード(990cc)は2006年にバレンティーノ・ロッシが記録した1分31秒002。
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