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2007年5月2日
今週の金曜日の5月4日より、中国の上海サーキットにてMotoGP第4戦目の中国グランプリが開催される。
ここでは、上海サーキットに関する情報や昨年のレース結果、ならびにトルコではバレンティーノロッシのリアタイヤに問題を抱え、ブリヂストンに大敗する結果となったミシュランの中国GPにかける意気込みなどを紹介する。
■当初はF1誘致を目的に建設された上海サーキット
上海サーキットは、4輪レース最高峰カテゴリーのF1招致を目的に2004年に設立されたサーキットだ。同年の9月にはF1中国GPが初開催され、MotoGPはその翌年の2005年に初のグランプリ開催となった。
■3年連続して不安定な気象条件?
初開催からの過去2年間はレースウイークを通して予測の難しい不安定な天候に見舞われた上海だが、今年のどうやらその例外ではなさそうだ。
初年度の2005年にはレース中に前方が見えにくくなる程の大豪雨に見舞われ、2年目の昨年はレースウイーク中にはやはり豪雨、決勝当日は気温31度のドライという、メカニック泣かせの難しい週末を各チームは過ごしているが、今年の天気予報によれば、3年目の今年もどうやらレースウイーク中は一時雨、決勝当日は晴天という、2年目に近い
気象条件になりそうな雰囲気だ。
なお、3年連続して雨になりそうな上海GPだが、過去10年ほどの中国の梅雨入り時期は、台湾側にある華南地域は5月半ばから6月初旬、上海を中心とした華中地域は6月初旬から6月中旬頃の傾向が強く、この時期に必ずしも雨が続くという訳ではないという。
■新タイヤレギュレーションの影響を受けないレインタイヤ
今回の不安定な天候となりそうな中国でも、前回のトルコと同様にミシュランとブリヂストンの2社は、800ccマシンでの走行経験がないサーキットでの厳しいタイヤレギュレーションに頭を悩まされる事になりそうだが、雨などで路面が濡れた場合に使用するウェットタイヤ(ドライ用のスリックタイヤ以外)に関してはレギュレーションの規定範囲内であり、持ち込み制限は存在しない。
■人気の近代施設と、評価が分かれるF1指向のコースレイアウト
上海サーキットは、上海の市街地から約30キロメートルの場所に建設された近代設備の充実した全長5281メートルの超高速サーキットだ。また、サーキット内には、中国江南を代表する庭園の豫園(ユイユアン)を模して作られた庭園があり、中国古典庭園の雰囲気を堪能する事もできる。
■設計は前回のトルコと同じティルケ社
コースレイアウトの設計は、前回のトルコでは多くのライダーに人気のあったイスタンブールサーキットや、マレーシアのセパンサーキットと同じく、4輪と2輪のレースを両立させる事では定評のあるドイツのティルケ社が担当しているが、あまりにパワーサーキットとしての性格が強い上海に関しては、2輪ロードレース用のコースとしての評価は大きく二つに分かれるようだ。
■ライダーの技量よりもエンジンパワーが重要?
上海の「上」の文字をコースレイアウトにしたという、他に類を見ないサーキットを2年前に始めて訪れたばかりの各ライダーの意見は、「設備が良く悪いサーキットじゃない」という声が大半を占めていた。しかしながら、実際に走行を終えるとすぐに、ライダーたちは口を揃えて「F1向きだね」と述べている。
レイアウトを見ても分かる通り、基本的にはストップ・アンド・ゴーのサーキットであり、ライダーの技量よりも、エンジンパワーやマシンのブレーキング性能が勝利を左右するとの見方も少なくない。
一昨年はレース当日が豪雨となった事も相まって、上海について昨年のレース前に好印象を示したライダーは少数派だった。
■800ccマシンのコーナリング性能で意見が変わる可能性も
しかしながら、昨年はレースがドライとなった事もあり、高速サーキットとして有名な上海のレイアウトの特徴が活かせた事から、今年に入りコースレイアウトに悪い印象を述べるライダーは比較的少なくなったようだ。
昨年の排気量990ccのMotoGPマシンのパワーでは、1コーナーから連なるループ上の長い低速カーブとコース中盤の低速ヘアピンがあまりに窮屈に感じる事と、その部分がせっかくのハイペースな走りの流れとリズムを中断する事に不満を感じるライダーは少なくなかったが、排気量が800ccとなりコーナリング性能が上がった今年のマシンでの走行後は、またさらにライダーたちの印象は変わるのかもしれない。
■エンジンパワーが重要視される2本の最長ストレート
MotoGPクラスにおける中国GPの最大の見所は、1.2キロメートル以上にも及び、時速320km以上に達するロングストレート終端のブレーキング合戦だろう。ブレーキングを制した者がレースを制するが、逆にブレーキングポイントを見誤れば簡単にコースアウトを喫する可能性があるという。
今期のMotoGPカレンダーの中で、最も長い2本のストレートを誇る上海サーキットだが、過去のトップスピードの最高記録である342.9km/hを記録したのは、2年前の当時はドゥカティーに在籍していたカルロス・チェカ(現ホンダLCR)だった。
ライダー技量による差がつきにくい為、バイクのストレート性能も勝利への重要な要素の一つとなる上海だけに、各チームメカニックやメーカーの技量、セッティング能力やエンジン性能の優位性が問われる戦いとなりそうだ。
■またもドゥカティー勢の圧勝となるか
今年の中国GPにおける勝利者の最有力候補は、上海と同様のロングストレートを誇る開幕戦のカタールと、パワーサーキットのトルコを制したストレート加速とトップスピードに勝るドゥカティー勢、特に現在のポイントリーダーであるケーシー・ストーナーだろう。
バレンティーノ・ロッシは今回の中国GPに向けて「ストレートではドゥカティー軍団と他の集団という2グループに分かれるかも」と冗談を述べた後、「トルコではヤマハのエンジン性能の改善も進んだので、トップスピードが大きな問題にならないといいね」と付け加えている。
■ストレートパワーと同様に重要となるタイヤ選択
中国では時速320キロまで伸びるストレートでの加速とその直後のハードブレーキングを繰り返す性質上、タイヤにかかる負担は他のサーキットとは比較にならないようだ。いかにエンジンパワーが優れていても、レースの終盤までその出力を路面に伝える事ができるタイヤがなければ中国でのレースには勝てない。
■トルコから中国に向けて勢いづくブリヂストン
前回のパワーサーキットのイスタンブールで圧勝したブリヂストンは、今回の中国にも前回使用した新素材にさらに改良を加えており、その効果はトルコでのレース翌日のクリス・バーミューレンのトップタイムとアレックス・バロスの2番手タイムに現れている。特にバロスは中国以降の戦いに向けて用意された新型タイヤを装着して、レースウイーク中の予選とレース時のラップタイムをそれぞれ1秒ずつ上回っている。
■迎え撃つミシュラン
ライバルである日本のブリヂストンが中国に向けても自信を示す中、常に最高峰クラスの覇者として君臨してきたフランスのタイヤメーカー、ミシュランはどのような対策を中国に向けて練っているのだろうか。
■パワーサーキットで2年連続して抱えたロッシのタイヤトラブル
ミシュランは昨年の中国では、13番グリッドからスタートして3位表彰台を争う第2集団に辿り着いた15ラップ目付近のバレンティーノ・ロッシのタイヤの表面が路面温度の上昇が原因となって剥離し、リタイアさせるという苦い経験をしている。
それに加え、前回のイスタンブールでもトップのストーナーの追撃に入ろうとした矢先のロッシのタイヤが10ラップ目付近から激しく振動し、結局ロッシが10位完走に終わるという問題を抱えたばかりだ。
■ミシュランはロッシの意見を取り入れて中国向けタイヤを再開発
パワーサーキットでミシュランタイヤに2年連続して問題を抱えたロッシは、トルコでのレース直後にミシュランのスタッフに対し、タイヤの内部構造上の堅牢性に課題がある事を指摘したという。それを受けたミシュランは、その晩のうちに新しい構造のタイヤを大至急制作しており、翌日のテストでロッシはその新仕様のタイヤで走行し、好感触を得る事ができた様子だ。
今年からミシュランの2輪モータースポーツ総監督を務めるジャン-フィリップ・ウェーバーは、ロッシとのトルコでのテストについて以下の通り述べている。
「バレンティーノの正確な分析を元に、イスタンブールのテストではより硬い構造のタイヤをテストしました。」とウェーバー監督。
「テストの結果、彼は新しいタイヤへの信頼感を高める事ができたようです。タイヤの剛性も上がりました。ミシュランはここまでの結果を受け、バレンティーノが中国に向けて要望しているイメージに最も近い新仕様のタイヤ作りに全力を尽くしています。」
■上海には全く違う種類のコンパウンドが必要
またウェーバー監督は、中国に向けて準備するタイヤには根本的に他のサーキットとは異なる材質が必要である事を明かすと同時に、特に冬季シーズン中から開発を進めてきた16インチタイヤが、中国では大きな効果を発揮するだろうと述べた。
「上海はパワーサーキットです。イスタンブールの時よりもトップスピードが重要になりますね。」とウェーバー監督は続ける。
「2本のロングストレートがありますから、当然激しいブレーキングと加速力、トップスピードが必要です。これはタイヤの中央部分に非常に負担をかける事になりますので、その対策が要求されます。上海で使用する中央部分のコンパウンドは、他のサーキットで使用しているものとは根本的に異なるものですし、タイヤそのものも非常に硬くなります。」
「また、上海にはいくつか非常に長いカーブもあり、ここでライダーは長時間マシンを深く傾けてタイヤのエッジに負荷をかけますから、特に天候が良くて路面温度が高い場合には、非常に挑戦する事の多いサーキットと言えますね。」
「1コーナーと2コーナーの組み合わせによるカーブは、MotoGPカレンダーの中でも最も大きい300度以上の角度を回り込む事以外にも、短い距離の中で大きく路面の傾斜が変わるという特別なコーナーを作り出しています。コーナーへの進入は上り勾配になっていますが、すぐにカーブを下っていく形になっており、加重の移動が一定ではないんです。」
「また、12コーナーと13コーナーも右に270度大きく回り込むコーナーです。他にも7コーナーや8コーナーのように非常に長いカーブがありますから、上海ではとにかく硬い材質を使う必要があります。その中で、タイヤの右側と左側にはそれぞれ異なるコンパウンドを使用しますので、両側面のバランスが保てるような配慮も必要です。」
「路面そのものはタイヤに負担をかけやすいものではありませんが、問題となるのは高くなる速度とその後のハードブレーキング、およびいくつものロングコーナーです。」
「16インチのフロントタイヤには自信がありますよ。上海のロングコーナーでは必ずいい性能を発揮してくれる筈ですからね。」
■昨年のレース内容
最後に、2006年シーズン中の第4戦として昨年の5月14日に開催された中国GPのレース内容を振り返っておきたい。
上海サーキット初年度となった2005年の大豪雨のレースではバレンティーノ・ロッシが優勝し、それに次いで骨折したアレックス・ホフマンの代役としてカワサキからエントリーしたオリビエ・ジャックが2位表彰台を獲得するという波乱のレース展開となったが、昨年の2006年はレースウイーク中は激しい豪雨となったものの、決勝当日は晴天に恵まれ、予想外に気温の高い初のドライコンディションでのレースとなった。
■ペドロサの圧倒的勝利とロッシのリタイア
レースの序盤をリードしたのは3番グリッドからスタートしたキャメル・ヤマハのコーリン・エドワーズと、2番グリッドからスタートのリズラ・スズキのジョン・ホプキンスの2名。レース中盤に入るとポールポジションからスタートしたレプソル・ホンダのダニ・ペドロサがトップに立ち、そのチームメイトのニッキー・ヘイデンが2番手につけ、エドワーズとホプキンスはその後方で3位表彰台を争った。
マシンの予選での不調から、キャメル・ヤマハのバレンティーノ・ロッシは13番グリッドからスタートしたが、レース中盤にはエドワーズとホプキンスに追いつき、表彰台が狙えるところまでポジションを挽回した。
しかしながら、ロッシは16ラップ目にタイヤの表面が剥離しリタイアとなり、初のドライの上海を制したのは、当時MotoGP1年目で最高峰クラス初優勝を遂げたペドロサだった。2位はヘイデン、3位はエドワーズとなり、ホプキンスはブリヂストン勢の中でトップの4位でチェッカーを受けている。
レース中はドゥカティーのセテ・ジベルナウのブレーキングにより前に全く出る事ができなかったホンダLCRのケーシー・ストーナーは5位、コニカミノルタ・ホンダの玉田誠選手は6位、フォルツナ・ホンダのマルコ・メランドリが7位。
■ドゥカティー勢はタイヤ選択ミス
タイヤの選択ミスからレース中盤に一気に後退する事になったドゥカティーの2名、ロリス・カピロッシとセテ・ジベルナウは8位と9位、予選で2列目4番グリッドを獲得していたカワサキの中野真矢選手は10位だった。
■上海のラップレコード
上海のサーキットレーコード(レース中)は2006年にダニ・ペドロサが記録した1分59秒318。ベストラップは同年にやはりダニ・ペドロサが記録した1分59秒009。
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