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2007年2月9日
TECH3ヤマハチームは、ヤマハの新型MotoGP800ccマシンを手に入れてから3度目となるメーカー合同テストの3日間を、マレーシアのセパンサーキットで2月7日に終えた。
ダンロップタイヤとTECH3ヤマハによる本格的なMotoGP最高峰クラスでのタイヤ開発は、これで2年目を迎えるが、今回の走行結果を見る限りでは、昨年までのチームの苦労は確実にタイヤの性能に反映されてきている様子だ。
■ダンロップ開発プロジェクトの中心に玉田選手
今シーズンからはLCRチームに移籍して、ホンダのマシンとミシュランタイヤに乗り換えたカルロス・チェカが、昨年の1年間はダンロップとTECH3ヤマハの共同作業を支えてきたが、今年からは、昨年までコニカミノルタ・ホンダでミシュランタイヤを履いていた玉田誠選手がプロジェクトの中心人物となっており、すでに開発の主導権を握っている。
昨年の前半にチェカが最もダンロップタイヤに苦しんだ部分は、レースにおけるタイヤの耐久性と剛性の低さ、およびタイヤ側面のグリップの弱さだったが、2006年終盤にそれらの問題は大きく改善されたと言われている。しかしながら、現在最高峰クラスをリードするタイヤメーカーのミシュランやブリヂストンも常時進化を続けており、4スト最高峰クラスでは事実上の後発メーカーとなったダンロップが、まだライバルメーカーに様々な性能面で遅れを取っているのは否めない事実だ。
■チェカとの接点
カルロス・チェカがTECH3ヤマハとダンロップから離脱したのと同時に、TECH3のチームオーナーでありIRTAの責任者であるフランス人のエルベ・ポンシャラルが目につけたのは、ミシュランタイヤのフロントまわりの感触が得られずに苦しんでいた当時コニカミノルタ・ホンダ所属の玉田誠選手だ。
元もとチェカは昨年のTECH3への移籍時にもミシュランタイヤの使用を強く希望しており、今年はチェカの念願通り、1年のダンロップへの大きな貢献を経て、チームに惜しまれながら再びミシュランユーザーに戻る事になった訳だが、彼と玉田選手は2006年中には不思議な接点を持っていた。
2006年シーズンの後半、ミシュランで苦しみ徐々に順位を落とした玉田選手は、ダンロップで苦しみながらもタイヤ開発を着実に進めて順位を上げてきたカルロス・チェカと中間付近のポジションを何度も奪い合っている。その当時に玉田選手はチェカのマシンの挙動を観察して、ダンロップタイヤの進化の度合いを概ね理解していたという。
■ブリヂストンでの開発と勝利実績を信じるポンシャラル
もちろん、ポンシャラル監督が玉田選手に目をつけたのは、昨年のチェカとの順位の奪い合いではない。
玉田選手は2003年にブリヂストンのタイヤ開発プロジェクトにおける専属ライダーとしてMotoGPへのフル参戦を開始しており、当時はあまり目立たなかったブリヂストンタイヤで最高峰クラスの表彰台を獲得し、その攻撃的な走りで世界の注目を集めた。また、翌年にはその自ら開発したブリヂストンタイヤで2回の優勝を果たしており、玉田選手が弾みをつけたブリヂストンの勢いは、現在はドゥカティーのロリス・カピロッシなどに引き継がれている。
ダンロップとのタイヤ開発プロジェクトを真剣に進めているポンシャラル監督が、玉田選手のミシュラン以前の功績を忘れている筈はなかったのだ。
■2004年のスタイル復活に向けて
ちなみに、元もと全日本時代からミシュランに苦手意識を持っていたと噂される玉田選手が、2005年からMotoGPクラスでミシュランに履き替えたのは、ロッシやバージェスの発言、およびヨーロッパのファンの挑発などが背景にあるとも言われているが、ある意味魔が差したように見えなくもない。玉田選手のフロントを重視して深く倒し込むという独特のライディングスタイルはタイヤを選ぶものであり、彼専用のタイヤ、または相性の良いタイヤがあってこそ、2004年当時の彼の走りのスタイルは実現するのだ。
なおダンロップタイヤは、全日本SBという全く現在とは違うカテゴリーであったにしても、今の彼の走りの基本スタイルを支えてきたタイヤだ。ダンロップは、玉田選手のフロントを重視する走りを今でも良く記憶しており、今年は玉田選手の望むフロントタイヤの提供に全力を注ぐ事はまず間違いないだろう。
いずれにしても、こうして玉田選手はポンシャラル監督の野望と出会い、再び勝利経験のないタイヤを優勝に導くための開発プロジェクトで主導権を握る事になった。
■2月のセパン合同テストにおける開発状況
以下に、今回の2月のセパンでの合同テストにおけるTECH3ヤマハチームと、玉田選手のコメントなどを紹介しておきたい。
今年2度目のセパンで、玉田選手とTECH3ヤマハチームが最優先課題としたのは、マシンのセッティングそのものよりも、やはりタイヤの開発だ。なお、彼のチームメイトのシルバン・ギュントーリは、初のMotoGPフル参戦に向けて800ccマシンに慣れる事を中心としたトレーニングメニューを、1月のセパンに引き続きこなしている。
■フロントタイヤに問題はなし
初日に玉田選手は1月に記録した自己ベストを0.1秒上回り、2日目には、昨シーズンのレースウイーク中にカルロス・チェカが到達できなかった2分2秒台に突入している。
ここで非常に興味深いのは、今年に入ってダンロップがチームに提供しているフロントタイヤは、既に玉田選手にとって問題のない接地感の得られるものであり、そのため、今回の3日間のテストがリアタイヤを中心としたメニューになった事だ。
「バイクの全体的な挙動には満足しています。」と2日目を終えた玉田選手。
「ここまでにフロントの接地感については全く問題がないので、今はレースで使うリアタイヤのテストに集中しています。」
「昨日(1日目)のタイムは更新できましたが、あの記録はソフトタイヤを使った時のタイムなんです。予選タイヤではありませんけどね。」
また、玉田選手の今年の専属メカニックとなったギィ・クーロンは、今回のセパンでもタイヤの分析を重視するためにピットインの回数が多くなり、2日目が終わってもあまりロングランはできていないと語る。
「2日目も初日に引き続いて多くのタイヤのテストを行い、色々な素材を比較検証しました。」とクーロン。
「私たちはマコトに短い距離を走ってもらって、すぐにピットインしてもらうといった小刻みな走行テストを繰り返していますが、最終日にはもっとレースに向けての作業をする予定です。今回のセパンではあまり時間がとれていないシャシーのセッティングを午前中に調整して、午後はレースタイヤのテストに集中したいですね。」
■最終日のタイムはレースタイヤでの自己ベスト
3日目の午前中に、玉田選手はやっとシャシーの調整を本格的に開始する事ができたようだ。この日に、玉田選手は2日目のソフトタイヤでのタイムを更新できてはいないが、午後のロングランで記録した2分3秒380が、レースタイヤでの玉田選手の800ccマシンにおける実質のセパンでの自己ベストだ。
「午前中はマシンからもっと好感触が得られるように、シャシーのセッティングを行いました。」と玉田選手。
「午後にはレースタイヤを4種類試しています。レース距離での耐久性はいいレベルになってきたと思いますね。」
セパンでの最終日を終えてメカニックのクーロンは、今回のテストが順調に進み、マシンの改善が進んだ事を以下の通りコメントしている。
「今日はバイクのセッティングにも取り組みましたが、やはり最優先としたのはタイヤの開発でした。」とクーロン。
「まだやるべき多くの作業は残っていますが、パッケージ全体のバランスはだいぶ良くなったと思います。幸いこの3日間はメカニカル・トラブルやライダーの転倒が一度もなかったので、作業はスムーズに進みました。マコトはレースタイヤでの自己ベストを更新しましたしね。」
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