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2006年10月16日
世界中のMotoGPファンが固唾をのんで見守った年間タイトルの行方を決めるシーズン・ラスト2戦目のポルトガルGPは、レース序盤の5ラップ目にダニ・ペドロサがポイントリーダーのニッキー・ヘイデンに高速左コーナー入り口で並びかけて転倒し、そのまま2台が激しくグラベルに飛び込むという最悪なものだった。
■タイトルを争うヘイデンに絡む不可解なペドロサ
言うまでもないが、ペドロサはヘイデンのチームメイトであり、ヘイデンは今回を含む残り2戦の段階において、ランキング2位のバレンティーノ・ロッシと年間タイトルを争うポイントリーダーだった。
いかにホンダがスポーツマン・シップに乗っ取り、チーム・オーダーの発動をしなかったにしても、今回のダニ・ペドロサのヘイデンへの度重なるリスクの高い接近行為は、最高峰クラスのワークスチームに所属するプロライダーとして、この時期のあのタイミングで許されるものではない。
■ペドロサに残された道
レプソル・ホンダやチームメイトからの信頼を回復する時があるとすれば、それは最終戦のバレンシアで、ヘイデンが表彰台の頂点に向かう進路をふさぐことなく、自分の実力で2位表彰台を獲得し、結果としてロッシを3位以下に抑えた時だ。
■MotoGPクラス史上最悪の終盤戦
ポルトガルGPのレース序盤、MotoGPクラスの年間タイトルをかけて終盤戦を戦うポイント・リーダーのニッキー・ヘイデンに対し、レプソル・ホンダのチームメイトであるダニ・ペドロサが強引に後方からの追い上げをかけた。ヘイデンのイン側に飛び込みすぎたペドロサはリアのバランスを崩してフロントを失い転倒、そのまま高速左コーナーに入ったヘイデンのバイクに横滑りのまま突っ込んだ。
■高まるペドロサへの批判
レプソルの2台はそのままグラベルに飛び込み、ニッキー・ヘイデンがランキング2位のバレンティーノ・ロッシからシーズンを通して地道に守り通してきたポイント差はあっけなく消滅した。グラベルの中で立ち上がったヘイデンはヘルメットを投げ捨て、悲痛な叫び声を上げ続けたが、ペドロサにはヘイデンに歩む寄る勇気はなく、逆方向に去っていた。海外のニュースサイトの多くは、ダニ・ペドロサの今回の追い越しにも見える行為に対して概ね批判的だ。
今回の結果、ポルトガルGP開始時にヘイデンが保持していたロッシとの12ポイントの差はなくなり、今回のレースを2位で終えたバレンティーノ・ロッシがヘイデンと8ポイント差でランキングトップの座に立ち、最終戦のバレンシアを迎える事になった。
■謝罪を繰り返すペドロサの小指の骨にひび。
事態の深刻さを現在は誰よりも深く把握しているダニ・ペドロサは、できる事なら時間を戻したいという心境だ。また、ペドロサは今回の転倒により、小指の骨にひびが入ったようだ。
「言葉もありません。ミスをしてしまい、本当に申し訳ないです。」とペドロサ。
「他のライダーを巻き込んで転倒したのは自分のレース人生の中でこれが初めてです。プラクティスでもレースでもこの6年間の中で一度もありませんでしたが、初めての経験がこれ以上にない最悪の状況の中で起こりました。」
「悲しいし、ニッキーが気の毒な状況なのは当然です。自分のミスですから今はただ謝りたいだけです。ニッキーには謝罪の言葉を伝えましたが、彼がひどく憤りを感じているのがわかりました。今は自分に彼の状況を変える事ができるように祈るだけです。」
「あそこで彼を交わそうなんて思いませんでした。ブレーキをかけたところでリアが流れてしまい、転んだ時にはさらに加速がついてしまったんです。バイクを止める事ができずに、どうする事もできなくなりました。」
「小指の骨にひびが入りましたが、バレンシアまでにはまだ時間がありますので大丈夫です。」
■ヘイデン「あんな事をするとは思いもしなかった」
タイヤ選びに成功し、序盤の走りで絶対の自信を持ったニッキー・ヘイデンの落胆ぶりは言うまでもない。謝罪に来たペドロサと握手を交わしたヘイデンだが、今回の件を埋め合わせる唯一の方法をペドロサに伝える事は忘れなかったようだ。
「何を言ったらいいのか分かりません。辛いだけです。」とヘイデン。
「レースではとても硬めのハードタイヤを選びましたが、特に左コーナーでは自分でも信じられないほど快適に最初の数周から走れました。」
「エドワーズよりもかなり速かったので、あそこですぐに彼をブレーキで交わすつもりでしたし、その後はバレンティーノの様子を見る余裕ができると思っていました。」
「ダニに進路を譲ってもらおうなんて最初から思っていませんが、あんな事をするとは予想もしませんでした。ただ、自分たちはプロです。あの後でダニが僕のモーターホームに話をしに来て、そこで握手を交わしました。」
「今週は戦わずして諦めない精神を見せつけたと思います。それに、この状況になった今でも、自分の強さを確信しています。ここは自分にとって相性のいい方のコースではありませんが、レースウイークに入ってからすぐに速くなりましたし、セッションうちの1回はトップタイムを記録しました。1列目も確保しましたし、レースのペースも良かったです。」
「バレンシアでは何が起きてもおかしくないので、今はダニの助けが必要ですから、彼の指が問題ない事を祈ります。」
「彼には、今回の件を埋め合わせる方法が1つだけある事を伝えました。もしバレンシアで自分たちがワン・ツー・フィニッシュをできれば、年間タイトルの獲得はまだ可能です。」
■ヘイデンの望みをつないだ初優勝のエリアスとジュニアの健闘
フォルツナ・ホンダのトニ・エリアスが、終盤までレースをリードしていたバレンティーノ・ロッシを抑えて初優勝を飾るという今回の波乱の展開は、仮にロッシが優勝していた場合には13ポイントの差をつけられる所だったニッキー・ヘイデンにとっては、災害とも言える不幸中の、僅かな幸いと言える。
■初優勝に舞い上がるエリアス「諦めないのが自分のスタイル」
レース終盤にバレンティーノ・ロッシに追いつき、最終ラップぎりぎりまで激しくロッシに絡んだフォルツナ・ホンダのトニ・エリアスは、自身初のMotoGPクラスでの優勝に歓喜の涙を見せる。
MotoGPクラスにステップアップして以来、メディアに対しての口数が少なくなったエリアスだが、今回ばかりは全く言葉が止まらないようだ。
「本当に幸せです。」とエリアス。
「激しいレースでした。本当に激しかったです。スタートがうまくいって、バイクがすごく乗りやすい事に最初の数ラップで気がつきました。」
「コーリンの後ろを走っていて、彼が自分を抑えようとしているのが分かりました。だからプッシュしまくって彼を抜いたんです。そのまま攻めながらバレンティーノの背後まで迫り、彼を交わして初めてMotoGPクラスのレースでトップに立ちました。」
「次の周回では一度に3回のミスをしてしまい、この時はリスクを冒してまで彼を抜き返すのはやめましたが、レース中はずっと1コーナーが好調で、ブレーキングを遅らせてみんなを交わす事ができていたので、最終ラップでは絶対にこのチャンスを逃すものかと思っていました。最後まで諦めないのが自分のライディング・スタイルです。」
「チームがしてくれた最高の仕事と、レースを見に来てくれたファン全員に深く感謝します。」
■ロバーツ・ジュニア「周回数を間違えた!」
同郷のヘイデンがタイトル争いに苦しむ場面では常に同情的な元500ccチャンピオン、チーム・ロバーツのケニー・ロバーツ・ジュニアは、レース残り2周付近でロッシの前を数回奪い、最終的に3位表彰台を獲得した。
久しぶりにロッシとのトップ争いを演じ、ペドロサと同じ状況に陥る事だけは避けるために、細心の注意を払ってロッシの近くを走行していたというジュニアだが、残念な事にレースの周回数への注意が十分ではなかったようだ。
彼はゴールしたつもりのコントロール・ラインでチェッカーが振られない事に驚き、その後はリズムを崩してロッシとエリアスに交わされている。
「日本GP後の数日間のテストでバイクの調子をかなり上げる事ができていたので、今週のフリー走行は調子が良かったですね。ただ、予選はダメだったのでスタートを成功させなきゃいけない状況でしたが、すごくうまくいきました。」とジュニア。
「トップを行くバレンティーノに接近した時は本当に注意して走ろうと思いました。ペドロサがヘイデンを巻き込んだのを見ていましたし、彼に同じ事をしたくありませんでしたからね。」
「終盤の残り2周の時に、あと1周だと勘違いしてしまったんです。あと一回で終わりだと思っていたのに、次にコントロールラインを抜けてもチェッカーが振られなかったんです。」
「今シーズンの序盤は、かつての自分のタイトル争いのライバルだったロッシから10秒以内の位置を走る事も苦しかったのに、今は0.2秒以内ですから本当に嬉しいです。今年は勢いをつける事ができましたから、来年はさらに良くなると思いますよ」
「2週間後のバレンシアでは今回と同じようなミスだけは避けたいですね。」
■ロッシのチームメイトとしての役割に徹するエドワーズ
ペドロサとは対象的に、年間タイトルを争うチームメイトを後方からバックアップし続けたキャメル・ヤマハのコーリン・エドワーズは4位となり、惜しくも表彰台は逃したものの、今シーズンを通しての不調を拭い去るような快走を見せている。
「納得のいくスタートができたので、ロッシの走りを助けられるように他のライダーを出来る限り抑えようと思いました。プラクティスでは1分37秒9で走れましたから、自分が1分38秒5を維持できればロッシを逃がす事ができるだろうと考えたんです。」とエドワーズ。
「作戦として考えていたのは、彼がいったん逃げの体制に入ったら、後は他のライダーを自分も振り切ってトップから2位のポジションまでを満席にしてしまう事でした。でも、ロッシがなかなか彼のプラクティス中のタイムに到達できなかったので、彼の背後をうろつくだけの形になっていました。」
「終盤はかなりの戦いをしましたが、正直言って表彰台に乗れなかった事にはがっかりですよ。レースウイークを通していいペースだったし、チームはバイクを最高に仕上げてくれていたので、彼らに報いる結果がなんとか欲しかったんです。」
「いずれにしても、チームとしてはこれ以上はないところまで頑張りましたから、今回のレースウイークにはとても満足しています。バレンシアではさらに飛躍的な活躍を目指しますよ。」
■ロッシ「ヤマハのチームワークの精神を見せつけた」
今年のトニ・エリアスは開幕戦のオープニング・ラップでロッシに追突して転倒させる等、年間タイトル争いに以外な所から影響を与えている。
今シーズンのロッシにとってエリアスはまさに悪魔のような存在だが、今回のバレンティーノ・ロッシは半ば強引なエリアスの最終ラップでの健闘を素直に笑顔で称えている。
「ついにポイントリーダーになれた事が本当に嬉しいです。」と2位表彰台を獲得したロッシ。
「それが今日の一番重要な事ですからね!優勝できなかった事はちょっと残念ですけど。」
「スタートがうまくいって1コーナーには先頭で飛び込みましたが、自分のペースが昨日ほど良くない事を知っていました。路面温度が10度も低くなっていくつか問題を抱えてしまったんです。」
「コーリンが自分の後ろにつけているのに気がついた時は、すごく気持ちの上で安心できました。彼が可能な限り自分を助けてくれる事をわかっていましたからね。コーリンがレースですごい走りをしてくれた事に本当に感謝しています。今日は彼が表彰台に乗れなくて悲しくなりますよ。」
「自分にとっては大変なレースでした。ケニーとトニ、それにコーリンがすごく速かったので、自分もプッシュし続けなければいけませんでしたからね。」
「最後のシケインの進入でトップに立たなければいけないと思っていました。でも、今日はトニの方がストレートでほんの少し速かったようです。彼の最初の勝利を称えたいです。今日のトニは激しく戦いましたね!」
「最後の決勝まで2週間ありますから、今はリラックスして精神を集中し、バレンシアでも今回と同じように戦えるように備えたいと思います。」
「最後にもう一度、チームとそれに関係するメンバー全員に感謝をしなければいけません。今日はヤマハの『チームワークの精神』を本当に見せつける事ができたと思います。コーリンも自分も、こんなチームでレースができるなんて本当に幸せ者ですよ。」
■最終戦は「チームで」ヘイデンの勝利をサポートしたいホンダ
レプソル・ホンダのチーム監督である田中誠氏は、年間タイトルを争うニッキー・ヘイデンがチームメイトに巻き込まれて転倒するというポルトガルGPでの結末を受け、以下の通りコメントしている。
「私たちにとって、本当に残念な一日になった事は間違いありません。」と田中監督。
「ただ、このかつてない白熱したシーズンは、まだ終わっていません。次回のバレンシアでの目標は当然の事ながらニッキーの勝利と、彼の年間タイトル獲得を可能にするダニの2位表彰台です。」
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