ロッシ「タイトル獲得さえ考えていない」
2006年8月13日
ここでは、MotoGPシーズンの夏休みが明けての今週金曜日から開催されるチェコGPに向けてのキャメル・ヤマハ・チームからの公式コメント、並びにブルノ・サーキットの特徴について紹介する。
■高低差の激しいブルノ・サーキット
チェコ共和国の首都であるプラハから約200km南東に位置しているブルノ・サーキットは、過去にチェコ・グランプリの舞台となっていた曲がりくねった公道に囲まれている。
古い公道コースが最後にグランプリに使用されたのは1977年の事であり、1987年にはほぼ現在のサーキットの形に生まれ変わっている。細かな改修が1996年には行われた事でコースの全長は5,403メートルになった。
過去のブルノは砂利道の区間もあり、非常にマシンの振動が激しい事で知られていたが、現在のコースにその面影はない。しかしながら、大きなシケインと極端な高低差を持つブルノは、今でもライダーやメカニックにとって挑戦しがいのあるテクニカルなサーキットだ。
ブルノの特徴と攻略方法について、キャメル・ヤマハ・チームでバレンティーノ・ロッシのデータ・エンジニアを務めるマテオ・フラミニは以下の通り説明している。
「まず一つめに、ブルノはライダーにとっては難しいコースです。いくつかの箇所のコース幅はほぼ15メートルと広く、ライン取りのミスを誘発し易い事からコースアウトが起きやすいんです。」と
フラミニ
。
「セッティングの観点から見ると、ライダーにはブレーキングに強いバイクを提供する必要があります。下り坂での追い抜き箇所が多いので、そこでのブレーキングは通常よりもバイクに負担がかかるからです。」
(ブルノ・サーキット http://www.automotodrombrno.cz)
「また、長い高速コーナーでもバイクは安定していなければいけません。例えば1コーナー、9コーナー、それに13コーナーなどがそれに該当します。また、シケイン通過時には機敏な反応も求められます。」
「これらの全ての特徴に対して何らかの妥協点を見つけながらセッティングを進めるのはどのサーキットに対しても同じですが、ブルノは特別です。シケインにさえ高低差がありますからね。」
「コース終盤に向けては、バイクのバランスを保てるようにする事が最重要課題です。上り坂での激しい加速時には加重変動が大きく、前輪が自然に浮いてしまいますから、シケインの進入に向けてのブレーキングでライダーたちは、前輪を地面にちゃんと落ち着かせなければいけなくなります。」
「ブルノは多くのサーキットの中でもMotoGPマシンの進化が良く理解できるコースです。2ストロークマシンから4ストロークマシンに切り替わった後はラップタイムが5秒も縮まりました。コースにはどこの変更箇所もないのにです。」
「バイクとタイヤの性能向上が分かりやすいサーキットだけに、長いストレートの上り坂では多くの馬力が必要です。これと同時にギアボックス(ミッション)のセッティングも重要になります。」
■トラブルだらけの前半戦に苦戦したキャメル・ヤマハ
今シーズン前半のキャメル・ヤマハ・チームは苦しい戦いを強いられた。シーズン序盤は開幕直前に発覚したミシュランの06年ハイグリップタイヤ使用時にマシンが振動するという問題に苦しみ、中盤はその問題解決に本格的に乗り出して新型シャシーを導入したものの、シーズン途中から始めたゼロからのセッティングに苦戦している。
それに加え、昨年までは最もマシントラブルに見舞われる事の少ないライダーに見えたバレンティーノ・ロッシも、ハイグリップタイヤの問題に起因する予選での低いグリッド位置が原因となったレースでのトラブル(追突事故など)、エンジンストール、不良タイヤによるリタイアが相継いだ。アッセンではフリープラクティス中の転倒により、右手首と左足首の骨にひびが入っている。
さらに、ロッシが年間タイトルを考える上で決して落としたくなかった前回のアメリカGP、ラグナ・セカでは、タイヤトラブルとエンジントラブルによるリタイアを喫してノーポイントでレースを終える結果となり、現在のポイントリーダーであるニッキー・ヘイデンとのポイント差は51まで開いてしまった。今シーズンの残りのレースはあと6つだ。
■ロッシの年間タイトル獲得の行方
ロッシの年間タイトル獲得の可能性は、アメリカGP終了時点で大きく低下した。しかしながらキャメル・ヤマハ・チームは、数学的に不可能となるまではロッシの年間タイトルを決して諦めないとしている。
キャメル・ヤマハが今回と同様のケースとしてあげるのは、1992年にヤマハのウェイン・レイニーがホンダのミック・ドゥーハンとタイトルを争った際の事だ。この時、シーズン残り5レースの段階において、ドゥーハンが65ポイント差でレイニーを引き離していたが、最終的に年間タイトルを獲得したのはウェイン・レイニーだった。
ちなみに同年はドゥーハンがオランダGPで大怪我を負い、体調が最後まで回復せずに初のタイトルを逃した時でもある。いずれにしても、ロッシとヤマハが死に物狂いで残り6戦を戦う事は間違いないだろう。
偶然、今週のチェコGPは、ヤマハの伝説のライダーであるそのウェイン・レイニーが最高峰クラスで最後の勝利をあげてからちょうど13年にあたり、同時にロッシが125ccで初のグランプリでの優勝を果たしてからぴったり10年になる。ロッシはその後もブルノでは250ccでも優勝しており、MotoGPクラスでは昨年のヤマハでの勝利を含めて3回の優勝を記録している。
■エドワーズ、鈴鹿までの苦労が水の泡に
ロッシのチームメイトのコーリン・エドワーズは、今年は安定して連続ポイント獲得記録を伸ばしてはいるものの、アッセンでは初の優勝をチェッカー・フラッグ目前の転倒で逃し、母国GPとなった前回のアメリカではインフルエンザにかかり、完走のみを最優先するというレースしかできなかった。
プレシーズンのカタルーニャまではキャメル・ヤマハがランキング1・2を独占したいと豪語していたエドワーズも、ヘレスで発覚した06年型YZR-M1の振動問題以降は「プレシーズンの時のカタルーニャは遠い昔に感じる」とコメントしている。
また、ロッシのシーズン中のレースでの不幸を引き継ぐように、エドワーズはSBKのヤマハ・イタリアで戦う芳賀紀行選手とのペアで今年参戦した鈴鹿8耐では、1ラップ目に他のライダーに追突され、その後数周は激しい追い上げを見せたものの原因不明とされるマシントラブルによりリタイアした。勝利に向けてのフラストレーションを解消したかった鈴鹿8耐での出来事は、さらにエドワーズのフラストレーションを高めたが、同時にチェコに向けての勝利への意欲も高まっただろう。
■今後のレース全体の流れを決めるヤマハの改善状況
ロッシとエドワーズが最も期待するのが、ファクトリーYZR-M1の夏休み中の改善状況だ。
開幕直前に発覚したM1のシャシーまわりの問題は、開幕後のオフウイークや非公式合同テストの時間を使うだけでは十分ではなく、夏休み前までにヤマハは、決勝でロッシが戦えるレベルに「一部の」サーキットではできたものの、予選では現在まで常に苦戦している。
今期唯一となるポールポジションをロッシが獲得した6月17日のカタルーニャでの予選の時は、ヤマハのマシンの改善は後半戦に向けてほぼ完了と噂されたが、その翌週のアッセンについては、ロッシがフリー・プラクティス中に大転倒して骨折した事からマシンの改善状況は評価しにくいものの、さらにその翌週のイギリスの予選では最後までセッティングがうまくいかず、昨年の自己ベストの1秒落ちのタイムとなり、その次のドイツGPではロッシ本人からも「1年中予選には苦しむだろう」など、06年型マシンを不満とする意味合いのコメントが増えるようになった。
これは推測として多く語られる事だが、2007年以降のMotoGP800cc化の影響もあってヤマハはマシンの改善に苦しんでいる可能性もある。昨年までならコストをかけて大幅に改善できた事も、今年は2007年以降に役に立たない新技術の開発は進められない難しい年だろう。
とは言うものの、キャメル・ヤマハ・チームも、今回は夏休みの連続したオフウイークを利用し、ファクトリーの威信をかけて改善したマシンを導入してくる事は間違いない。キャメル・ヤマハのチーム監督であるダビデ・ブリビオは、ブルノからの戦いに向けての意欲を以下の通りコメントしている。
「ブルノはシーズン終盤戦の始まりです。これを開始するにあたり、現在の自分たちのおかれた状況の難しさは把握しています。」と
ブリビオ監督
。
「6レースを残した現在、タイトル争いにおいて今の自分たちは望むべきポジションにはありません。しかし私たちは決して諦めませんし、チームの全てのメンバーには最後まで戦い抜く準備ができています。」
「当然の事ながら、まだタイトル獲得を狙いますし、同時に可能だと信じています。これまでのシーズン中は様々な不運に見舞われましたが、今でも自分たちの力には自信があります。」
「休暇が取れたのは全員にとって良い事でしたが、ラグナ・セカ直後から私たちはコースに戻る事を楽しみにしていますし、また勝利をかけて戦いたいです。バレンティーノにとっての目標は、残り6戦の全勝ですからね。」
「エドワーズは鈴鹿8耐の関係から夏休みの7週間前から休みが取れていません。ですから彼は誰よりも休息が必要ですし、元気になって自分たちのところに戻ってくれる事を楽しみにしています。」
「両方のライダーのためにやるべき事は、単純に性能レベルの向上です。全てのレースに勝てるようにね。」
■ロッシ「タイトル獲得すら考えてない」
ラグナ・セカでのリタイア後、「タイトル争いは考えずにレースを楽しみ、可能な限り優勝を狙う。」とロッシがコメントしている通り、年間タイトル獲得の可能性が現在最も高いライダーは、今期安定した走りを見せ続けるレプソル・ホンダのニッキー・ヘイデンだ。ロッシはランキング4位まで後退しており、本人も「自力で」年間チャンピオンの座を奪う可能性が低くなった事を把握している。
ロッシは、ブルノでマシンに跨った時、その感触が改善されている事を望んでいるが、タイトル獲得に関する内容は多く語らない。
「今年は不運な出来事が続いてますね。ラグナはその中でも最悪だったかもしれませんが、今は20日間の休みを使ってリラックスし、その事を忘れるようにしています。」と
ロッシ
。
「この休暇の後は、ブルノで色々な面をよくしていきたいです。あそこはそれほど好きなサーキットではありませんが、去年のレースは自分にとって最高でした。ファーステストも記録して優勝もできて、ほとんど完璧でしたね。」
「休み中にヤマハとミシュランの全員が必死に頑張ってくれていると思いますから、ブルノでは金曜日の午前中から戦えるレベルになり、そのまま週末を通していける事を期待しています。」
「正直、年間チャンピオンに関しては何を言うべきかわかりません。残りは6戦しかありませんし、差を縮めるのに十分とは言えないでしょう。ただ、いずれにしても楽しんで走りたいし、勝てるだけ勝ちたいとは思っています。」
「今はタイトル獲得の事すら全く考えていません。毎レースを通してバイクとタイヤを良くしていく事を考えたいので、楽しんで走れるでしょうし、もっと優勝回数を増やせるようにしていきます。」
■エドワーズ「リフレッシュして残り6戦を戦う」
鈴鹿8耐の後、休暇の殆どをアメリカで家族と過ごしたというコーリン・エドワーズは、夏休みでリフレッシュされた状態で残り6戦に挑みたいとしている。ブルノからパッケージ(マシン、タイヤなど)さえ整えば、本来はトップが争える筈だとエドワーズは語る。
「本当に休みがあって良かったですよ。今シーズンは特に6月と7月がひどく忙しかったので、友人や家族と過ごしてリラックスしたかったんです。」と
エドワーズ
。
「今はバイクに乗りに戻る気力は十分ですし、残りの6レースを楽しめると思います。ラグナ・セカでの残念な結果の後は鈴鹿8耐に出場しましたが、あそこでも散々でした。たった6周を走るために長期に渡る苦労をしてたなんてね!」
「とにかく2週間はテキサスの自宅で家族と休暇を過ごせましたし、気持ち的にもリフレッシュされてリラックスできましたから、今後の6戦を戦う準備は整いました。」
「ここまでは全く自分たちの思い通りになっていない状況ですが、パッケージさえちゃんと機能すればトップを争える事は分かっていますし、これが残りのシーズンを通して実現しなきゃいけない事です。」
「ブルノはとても好きなサーキットです。かなり昔からあそこではレースをしてきたので良く知っていますし、みんないい人でいつも雰囲気がいいんです。休みの後で気温も下がってますしね!」
「今週のレースには自分の全勢力を注ぎます。バイクの調子にも期待していますから、表彰台に飛び乗れるようにいい結果を出しますよ。」
有名建築家がデザインしたインターネット上の架空のショッピングタウン
BEAMS
adidas
PUMA
NIKE
吉田カバン