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2006年3月16日 ShoppingOn編集部
2006年の冬季テストからIRTAテストにかけて、最も世界を沸かしたライダーはカワサキのエースライダー、中野真矢選手だったかもしれない。1月31日のフィリップアイランド以降、2度目のセパンからIRTAテストを通し、全てのサーキットで3位以内の好タイムを記録している。しかもその内の3日間はトップタイムだ。
中野選手はヤマハから移籍してから、これで3度目のシーズンをカワサキレーシングチームと戦う事になる。多くのファンが04年のカワサキ移籍決定のアナウンス時はショックを受けたと聞くが、それほど03年までのカワサキレーシングチームは低迷していた。
移籍初年度の開幕戦、最終予選では一時的にトップに躍り出てカワサキファンや中野真矢ファンのみならず世界中の度肝を抜き、同年の茂木では念願の表彰台を手にするなど、一躍世界中の注目を浴びる事になった。
今年はブリヂストンタイヤと、新開発したマシンの熟成も進み、990cc最後のMotoGPシーズンでのカワサキと中野選手の躍進に世界中が注目している。シーズンを目前にしたIRTAテストを優秀な結果で終えて、中野選手はどのような胸中で開幕を迎えるのだろうか。
ここではカワサキレーシングチームの公式リリースより、中野選手のインタビュー全文を紹介したい。
今年はカワサキでの3度目のMotoGPシーズンですね。最初にチームに加わってから特に何が変わりましたか?また、冬季中にチームを変わった他のライダーと比べて、今までと同じチームで戦う事は有利でしょうか?
チーム体制は04年に僕が加わってから実質的に殆ど変わりはありません。違いをあげるとすれば、チームが当時よりも優れている事と、僕もまわりの仕事の仕方を理解している事です。これはチームとお互いにコミュニケーションが取りやすいって事ですよ。
この2年間を通して、協力関係を強く築き上げてきた日本のカワサキのエンジニアの皆さんについても同じ事が言えます。お陰でお互いの信頼関係も出来て、エンジニアは僕を信頼していますし、僕は彼らの開発作業に必要な情報をいつでも提供できています。
僕の意見を、彼らがZX-RRの開発に正しく反映してくれる事を固く信じています。カワサキの働き方を僕はよく理解しているつもりですし、彼らも僕がバイクに望むものを分かってくれています。確かに、今回チームを変わって新しい作法を覚えるライダーたちと比べれば、少しは有利と言えるかもしれませんね。
去年までと比べて、2006年シーズンに向けての準備方法は何か変わりましたか?
今シーズンは体力トレーニングを多く行いました。去年からプロの体力トレーナーが付いてくれて、冬季から今回のテストまでトレーニングを続けてきました。その結果、体力的な準備は新シーズンに向けて整いましたし、特に一日のテスト中に7〜8時間バイクに乗った時に違いを大きく感じます。すごく自信につながりますよ。
辛い状況に直面しても、冬季中の厳しい訓練の事を思えば、そのまま続けられる自信になります。これは経験のある事ですので、今回も大丈夫だと思います。
体力トレーニングをすれば速く走れるようになるのではなく、スタートから最後までプッシュし続けられるようになる事が重要なんです。
レースに向けて、精神面はどのように鍛えていますか?レースの前の晩はホテルの部屋でレースについてあれこれ考える方ですか?
どのレースでも精神的に強くなるにはバレンティーノ・ロッシのような方法を取るべきでしょうが、僕の場合はずっと働き続けている事が精神面の強化に必要なんです。事前にレースの事は考えますが、戦略的なレースの運び程度で、あまり細かな事は考えません。どうせレースの状況は逐次変わりますので、それに素早く対応する事でレースを有利に運べると思いますから。
あまりにレース展開を細かく頭の中で事前に考えすぎると、逆にまわりで起きてくる事に順応しにくくなります。チャンスばかりを待つのではなく、常に状況を慎重に把握できる姿勢を忘れない事でしょう。
今回のテストを通して、全てにおいて最新型のZX-RRをテストしましたね。バイクはどのくらい進歩していましたか?また、他のチームと比べての競争力はどうでしょう?
カワサキがバイクの全てを作り直すと聞いた時、あんまり大きな変更を加えないでと頼みました。去年のバイクにも良い点が多くあったんです。結局、2006年型Ninja ZX-RRは完全な新型バイクになりましたが、多くの点で去年の感覚に近いものになりました。革新型と言うよりは進化型と言うべきですね。
最終的には、前のバージョンの良い点を引き継ぎながら、多くの点が改良されたものになっています。昨年末にこのバイクをマレーシアで試した時は、ハンドリングの良さに驚きました。これのお陰で簡単にラップタイムが改善されました。新しいエンジンも、前のよりも飛躍的に出力性能が上がっているのに、操縦がし易いんです。
例えば、オーバーレブ(限界回転域)も上がっています。これはギアボックスへの強度的な負担を考慮する必要が減り、コースにあわせて選べるギア選択の自由度が広くなった事を意味します。あるサーキットでは特定の箇所でギアを1つあげていた所でも、エンジンを高回転にしたまま、ギアを変える事なく追加された回転域で走行する事が可能になりました。
また、カワサキの非常に優れたクイック・シフターを使っていますが、ギアチェンジが早すぎるとタイムをロスしてしまいますので、少なめのギアチェンジを心がける必要があります。
全体として言えば、今年のNinja ZX-RRパッケージの戦闘力は格段に上がっていますね。冬季テストとIRTAテストの結果を見てもわかる通り、他のワークスチームとの差をかなり縮めています。
あなたと、それとチームメイトのランディー・ド・ピュニエ選手ですが、テスト中のラップタイムは素晴らしかったですね。実際のレースになってもこの性能は発揮できるものでしょうか?
テスト日の終盤に予選タイヤで出したタイムはあまり重要ではありませんが、レースタイヤでも安定したタイムを出す事に成功しています。以前は冬季テストを終えて最初のレースを走った途端、1秒以上ペースを離されるという傾向にありましたが、今年は大分違いますよ。
今年のテスト期間中はレースタイヤでも安定してトップ3に入っていましたので、これは実際のレースでの性能予想として考えても問題ないと思います。テストタイムを基本にすればですが、レース中に先頭を走れる自信もあります。また、今年は複数のサーキットで表彰台を獲得する事にもかなり自信があります。
この冬季期間中の成績に対して、ブリヂストンタイヤの進化はどのくらい貢献していますか?
MotoGPにタイヤの性能はものすごく重要ですからね。ブリヂストンは冬季中に大きな進歩をいくつか見せてくれましたよ。去年は2つか3つのサーキットで苦しみましたが、ブリヂストンは問題点を素早く把握してくれて、冬季テスト中には改善の兆しにありました。多分これはカワサキがブリヂストンを履いて3期目となる事が大きいように思います。
ブリヂストンは他のチームよりもカワサキが要求するタイヤのニーズを把握していますし、自分たちもブリヂストンの仕事の仕方を理解しているので、簡単にこちらの要求を伝えられるんです。
昨シーズンが終ってから直後のあなたのスケジュールは凄かったですね。冬季テストはどのくらい体力的に厳しいものなのでしょう。また、気持ちを維持するのも大変ですか?
確かにテストの度に3〜4日間も気持ちを集中させるのは簡単ではありませんよ。朝は早くから仕事して、午後にコースが閉鎖されるまでずっとですからね。特にマレーシアが厳しいです。暑いし湿気が凄いし、コースレイアウトも体力を要求しますしね。
最初のうちは前もってテストに合わせて調整をするのは難しいんですが、GP歴が7年にもなるとテストの要領もわかりますので、長期間通して集中力を維持する事ができるようになるんです。また、休憩の取り方もどれだけ大事かが分かりましたね。うまくやればリフレッシュしてまたコースに出て行けます。
でも今年はやる気や集中力の維持が比較的楽でしたよ。テストの度にバイクが進化しましたから。セッション毎にタイムが上がると、どんどんプッシュしたくなるものなんです。目的の周回数は走り続けなければなりませんが、期待通りに改善が進まない時に比べれば遥かに簡単ですよ。
ランディー・ド・ピュニエの参加をどう見ていますか?またチームメイトの彼に負けなかった事はどのくらい重要でしたか?
彼のNinja ZX-RRへの順応の早さはちょっと驚きでしたし、最初のテストから速かったのにもびっくりしました。ダニ・ペドロサとか、他の250ccからの移籍組みにも同じ事が言えますね。
ランディーも僕も250cc経験者ですから、二人のライディングスタイルやセッティングの方向性は非常に近いですよ。二人のライダーが似ていて、同じような要求をするのはチームにとってもブリヂストンにとっても良い事だと思います。
以前はチームメイトと自分のスタイルが全く異なったので、それぞれのバイクに別々のセッティングやタイヤが必要でしたからね。今は二人とも同じ方向性で動いていますから、皆にとって便利な状態だと思います。
ランディーみたいな強いチームメイトがいて嬉しいです。でも、チームメイトが何をやっているかをそれほど気にする事はないですね。僕の前を走っていない限りはですけど。彼のテスト中のラップタイムは良く知っていますが、同じバイクに乗る誰かに気分的に押されるのは良い事ですよ。ただ、僕の目標はチームメイトに勝つ事ではなく、全てのライダーに勝つ事ですけど。
今シーズンの目標を教えてください。
過去2年間は年間10位に終りましたが、今年はもっと高い順位で終りたいです。理想的には年間5位以内です。
また、レースではトップ争いが出来ることを楽しみにしています。以前は先頭集団が遥か先に行ってしまい、第2か第3集団内の争いしかできませんでしたから。今年は表彰台に乗れると思います。いい加減シャンパンも恋しいですからね。2004年の茂木以来シャンパンを味わっていませんから禁断症状が出始めています。
今年はどこのサーキットで表彰台に乗れそうでしょうか?
ヘレスはZX-RRと相性が良いんですよ。去年のレースでも良い結果でしたし、IRTAテストも同様に良かったですからね。ヘレスは表彰台のチャンスがあると思います。また、ザクセンリンクもZX-RRとは相性が良いので、チャンスはあるでしょうね。チームの本拠地はドイツですから、チームのホームレースで表彰台がとれると嬉しいです。
あとはマレーシアもそうです。以前から長くあそこでテストをしていますし、過去の成績も悪くありません。パワフルなコースレイアウトですよね。2本の高速ストレートは確実にトップスピードに達します。気温と湿度が高いのでタイヤも非常に重要ですが、セパンはブリヂストンにとっていくらか有利ですよ。
それと自分のホームレースの茂木も良い成績を残したいです。茂木はあまりZX-RRに有利なコースとは言えませんが、地元ファンの応援に凄く期待しているんです。彼らの応援はレース中の1周につき0.2秒タイムを縮める力があるんです!
(写真提供:カワサキレーシング)
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