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2006年8月28日
当然の事ながら、レースを戦うライダーは誰一人として怪我をしたくないし、事故が起きない事を願う気持ちはレース関係者もファンも同じだろう。
■生身で戦うオートバイレース
どんなにウェアやヘルメットなどのプロテクターが発達した現在でも、20人以上のライダーが時速250km以上の速度で前を争い、時には感情的にもなって接触寸前のラインを奪いあうレースの世界では、怪我のリスクは常につきまとう。4輪の世界と違い、バイクは転んだだけで生身の身体がどうしてもアスファルトに投げ出されるのだから、痛い思いをしたことのないGPライダーなどこの世には存在しない筈だ。
実際、MotoGP全クラスの年間シーズン中に転倒するライダーの合計は、延べでおよそ700人に上り、これは1レースウイークに換算すると約40人、レースウイーク中の1日では約13人が何らかの危険な状況を経験している事になる。
MotoGPライダーが最も負傷し易い箇所としては、背中、手首、手のひらの骨、足の甲の骨などが上げられるが、どのライダーも決まって負傷の後には可能な限り早く回復する事への意欲に燃え、一般的には信じられないような速さで回復する例も少なくないという。
■MotoGPライダーが絶対的な信頼を置くクリニカ・モバイル
GPの現場の医療機関と言えば、多くのファンがその名前を知っている通り、今ではGPライダーの怪我のケアになくてはならないクリニカ・モバイルだ。今年のカタルーニャ以降は怪我人が続出し、クリニカ・モバイルの責任者であり、敬虔なクリスチャンとしても知られるクラウディオ・コスタ医師が毎日各チームのピットに現れ、多くのライダーを献身的にサポートしていた姿はまだ記憶に新しい。
バレンティーノ・ロッシをはじめとするGPライダーたちは、コスタ医師の診療判断に絶対的な信頼を置いている。コスタ医師は大怪我を負ったライダーでも、ライダーに出場意志がある限りはなんとか走れる方法や治療方針を模索する事で知られており、逆に言えば、コスタ医師が「出場不可」と判断した時には本当に深刻な状態を意味しており、これに逆らうライダーはいない。
■権限を持たない善意の医療機関
しかしながら、クリニカ・モバイルはFIMが定めた病院ではなく、レース出場の最終決定権などはサーキット開催地毎にFIMが第1医療機関として任命した病院のチーフ・ドクターが持つ。クリニカ・モバイル側がライダーのレース出場を可能と判断しても、先のドイツGPのケーシー・ストーナーの例のように、地元のチーフ・ドクターが許可をしなかった場合にはレースに出場する事ができない。
医療方針の権限という観点でも、クリニカ・モバイルはあくまでFIMの制定した病院のサポート役に徹しており、大きな権限は持っていない。チーフドクターとクリニカ・モバイルの治療方針に相違が見られた時に、ライダーがクリニカ・モバイル側の方針を選択する場合には、チーフドクターの意志とは異なる治療を選択した事を記録する書類にライダーは署名する事を要求される。
ここでは、あくまで善意の医療機関としてMotoGPを支えるクリニカ・モバイルの歴史を以下に紹介したい。
■クリニカ・モバイルの歴史
クリニカ・モバイルは、元々はクラウディオ・コスタ医師の実の父親であるケッコ・コスタ医師がオートバイレースのために設立した移動診療所であり、GPパドックに初めてその姿を現したのは1977年の事だった。ケッコ・コスタは、クリニカ・モバイルの全権を息子のクラウティオ・コスタ医師に譲っている。
1977年のドイツGPでは、クリニカ・モバイルは初の手術を行っている。この時はザクセンリンクの1つのコーナーで同時に5人の250ccライダーが転倒し、全員が危機的な重傷を負うという悲惨な事故だった。この時にクリニカ・モバイルは、後に最高峰クラスの500ccチャンピオンとなるフランコ・ウンチーニの命を救っている。
2度目にクリニカ・モバイルがGPシーズンに現れたのは1981年であり、その翌年の1982年のイモラ・サーキットでは、当時500ccクラスのライダーだったグラシアーノ・ロッシの命を救った。現在バレンティーノ・ロッシとクラウディオ・コスタ医師は親友と言われているが、ロッシにとってクリニカ・モバイルのスタッフは実の父親の命の恩人でもある。
1988年にはWGP(MotoGP)だけではなく、多くのヨーロッパのロードレース、モトクロス、カート・レースの現場にも出張するようになり、1997年以降はSBKのパドックにもクリニカ・モバイルが定着した。なお、MotoGPに現在の形でクリニカ・モバイルが安定して定着したのは2002年からだ。
■提供されているサービス
現在のクリニカ・モバイルは、医師や物理療法士、各方面の技術者や運転手を含む107名のスタッフで構成されており、この中でMotoGPを専門に担当するスタッフは16名から18名だという。
パドック上のクリニカモバイルは、受付施設、治療室、レントゲン施設、診療データの保管倉庫などの設備から構成されており、全ての機材は救急処置に適した設計がなされている。
基本的に、サーキットのメディカルセンターで治療を受けた全てのライダーは、クリニカ・モバイルで続きの治療を受ける事ができる。また、ライダーとクリニカ・モバイルのスタッフの殆どは友人関係となっている事が多く、家族のような居心地の良い空間が厳しいレースを戦うライダーたちに提供されている。
■決して潤沢ではない運営資金
ライダーやレース関係者だけではなく、2輪レースファンにも安心感を与えてくれるクリニカ・モバイルだが、資金繰りは決して楽ではないのかもしれない。クリニカ・モバイルの機材や資金の多くは各方面からの寄付により成り立っており、オートバイレースに理解を示すスポンサーからの支援を常時求めている。
オートバイレースが栄えれば企業からの寄付や投資が増え、クリニカ・モバイルのような医療機関が充実する。また、専属の医療機関が充実すればライダーもオートバイレースに安心して参加できるようになる事から、現在のスペインやイタリアを中心とした世界各国のMotoGPやSBK等のロードレース人気が、今後も続く事を願わずにはいられない。
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