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2006年5月3日
ドゥカティー・ワークスのテストライダーであるビットリアーノ・グアレスキが、2007年からのMotoGPマシンとなる800cc仕様のデスモセディチGP07をテストしている。
MotoGPの4ストローク化に伴い、2001年までの最高峰クラスレギュレーションである2スト500ccのほぼ倍にあたる990ccの排気量が2002年から4ストロークエンジンには許可されたのは、まだ記憶に新しいところだ。
■2ストより2倍の排気量(990cc)は4ストローク化に妥当と言えたか?
元々は4ストロークエンジンの排気量あたりの出力効率は2ストロークエンジンの半分とする計算から制定された当時の新レギュレーションだったが、これが少し乱暴な計算だった事は、2002年以降の最高速度の急激な上昇や、それに追いつこうとする2スト勢の無茶なチューニングによる怪我の多さに現れていた。
以前の最高峰クラスのレギュレーションは、4スト2ストに関係なく500ccが最大排気量だった。4スト信者で知られる本田宗一郎指揮するホンダは、果敢にも4ストローク500ccエンジンで1979年に当時のWGP(現MotoGP)に復帰、参戦している。
■なぜ2倍の排気量になったのか(2ストと4ストの機構)
今更説明するまでもないが、2ストロークエンジンはピストンに圧縮されたガソリンと空気の混合ガスを1度シリンダー内で爆発させ、その勢いで下がったピストンが再び元の圧縮位置に戻る過程で燃焼ガスをチャンバーに排出し、同時に混合ガスを再びシリンダー内に取り込む。これらの仕組みを、極端に言えばだが、気体の負圧と加圧のみでリードバルブを開閉する事で実現している。ピストンが1往復(2ストローク)する頃には再び爆発する準備が整っているわけだ。
一方4ストロークエンジンは、ピストンに圧縮された混合ガスを爆発させ、その勢いでピストンが上下する過程で排気バルブの蓋を機械的に開閉させて燃焼ガスをマフラーに送る。ピストンの往復工程1回(2ストローク)を爆発と排出に使い、その惰性で再びピストンが下がる時には機械的に開閉させられた吸気バルブを通って混合ガスがシリンダー内に入り、ピストンが上に戻るもう一回の往復(2ストローク)でそれが圧縮されて再爆発の準備が整う。1回の爆発から次の爆発の準備に4ストローク(ピストン2往復)を必要とするわけだ。
■2ストと4ストを互角にする2つの方法と不可能に挑んだホンダ
単純計算した場合、2ストロークと4ストロークのエンジン回転数を同じとする場合は、爆発回数が半分となる4ストロークエンジンが2ストと互角に戦うには排気量(1回で取り込む混合ガスの量)を倍にしなければならない。これが02年のレギュレーション4スト990cc化の理由だ。
2ストと4ストを互角に戦わせるもう一つの方法は4ストロークエンジンの回転数を倍にする事だが、すでに金属の加工品として物理的に可能な回転数の限界に近いGPマシンにとって、それはあまり現実的な話ではない。だが、この無茶な方のアプローチ(当時は4スト優遇策がない為)に挑戦したのが79年のホンダだ。
ホンダはこの不利な条件を克服すべく、ピストン形状を楕円にして平たくし、今や伝説のマシンとして語り継がれる楕円ピストン登載のNR500を開発した。
■伝説のマシンNR500と不可能に挑戦した楕円エンジン
回転数を単純に倍にしただけではエンジンが壊れるのは明白だが、ピストンが1回下がる移動距離(ストローク)を半分にすれば物理的な条件は乱暴だがほぼ同じになる。排気量を同じにしてピストンの移動距離を半分にするにはシリンダーの数を倍にする必要があるが、79年500ccのレギュレーションは最高4気筒までだ。8気筒にしたいホンダは既成の概念を破り、2個のピストンを横に接続して1つにするという発想をした。これが楕円形状のピストンだ。
結局NR500は3年間のGP参戦でポイント獲得はならなかったが、機械加工精度や強度の高く求められるピストンやシリンダーを楕円加工して倍の回転数を目指し、高回転摩擦による高熱と戦いながら4ストロークマシンをGP500で走らせたホンダの意気込みは、今でも高く評価されている。
■パワーのありすぎた990ccマシンと、そもそも不利だった2スト勢
話を990ccに戻すと、2003年の鈴鹿での事故を皮切りに、990ccMotoGPマシンにパワーがありすぎる事、および現存のサーキットではそれらを走らせる上でのライダーの安全面を確保できない事が大きく取りざたされるようになった。
なぜ2スト500ccを倍にした4ストマシンがそれほどまでに出力が出たのか疑問に思う方もいるだろうが、混合ガスを吸気して爆発し、それを同時に排出するという2ストは、シリンダー内の混合気には燃焼済みのガスがどうしても混ざる。4ストは完全に燃焼ガスを外に送り出した後に混合気を吸入するので2ストのような不完全燃焼は発生しにくい。
また、エンジン性能には単純な数値上の出力以外にトルクという要素もある。吸気と排気をスカスカと同時に行う2ストはパワーの粘りがあまり得られない。4ストロークは機械の弁の介在により圧縮された気体を温存する時間が長く、気体の反発エネルギーが多い分トルクを得やすい。これは気体の容量にも比例する特性であり、排気量に格差を設けた時点ですでに2スト500ccエンジンは、重量が軽い事を無視すれば瞬発力やトルク面では大きく不利だ。
2ストは4ストのマフラーにあたるチャンバーでこの気圧を調整しトルクも得るが、燃焼ガスを排出する効率面との兼ね合いから限界がある。
■なぜノリックが2ストを恋しがったか
排気量あたりの出力以外に2ストが4ストに比べて有利な点をあげるとすれば、エンジンブレーキの少なさだろう。運転中エンジン内の残留圧が少なく、機構が単純である事からメカニカルロスが少ない2ストは、アクセルを閉めた時に極端な惰性の減少はないが、4ストロークはシリンダー内の爆発がなくなれば複雑化した機械の抵抗や内在する気体圧力がそのまま逆方向へのトルク(バックトルク)となり減速力を生む。
平たく表現すれば、クラッチをうまく使用するかアクセルワークを変えない限り「つんのめる」わけだ。
初期の4ストMotoGPマシンに2ストから乗り換える事ができなかったライダーが多く存在するのは、こうしたエンジン特性の違いから生じるブレーキングからコーナリングにかけてのマシンコントロール方法の違いにある。幸い、4ストのバルブ制御はコンピュータの導入が進んだ世界である為、最近のMotoGPマシンの殆どはクラッチ等を含めた電子制御によりバックトルクを制限(バックトルクリミッター)する事で2ストの乗り味に近づいており、今年のMotoGPルーキー等がMotoGPマシンへの乗り換えに以前ほど苦しんでいる様子はない。
■2007年最高峰クラスのレギュレーション
元々、MotoGP最高峰クラスの排気量はマシンの性能向上と同時に引き下げられる予定になっていたが、FIMは2005年の6月に、2007年からの800cc化を正式に発表した。これに向けてメーカーは更なる技術導入を行う事が予想されており、2007年以降も激しいパワー争いが展開される事は間違いないだろう。
ちなみに、楕円ピストンの使用と2スト500ccの使用禁止が新レギュレーションには明記されそうだ。現在のレギュレーションには2007年以降の予告として以下の通り書かれている。
As from January 1st, 2007, the maximum engine size capacity will be 800cc and 2-stroke engines will not be allowed. (2007年1月からの800cc化に伴い、2ストロークエンジンは使用禁止となる)
As from January 1st, 2007, the minimum weights required in the Motogp class will be the following :
(2007年1月からのシリンダー数別の重量制限は以下の通り)
2 cylinders or less 133 kg
3 cylinders 140,5 kg
4 cylinders 148 kg
5 cylinders 155,5 kg
6 cylinders or more 163 kg
The use of oval pistons will be forbidden. (楕円ピストンの使用は禁止される)
■800ccマシンをムジェロで公開するドゥカティー
話を最初のデスモセディチGP07に戻そう。ビットリアーノ・グアレスキは、初のGP07のムジェロでのテストを5月2日から4日まで続ける過程で、800ccバージョンのマシンについて以下の通り述べた。
「GP7でのラップ一周目には本当に興奮しました。」とグアレスキ。
「今までバイクが抱えた課題への対策を試すのには慣れていますが、今回の経験は全くそれとは異なります。全てにおいて新開発のマシンですから、今までと違って刺激的ですよ。」
2002年からテストライダーとしてドゥカティーワークスに参加し、GP3を2002年8月1日に試乗したグアレスキは語る。
「GP3の初期バージョンをここで試したのをまるで昨日のように感じますが、もうあれから4年もたつんですね。今日は新しいMotoGPプロジェクトの重要な一歩になりました。まるで2人目の子供の誕生を祝うようですね。産声(サウンド)は悪くないですよ!」
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