スポンサー騒動の背景
2006年1月10日 ShoppingOn編集部

ゴロワース、キャメル、テレフォニカという3大スポンサーのMotoGP離脱騒動は、昨日のキャメルヤマハの誕生により、少し落ち着きを取り戻しつつある。

現在までに確認できているスポンサーの動向をまとめると、テレフォニカはMotoGPから完全に撤退してF1に注力、ゴロワーズもMotoGPから撤退してWRCのシトロエンチームに移動、ゴロワーズの兄弟会社であるフォルツナはテレフォニカが去った後のグレッシーニ・ホンダをサポート、そしてキャメルはヤマハワークスのスポンサーとしてMotoGPに舞い戻ってきた。

そもそも、ここまで大きなスポンサーとメーカーの対立劇は何が原因だったのだろうか。バレンティーノ・ロッシのたばこ嫌いを中心にディベートを展開してきた海外メディアも、キャメルヤマハの誕生によりその論調を弱めつつある。

今回も、昨年の早いうちから「メーカーとスポンサーの力関係」をテーマに現在の動向を見守ってきた米国のSPEEDTV.COMの考察を、参考までにご紹介したい。

日本のバイクメーカーの研究部門は長年、彼らの持てる全ての技術を市販車両に反映できない事に不満を抱いていた。市販車両をベースに行われる4ストロークのスーパー・バイク・レースには、各メーカーの車両性能を均一にし、レースの娯楽性を高める事を目的とした厳しいレギュレーションが存在するからだ。

この背景において、GPの4ストローク化は日本のバイクメーカーの研究開発における自由度を取り戻す事となり、研究者は厳しいレギュレーションに縛られる事なく、にレースに特化したマシン性能を追求すればよくなった。これは同時に、研究開発費用の留まるところのない増加を意味する。

MotoGPクラスのレギュレーションが制定された時、各チームは最低でも25%から33%のリース費用増加を覚悟するよう、メーカーから通達されたらしい。これは金額にして80万ドルから120万ドル、日本円にして約1.4億円の値上げになる。ただしこれは純粋なマシンのリース費用であり、実際のチーム運営に必要となるマシンの維持費用を加算すれば、ライダー1人に2台のRC211Vを提供した場合のコスト増分はおよそ300万ドルから350万ドル、日本円にしておよそ4億円だ。当然、マシンの性能維持レベルによりこの金額は変わってくるのだが。

過去のGPMA(グランプリ・マニュファクチャー協会)は、4ストロークエンジンのみを開発していたカワサキとドゥカティーを追加した現在のMSMA(モーターサイクル・スポーツ・マニュファクチャー協会)に組織変更した際に、「GPレースは市販車両に技術を還元できない、市場とは無縁のもの」とする考えを撤回した。当時スーパーバイクの開発に研究費用を投じていた各メーカーは、一斉にその経費をMotoGP側に切り換えている。また、スーパー・スターであるバレティーノ・ロッシの登場により、GP界は一気に活性化し、レースは激化した。

この時にワークスチーム(特にホンダ)は、特定の国籍のライダーにばかり優先してシートを与えたがるスポンサーに業を煮やしていた。最大手の市場といえるテレビ視聴者の急激な増加を背景に、スポンサーは商業目的を理由にチームの自由なライダー選択を妨害する傾向にあったらしい。ワークス各チームのディレクターは、何とかこの流れを止める手段を模索していたようだ。

ラップタイムとレース結果のみを考えていたいレース現場の人間にとって、スポンサーの商用効果に関する長々とした話は、長年に渡る悩みの種だったようだ。 MotoGPクラスの開設後、ワークスマシンの開発費用は各メーカーの自己投資により解決する方向にあったのだが、スポンサーは以前にも増して自分たちの出資額を高く設定するようになった。これは、彼らのライダー選択権限を高める事が狙いだと、記事中では述べている。

メーカーはMotoGP以後、ようやくマシン・レギュレーションの制定とGP業界の方針に関する主導権を取り戻した。しかしながら、実はスポンサーだけではなくDORNAも、ジェレミー・マクウイリアムスやシェーン・バーンといったBBCの広報担当と成り得るイギリス人代表選手を必要としていた。2003年のニール・ホジソンについては、戦闘能力の低いマシンを与えられて「イギリスの象徴」にされたという気の毒なケースだが。

資金力のないチームは、DORNAからの援助金を得る為にDORNAにとって都合の良い国籍のライダーと契約を結びたがり、ヤマハやホンダのような資金力のあるワークスチームは、DORNAやスポンサーの要求に憤慨した。

ホンダが2005年に最も業を煮やしたのは、ひとつのワークスチームに主力の2名のライダーを配置できなかった事だ。ホンダはニッキー・ヘイデンとセテ・ジベルナウをレプソル・ホンダチームに配置するよう望んだが、セテ・ジベルナウは当時の個人スポンサーとも言えるテレフォニカ(グレッシーニ・ホンダ)と契約してしまった。実はこれが、マックス・ビアッジとキャメルに纏わるホンダ騒動の火種である。

セテ・ジベルナウは名前だけのサテライトチームに所属し、最終的にワークスのシートはマックス・ビアッジに与えられた。これは結果として双方の微妙な懐疑心を生み、口うるさいイタリア人とホンダの間には大きな亀裂が生じてしまう。結局、マックスは全てのホンダ関係者から拒否権を発動されてしまい、MotoGPに復帰する道を事実上閉ざされてしまった。

今後も、さらにMotoGPの開発コストは増加する。ワークスチームは2006年においては、2種類のプロトタイプマシンを開発しなければならない。現行の990ccマシンと2007年の新レギュレーションである800ccマシンだ。もちろん、同時に開発する義務があるわけではないが、タイトル獲得を狙う以上は他に遅れを取るわけにはいかないだろう。

ヤマハのサテライトチームであるTECH3は現在も資金難のままであり、2006年の参戦を諦めたホンダ・ポンスと同様に、運営費用が危機的な状況にある。その一方で、ヤマハワークスは2006年シーズンの費用とは別に、2007年に向けて2,000万ドル、日本円にしておよそ22億円の開発投資を行うようだ。

ワークスとスポンサー、およびDORNAの対立の構造は、もともと経営に苦しむフランチャイズチームの資金難にも拍車をかける結果となったようだ。
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