|
元チャンピオンが語る2007年MotoGP上半期の感想 |
|
|
|
|
|
|
2007年8月6日
最高峰クラスの800cc元年となった今年の2007年シーズンは、ケーシー・ストーナー、ドゥカティー、ブリヂストンの3者が、ほとんどのサーキットで他を圧倒する強さを示すという、開幕前だけではなく、シーズン序盤に入っても誰も予想をしなかった展開が繰り広げられている。
■賛否両論、議論の多い2007年シーズン
これら多くの予想外の事態を受け、今期から施行された使用タイヤの持ち込み制限や、F1では2008年から使用の禁止が予定されているトラクション・コントロールなどに代表される電子制御システムの進化について、様々な意見が飛び交うようになったが、往年のグランプリ・チャンピオンたちはこの風潮をどのように見ているのだろうか。
■5人の元チャンピオンが述べる2007シーズン上半期の感想
ここでは、レプソルYPFが公開している5人の元グランプリ・チャンピオンへの2007年シーズン上半期を終えてのインタビューを紹介したい。ストーナーの台頭とロッシの苦戦を受けての世代交代時期に関する意見など、元チャンピオンならではの経験に基づく非常に興味深い内容となっている。
レプソルYPFが用意した5つの質問に同時に回答しているのは、1970年代から1980年代前半の小排気量カテゴリーにおいて連続王者として君臨したアンヘル・ニエト、1980年代後半の小排気量連続王者であり、アスパルの通称で親しまれ、現在は125ccと250ccクラスの名門アスパル・チームのオーナーであるホルヘ・マルティネス(アスパル)、ミック・ドゥーハンの最高峰500ccクラス5連覇の翌年となる1999年に500ccタイトルを引き継ぐ形となったアレックス・クリビーレ、同じく1999年に125ccクラスで年間タイトルを獲得したエミリオ・アルツァモラ、1988年と1989年の250ccクラスで連覇を達成し、2005年まではMotoGPクラスの名門ホンダ・ポンスのオーナーでありIRTAの責任者を務めていたシト・ポンスという、そうそうたる5名のスペイン人メンバーだ。
問1)2007年シーズンの前半に最も驚いたのはどんな事でしょう。
●アンヘル・ニエトの問1への回答
もちろんドゥカティーとストーナーです。これは私に限らず全ての人が驚いた最大の出来事だと思いますね。誰もドゥカティーとストーナーがここまでの活躍を見せるとは予想していませんでした。
彼は以前にすごい記録を樹立したような事はありませんでしたし、250cc時代にはやたらと転んでいましたからね。昨年のMotoGPクラスの時もそうでした。
ですから当然、彼はそれほど人気の高いライダーだった訳ではありません。にもかかわらず、彼の今シーズンの走りは素晴らしく、ホンダとヤマハを苦しい状況に追い込んでいます。
●ホルヘ・マルティネス(アスパル)の問1への回答
驚いたのは、ドゥカティーとブリヂストン、それにストーナーという3者の組み合わせが生み出したバランスの良さです。私は今シーズンはホンダが上位につけるものだとばかり思っていました。
今年は本当に驚くべきシーズンになりましたね。シーズンの序盤には、誰もこの結果を予想できませんでした。こんな事が起こる可能性さえ考えませんでしたから、私にも予想は無理でしたね!
●アレックス・クリビーレの問1への回答
ドゥカティーに乗ったストーナーの成績が、私にとっての最大の驚きだった事は言うまでもありません。
●エミリオ・アルツァモラの問1への回答
そうですね、一番の驚きはストーナーとドゥカティーでしょう。ストレートの少ないカーブだらけのサーキットでは苦戦をすると多くの人が信じていましたが、それは間違いでした。
彼はここまでのシーズン半ばを通して最強ライダーにのし上がりました。どんなサーキットでも、またウェットやドライにかかわらずどんな路面状況でも、どんなに難しいプラクティス・セッションでも彼は強いんです。これは驚き以外の何ものでもありません。
また同時に、良くない方の驚きはダニ・ペドロサの現在の状況です。彼はもっと高い成績を狙えると思っていました。昨年のペドロサは、最高峰カテゴリーの初年度から大きく活躍したこれまでにも数少ないライダーの1人でしたからね。
でも、HRCが新型バイクの問題を認めるなど、今年の彼はいくつかの難しい問題に直面しています。これらの状況を考慮すれば、ダニはシーズンの前半を通して本来の走りができていないと考えるべきでしょう。
●シト・ポンスの問1への回答
ストーナーが一貫した強さを見せており、本当に驚くべきシーズンと言えますね。彼は今シーズンの衝撃そのものですし、何よりも、彼があの若さで急激な成長を遂げたのを誇示しているのがすごいと思います。
彼がもともと速いライダーだった事は間違いのない事実です。優れた才能を持ち、将来有望なライダーだと当時の誰もが思ったから、MotoGPにステップアップする事ができた訳ですからね。
さらに今期のドゥカティーとブリヂストンタイヤの組み合わせは、ミスをしなくなるという自信を彼に与えました。この自信が、彼に今期の素晴らしい活躍をもたらす事になったのでしょう。
問2)MotoGPクラスにおけるブリヂストンとミシュランのタイヤ戦争についての意見をお聞かせ下さい。これだけ大きな違いが生じる事はフェアだとお考えですか。
●アンヘル・ニエトの問2への回答
ちょっと多くの人がタイヤについての話ばかりをしすぎているではないかというのが正直なところです。最近は、誰かの勝敗の原因は全てタイヤにあるような風潮ですよね。
タイヤがうまく機能するのは、シャシーおよびバイクの他のパーツ類が正しくセッティングされた時だと私は考えています。タイヤの挙動の善し悪しはそれで決まってくるのです。シャシーに何か問題があればタイヤは余分に消耗しますし、その場合にライダーはタイヤから好感触を得る事ができません。
私はマシンが全てだと思います。現在の状況はその中でタイヤの重要度が増したという事でしょう。確かにブリヂストンとミシュランは年間タイトルを争っていますが、その一方で、ライダーとコンストラクター(メーカー)だって年間タイトルかけて戦っているのですからね。
●ホルヘ・マルティネス(アスパル)の問2への回答
私たちは世界選手権についての話をしているわけですからルールは絶対です。それにこれまでにだってタイヤは数々の年間タイトルに影響を与えてきました。どんなカテゴリーにおいてもそれは同じ事です。
現状について、おそらくミシュランは不満を言い続けるでしょう。彼らはこの世界を支配してきた訳ですからね。しかしながら、すでにブリヂストンが一歩秀でてしまった事は疑いようのない事実なのです。
●アレックス・クリビーレの問2への回答
問題ないと思います。今年はここまでにブリヂストンがミシュランとの戦いに勝っているようですが、まだ今シーズンが終わった訳でもありませんしね。
今の段階で何かを決める必要はありませんよ。ミシュランだって死に物狂いで挽回してくる筈です。彼らは今年も勝利に向けて最高の仕事を見せてくれると思います。それがいつものミシュランですからね。
●エミリオ・アルツァモラの問2への回答
タイヤの本数を制限する新しいレギュレーションは、今年のレースに色々な変化をもたらしました。従ってコンストラクターやライダーたちにとっては、難しいシーズンの中盤戦になりましたね。
ブリヂストンは以前の経験を通し、新レギュレーションでは一歩秀でた状態にあると思います。
バイクの挙動はタイヤに大きく左右されますから、タイヤの分野における技術革新は少し制限されるべきでしょう。
●シト・ポンスの問2への回答
選手権をより面白いものにする1つの成分にすぎないと私は考えています。
問3)コンピュータ制御など、テクノロジーに関する質問ですが、技術革新がレースの醍醐味を阻害する要因になっていると思いますか。
●アンヘル・ニエトの問3への回答
はい、少しそう思いますね。もちろんバイクの安全面は向上しました。ライダーが転倒する場面は見たくないものですし、その分野において技術革新はいい結果をもたらしてくれます。
しかしながら、2ストローク500cc時代に自分たちが良くやったドリフト走行的な技術(スライディング)を一切見る事がなくなってしまいました。トラクション・コントロールは確かに素晴らしいものですが、そういう場面での迫力といったものは少し失われたように思います。
ただ、その一方では、多くのライダーが勝利を狙えるようになり、レースが白熱して面白くなるというのも事実でしょう。最近のMotoGPクラスのいくつかのレースでは、まるで125ccクラスのように7〜8人のライダーが最後まで勝利をかけたバトルを繰り広げましたからね。
●ホルヘ・マルティネス(アスパル)の問3への回答
そうですね、それについては疑う余地もないでしょう。いくつかの面で間違いのない事だと思います。
何年か前のバイクはもっと迫力があったというのは絶対的に事実です。セッティングの面でもライディングの面でもより難しい存在でした。今は最新の技術が全てをコントロールしていますから、その分、難易度の面では易しくなっています。
ですから、レースの迫力という意味では、その醍醐味を少し阻害しているのではないかと私は考えています。
●アレックス・クリビーレの問3への回答
少しそう思いますね。
トラクション・コントロールについて言えば、この分野はかなり技術が進んだと思います。ただ、その影響でレースの迫力がやや減少しているのではという懸念はあります。
少しだけ立ち直って考えるべき部分かもしれませんね。
●エミリオ・アルツァモラの問3への回答
それはどの部分に視点をおくかによると思います。
電子制御などの技術革新がライディングを均一レベルにしている事は明らかでしょう。これは排気量が変更された事で、より顕著になりました。一方的な視点から述べるならば、どのバイクに乗るライダーにとっても同じ割合でタイトルを狙えるチャンスが出てくるので、これはいい事だと言えます。
しかしながら、この影響でライディング技術がどんどん重要ではなくなっていくのも事実です。ライダーは常にバイクの性能には期待するものですし、今はトラクション・コントロールなど、多くのライディング支援の新技術が利用可能ですからね。
●シト・ポンスの問3への回答
私はそうは思いません。レースは以前の迫力と何一つ変わっていないと私は思っています。
おそらく、以前にはよく見たドリフト走行的なものにかけるライダーの情熱は薄れたでしょうね。しかしながら、基本的にレース自体は変わっていませんし、他のどのモータースポーツと比べても2輪のレースは迫力があって面白く、エンジンを使用した他のどの業界よりも刺激的です。
問4)2ストロークの500ccから、4ストロークの990cc、そして800ccへと、最高峰クラスは排気量が変化しました。これについての感想をお聞かせ下さい。
●アンヘル・ニエトの問4への回答
過去何年かの990ccマシンとはかなり違うものになりましたが、今の800ccマシンは素晴らしいです。とてもいいサイズになったと思います。
ホンダのマシンと同様に、ドゥカティーなどのマシンを見ても、それぞれに素晴らしいと感じました。ライダーが進化を続けるように、マシンも常に進化を続けている事と、その技術革新に感銘を受けましたね。
●ホルヘ・マルティネス(アスパル)の問4への回答
問題は排気量ではなくテクノロジーの進化です。昨年に比べて今年の800ccマシンは技術革新が飛躍的に素晴らしいんですよ。本当に速いマシンになりましたしね。
マシンのサイズの違いはルールに過ぎません。トラクション・コントロールや、その他の同系統のテクノロジーがすごいのであって、排気量の問題ではないと思います。
●アレックス・クリビーレの問4への回答
個人的にも800ccカテゴリーは適切なクラスだと感じていますが、先にも述べた通り、トラクション・コントロールは撤廃するべきだと思います。
800ccマシン自体はすごく楽しんで走れるバイクだと思いますね。
●エミリオ・アルツァモラの問4への回答
どのカテゴリーも迫力があったと思いますし、現在も白熱しています。特に今シーズンの白熱のレベルのすごさは800ccカテゴリーにおける力の均衡度合いによるものだと思いますし、結局これはファンが望む状況そのものではないでしょうか。
均一レベルの戦いになり、より多くのライダーが勝利を狙って戦えるようになったと思います。
●シト・ポンスの問4への回答
これらは時代の流れやテクノロジーの進歩に沿ったものだと思います。2ストロークの時代には500ccバイクが技術的に最先端でしたが、それが4ストロークの990ccになり、さらにより小排気量の4ストローク・エンジンとなりました。
忘れてはいけない事は、現在のマシンに利用されている最先端技術の多くは、市販の公道用バイクにも採用されているという事です。
問5)今年を境にMotoGPクラスは世代交代が進むと思いますか。
●アンヘル・ニエトの問5への回答
世代交代はすでに始まっていると思います。ダニ・ペドロサは21歳、ストーナーも21歳という若さです。その他にも、今後は非常に若いライダーたちが台頭してくるでしょう。
バレンティーノはまだ28歳という若さなのに、彼でさえとても古株に思えてきますね。ちなみにバレンティーノはあまり大きな怪我や、その影響を受けた事のないライダーですから、特に残りのライダー生命に焦りを感じたりはしていません。
いずれにしても「新しい世代」について話すのであれば、バレンティーノはその中には含まれないでしょう。もう4〜5歳下の世代を指す言葉でしょうね。そういう意味では、今シーズンは何回か世代交代の兆しはありましたね。
●ホルヘ・マルティネス(アスパル)の問5への回答
それは疑うまでもない事です。その兆しは去年に始まりましたが、今年はその最後の一押しだと思います。
それが論理的に考えても自然な流れでしょう。人生そのものです。だからこそ新しい世代がすぐそこまで来ているのです。
●アレックス・クリビーレの問5への回答
そんな雰囲気はしていますし、私にはまだカピロッシやバロスのようなライダーが今後も戦いを続けるのか、今ひとつ確信が持てません。
もちろん、彼らはまだレースを続けたいんだと思います。彼らこそが古い世代のライダーですが、まだ来年の引退は早すぎるのかもしれませんね。しかしながら、ロレンソのようなライダーもやってきますし、すでにペドロサもいます。
現在のこうした傾向が世代交代を物語っているのでしょう。すでに今の王者はストーナーですしね。
ロッシももちろん新しい時代の中にいますが、彼が今でも最高の状態を維持できているのか、何か鋭さを失いつつあるのか、その辺がまだ不透明です。まあ、いずれはっきりする事だと思います。
●エミリオ・アルツァモラの問5への回答
ロッシはそう簡単には負かす事のできない手強いライダーですから、まだ世代交代の時期とは思いません。バレンティーノ・ロッシは、何か問題を抱える事さえなければチャンピオンになる筈です。
ペドロサやストーナー、それに他の若い優秀なライダーの存在により、世代交代が近づいているのは事実ですが、そういう事態はより必然的な形で発生するものです。まだ今の段階では、ロッシの方が他の残りのライダーたちと比べて抜きん出ていると自分は考えています。
ストーナーは彼の望み通りのものを手にしていますから、保証付きで勝利が狙えるとは思いますが。
●シト・ポンスの問5への回答
MotoGPの世代交代は去年から始まったんだと思います。2006年と今年の状況を見れば、若い世代がその事を自ら証明しています。
2008年にさらに多くの若者たちがMotoGPクラスにステップアップすれば、この傾向はさらにはっきりしてくるでしょうし、それを証明する決定的なシーズンになるでしょうね。人生において、これは必然の事なんです。
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|