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2008年2月4日
INGルノーF1チームは1月31日、2008年シーズンに向けての同チームの新型車両であるR28をプレスに向けて正式に公開した。ここでは、ルノーF1チームのR28発表会場の模様や式典に参加したドライバーやチーム首脳陣のコメント、ならびに同時に発表されたドライバーラインナップやR28の特徴および主要諸元などを紹介する。
■バレンシアでのシェイクダウン後、セーヌ側沿いで正式披露となったR28
ルノーF1チームはすでに1月21日から4日間の日程で行われたバレンシア合同テストにおいて、R28のシェイクダウンを1年ぶりにチームに復帰した元F1チャンピオンであるフェルナンド・アロンソの運転により実施しており、新車のR28を一般公開するのは今回が初めてではない。
しかしながら、世界の各メディアに向けてルノーがR28を技術情報などと共に公式お披露目するのは今回の1月31日の式典が初めてであり、ルノーの2008年度F1車両の発表会場となったパリの南西に位置するブローニュ・ビヤンクーの街、セーヌ側沿いのルノー通信本部には、世界から多くのメディア関係者がつめかけている。
■ゴーン会長をはじめ、チーム首脳陣とドライバー勢がR28と共に登場
式典のステージには、INGルノーF1チームの2008年型車両であるR28を取り囲むように、チームの最高責任者を務めるバーナード・レイ氏、チーム代表のフラビオ・ブリアトーレ氏、テクニカル・ディレクターのボブ・ベル氏、エンジン担当責任者であるロブ・ホワイト氏などのルノーF1チーム首脳陣が並び、日本では日産自動車のCEOとしても有名なルノー社の会長兼CEOを務めるカルロス・ゴーン氏もその場に同席した。
チームやルノー社の首脳陣の他には、昨年の移籍先となったマクラーレンでの活動を1年で終えてルノーF1チームに復帰したフェルナンド・アロンソ、その新チームメイトとして2008年にF1デビューを果たす事になったネルソン・ピケJrの正ドライバーの2名もステージに登場。2名は今シーズンを戦うにあたっての抱負と、前回のバレンシア合同テストで初めて乗ったR28への感想などを述べている。
■アロンソとピケJrの他に第3ドライバーとテストドライバーなども初顔見せ
また、チームは今回アロンソとピケJr以外のドライバーラインナップを発表しており、第3ドライバーには2007年のGP2シリーズにおいて今期トヨタでF1デビューを飾るティモ・グロックに次ぐランキング2位を獲得した23歳のブラジル人ドライバーであるルーカス・ディ・グラッシ、テスト・ドライバーには元ユーロF3チャンピオンであり今年はGP2シリーズンに初参戦、先日のGP2オープニング・ラウンドとなったアジア選手権ではダブル・ビクトリーを飾ったばかりの21歳のフランス人、ロメイン・グロスジャンを起用する事を正式に伝えた。
さらには、これら正ドライバーを含む4名のチーム・ドライバー紹介に加えて、ルノーF1チームはさらにもう1名、ルノー社が2002年から開始している若手ドライバー育成を目的とした「ルノー・ドライバー開発プログラム」に、元ルノー・ワールド・シリーズのドライバーであり、今年からGP2に参戦するベン・ハンレイを新たに加える事もこの場で発表している。
こうしてステージにはこの5名のドライバー全員がR28の横に立ち並ぶ事となった。
■正ドライバー2名と共に本格的な開発作業を行うのはディ・グラッシ
なお、今回テスト・ドライバーとして発表されたロメイン・グロスジャンもルノードライバー開発プログラムに現在所属しており、すなわち、実質的にアロンソとピケJrと共に実戦に向けてのマシン開発を行うのは第3ドライバーのディ・グラッシであり、ルノー・ドライバー開発プログラムに所属するグロスジャンとハンレイの2名はF1マシンに慣れる事を中心としたメニューを2008年度中はこなす事となる。
ちなみに第3ドライバーのディ・グラッシと、昨年度の正ドライバーであり現マクラーレンのヘイキ・コバライネンも、このルノー・ドライバー開発プログラムの出身者だ。
■首脳陣のコメントとR28の技術面での特徴など
ここでは、チームの責任者2名が式典で語った挨拶の内容や2008年度目標、技術首脳陣2名が解説したR28の技術面での特徴、ならびに正ドライバー2名の新シーズンに向けてのコメントなどを紹介し、最後に今回INGルノーF1チームが公開したR28の主要諸元情報を掲載する。
■バーナード・レイ氏「目標はトップに返り咲く事とブランド力の強化」
今回の式典の中で、チームの最高責任者であるバーナード・レイ氏は新車のR28を前に、INGルノーF1チームが2008年のF1シーズンに向けて定めた新しい目標を発表し、その中でF1グランプリへの参加がルノー社にとってもそのブランド力を世界的に強化する上で柱となる重要なマーケティング戦略である事を強調し、以下の通りコメントしている。
「わたしたちは、チームが本来の地位を取り戻し、再び上位を争う事になると考えていますが、それこそが新しい車に対して定める目標です」とレイ氏。
「技術面では、全員が昨年の問題を解決できるよう必死に頑張ってきました。またドライバーの面では、フェルナド・アロンソのチームへの復帰が大きな起爆剤となり、現在ルノーのチーム内の雰囲気は非常に未来に向けて明るいものとなっています」
「フォーミュラワンは、わたしたちが過去に関与していないような市場へのブランド力の強化を図る上で大変に強力な武器になります。西ヨーロッパ諸国以外の国々でのルノーの2007年における販売成長率は16.5%にまで達しています」
「トップチームとしての高い地位は、ルノーが生産する自動車全体においても、性能面と信頼性、ならびに優れた先端技術アピールする事になるのです。様々な観点から見てもフォーミュラワンへの投資は非常に有益であり、重要な意味を持ちます」
■ゴーン氏はF1技術を投入した市販車「ルノースポール」のニューモデルを紹介
なお今回の会場には、レイ氏が述べるF1を通じてのマーケティング戦略強化の言葉を実践するかのように、ルノー社が誇るモータースポーツ部門が開発および生産を行う市販車「ルノースポール(RENAULT SPORT)」のニュー・モデル、近々発売が予定されている1.6リッター仕様車の「トゥインゴ(Twingo)ルノースポール」も登場しており、カルロス・ゴーン会長による直々の紹介がルノーの正ドライバー2名を隣に行われている。
これまでのルノースポールは、ルノー社がF1をはじめとするモータースポーツへの参戦を通じて開発した技術をそのまま反映した市販車であり、ツインスクロール・ターボの2リッターエンジン、6速マニュアルギアボックス、ダブル・アクスル機構のフロント・サスペンション、ブレンボ製の高性能ブレーキなどを装備した224馬力を誇る公道スポーツモデルだが、今回発表の1.6リッターモデルは133馬力と扱いやすく、外観もより親しみやすいコンパクトなデザインとなっており、日常の中で気軽にスポーツ走行を楽しみたい幅広いユーザー層をターゲットにしたものだという。
なお、今回の場ではトゥインゴルノースポールに関する細かな仕様や諸元などの情報をルノーは発表しておらず、それらの正式公開は3月のジュネーブ・モーターショーになるようだ。
■最新鋭の研究開発施設を強化するルノー社と同F1チーム
昨シーズンのF1での厳しい状況を受け、ルノー社はF1チームに対して大規模な投資を開始すると共に、空力研究施設などをコンピューターにより統合化したCFDセンター(流体力学統合研究所)の建設に2007年中頃から着手しており、この最新鋭の施設は2008年シーズン中期にはエンストーンの街にオープンする予定となっている。
CFDセンターには最先端の自動車開発施設が整う事から、INGルノーF1チームの代表を務めるフラビオ・ブリアトーレ氏は、これによりルノーの自動車開発技術がさらに進化を遂げ、F1チームが戦闘力を維持する上での大きな後ろ盾となる事への期待を寄せている様子だ。
■フラビオ・ブリアトーレ代表「2008年シーズンは有望」
ブリアトーレ代表は、CFDセンターとR28の設計思想、ならびにフェルナンド・アロンソのリーダーシップがあれば、チームの未来は明るいとコメントする。
「残念な結果を克服する強さがわたしたちの根底にはあります」とブリアトーレ代表。
「ルノー社はエンストーンで将来への投資を行っています。特に建設中の新しいCFDセンターは、わたしたちが進化を遂げる上での大きな後ろ盾となる筈です」
「今回の新しい車はチームの方向性を変えるものであり、その開発思想は非常に前向きなものです。これにフェルナンドが持つサーキットでのチーム統率力が加われば、非常に力強い組み合わせが完成する事でしょう」
「2007年は、シーズン中の半年間も開発が進まなかった性能の低い車で年間ランキングの3位につけた事を忘れないでください。2008年はいい車があり、ドライバーには世界チャンピオンを迎えているのですから、有望に思えない筈がありません」
■技術首脳陣2名の説明によるR28の特徴
続いて、技術首脳陣2名の説明によるR28の技術的特徴を紹介する。
R28は先日のバレンシア合同テストでの4日間の内に1500kmをアロンソとピケJrの運転によりすでに走行しており、このテストの中で大きなメカニカルトラブルは一切発生しておらず、開発初期の現段階でも非常に高い信頼性を示しているという。
■車両全体をブリヂストンタイヤに合わせて最適化
昨年のR27はミシュランからブリヂストンに履き替えた初年度という事もあり、タイヤの特性の違いへの対応が遅れて苦しいシーズンを送る事になったが、今回のR28は設計思想を変更してブリヂストンタイヤに合わせた最適化が施されているとチームは説明している。
■フロントまわりを大幅に改善、サスペンション・マウントはゼロ・キール
その中で特にチームが改善に力を注いだのはマシンの重量配分と空力特性であり、これらの課題を実現するために、フロント・サスペンションのマウント部はゼロ・キール(キール部なし)となった。また、モノコックとボディー形状もメカニカル部の効率を重視して設計を見直しており、当然その内側には2008年度レギュレーションに沿ったスタンダードECUと4戦連続耐久ギアボックスが搭載されている。
また、どのサーキットにおいても正しいセッティングが簡単に得られるように、マシン全体のさらなる軽量化と剛性強化の両立に努めたようだ。
■テクニカル・ディレクターのベル氏「フロント周辺を大きく変更」
INGルノーF1チームのテクニカル・ディレクターを務めるボブ・ベル氏は、R28の開発にあたり最も力を注いだのは空力特性の改善であり、特にフロントまわりに大きな改善を施したと以下の通りコメントしている。
「2007年のわたしたちの順位は散々なものでした」とベル氏。
「2008年に向けてはチームの内外からすでに高い期待が寄せられていますが、これはわたしたちがドライバーに戦える車を提供できるかどうかにかかっています」
「2007年に抱えた問題を解消できるよう、わたしたちは車の設計を見直し、新たな気持ちで課題に取り組みました。チームは全ての分野に渡って必死に頑張りましたが、特に空力特性の部分に力を注いでいます」
「その最たる部分がフロントまわりですが、この部分には全く新しいフロント・ウイングとフロント・サスペンションを採用しています。また、リア周辺にも大きな改良を施しましたが、基本から大きく外れるような事はしていません」
「1回目のテストからこの車は信頼性を発揮しています。先週の開発作業では今後に期待の持てる性能改善を進める事ができましたし、空洞トンネルで検証してきた性能を実際のサーキットでも発揮するのは間違いないでしょう」
■エンジン責任者のロブ・ホワイト氏「SECU対応には膨大な最適化作業が必要」
2007年度以降のF1レギュレーションにより現在エンジンの新規開発は凍結されており、今年のR28が搭載するエンジンも昨年度と基本的には変わらないRS27だ。
しかしながら、今年の2008年シーズンからはトラクション・コントロールなどのドライバー支援機能を廃止したスタンダードECU(電子制御ユニット)の搭載が各チームに義務付けられており、それに合わせて現行のエンジンを最適化するのは並大抵の労力では済まなかった事を、INGルノーF1チームのエンジン担当責任者を務めるロブ・ホワイト氏は説明している。
「SECUへの移行には大変に大きな負荷がかかりましたし、その作業は今でも続いています」とホワイト氏。
「この部分が今シーズンに向けての最も大きな変更個所と言えますし、さらには、これに対応していく上で必要となる多くの支援ソフトウェアやプログラム群なども存在するのです。わたしたちはそれらの全てに順応しなければいけませんでしたし、同時に最大限にその性能を引き出すための学習を続けてきました」
「エンジン本体を新たに開発する事は現在認められていませんが、車に搭載した際の信頼性向上については、まだやるべき事がたくさんあります。V型8気筒エンジンは扱いが難しく非常に繊細なものですから、構成部品の供給や品質、ならびに車からの指示伝達方法が変わる場合の対応などには、細心の注意が必要になるのです」
「わたしたは再び上位に復帰する決意と共に、この何ヶ月間は休む暇なく目標達成に向けて取り組んできました」
■正ドライバー2名のコメント
以下に、今回の式典で正ドライバーの2名がそれぞれに述べた2008年シーズンに向けての抱負などを紹介する。
■アロンソ「チームの努力が自分の励み」
年間ランキング3位に終わったマクラーレンでの2007年の活動を経て、再び過去に6年間所属する中で2年連続の世界制覇を成し遂げた古巣のルノーF1チームに戻った26歳のスペイン人ドライバー、フェルナンド・アロンソは、ルノー復帰初日となった1月15日のヘレス合同テストではR27に乗ってその日のトップタイムを記録している。
続くバレンシア合同テスト初日の1月21日にはR28のステアリングを握り、好感触を持ってその日のシェイクダウンと翌2日間の初期セッティング作業を終えたアロンソは、チームの頑張りが何よりの励みになっていると以下の通りコメントした。
「チームの全体からトップに復帰しようとする強い意志を感じますね。全員が必死に頑張っているので、この事が自分の意欲をさらに高めてくれます」とアロンソ。
「何よりも自分がレーサーである以上勝ちたいので、それを実現できるよう全力で取り組みますよ。自分に期待されている事はまさにそれですしね」
「自分が2007年のビジネスをやり遂げていないという人もいるみたいですが、自分ではそうは考えていませんよ。今シーズンに向けての準備もいつもと同じように、やるべき事に意識を集中して進めるだけです」
「車の第一印象はとても良かったです。チームもすごく真剣に作業を進めてくれていますから、今の自分にはとても励みになる状況ですね」
■ピケJr「フォーミュラワンは甘くない」
2006年はGP2シリーズにおいて現マクラーレンのルイス・ハミルトンに次ぐ年間ランキング2位を獲得、その翌年の2007年シーズンはルノーF1チームのテスト・ドライバーとしてF1マシンでの経験を1年間積み、晴れて今年からはアロンソのチームメイトとしてINGルノーF1チームから晴れてF1デビューを飾る事になった22歳のブラジル人ドライバー、ネルソン・ピケJrは、開幕までにまだやる事は多く、決してF1の厳しさを過小評価する事などないとして、以下の通りコメントした。
「メルボルンまでの道のりは、まだ自分にとっては遥か遠くに感じますね。それまでにやるべき事が山ほどありますし、今は次のテストでの開発作業に気持ちを集中しています」とピケJr。
「今後の作業は自分の体調を整えるのにも役立つでしょう。ドライビングは常に最高のトレーニングでもありますからね。そこで学習を続けながら、初のグランプリに向けての準備を万全にしておきたいと思います」
「今年の目標はパッケージの性能を最大限に引き出し、チームのために活躍する事です。まだ学習する事だらけですね。フォーミュラワンへの挑戦が甘いものだとは決して考えたりはしていません」
■ルノーR28の主要諸元
最後に、1月31日にINGルノーF1チームが公表したR28の主要諸元を掲載する。
●シャシー
・モノコック構造:成形カーボンファイバーおよびアルミニウ製ハニカム構造/最軽量での最大強度実現と剛性強化設計/ルノーF1チーム製
・エンジン搭載枠:RS27 V8エンジンを前提
・フロントサスペンション:カーボンファイバー製トップ・アンド・ボトム・ウィッシュボーンによるプッシュロッド経由の内蔵ロッカー作動システム/モノコック上部に搭載されたトーションバーとダンパーに接続/フロントまわりの空力特性最適化のためゼロキール設計を採用
・リアサスペンション:カーボンファイバー製トップ・アンド・ボトム・ウィッシュボーンによる縦置きトーションバーとギアボックス上部の横置きダンパー作動方式
・トランスミッション:7速+リバース/セミオートマチック/チタン製ギアボックス/ギアシフト最速化の為クイックシフトをシステムに内蔵
・燃料システム:ATL製ケブラー強化ラバー燃料タンク
・冷却システム:独立型のオイル用と水用の空冷式ラジエーターをサイドポット内に設置
・電子制御システム:MES-Microsoft製スタンダードECU(電子制御ユニット)
・ブレーキングシステム:Hitco製カーボン成型ディスクおよびパッド/AP Racing製キャリパー
・コックピット:自動形成カーボン素材による取り外し型6点式ドライバーシート/ハーネスシートベルト/統合型ギアチェンジおよびクラッチパドル搭載ステアリングホイール
・全長:4800mm
・最大高:950mm
・最大幅:1800mm
・車軸長:フロント1450mm、リア1400mm
・シャシー重量:605kg(ドライバーとカメラおよびバラストを含む)
●エンジン
・型式名:RS27
・形式:V型90°8気筒エンジン
・重量:95kg
・最大回転数:19,000rpm
・スパークプラグ:Champion製
・電子制御:MES-SECU
・2008年度の供給先:ルノーF1チーム、レッドブルレーシング
●油脂類と電源
・ガソリン:ELF製
・オイル:ELF製
・バッテリー:ルノーF1チーム製
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