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2008年2月12日
リズラ・スズキMotoGPチームは2月11日、2008年のMotoGPシーズンに投入する新型GSV-R800(XRG1)の技術諸元を明らかにしている。ここでは、スズキの初代800ccグランプリマシンとなった昨年度のGSV-R800(XRG0)の特徴を簡単に振り返りながら、さらに洗練されて改良が進んだという今年のGSV-Rの特徴、ならびに主要諸元などを紹介する。
■独自の800ccマシン開発アプローチを取ってきたスズキ
昨シーズンの2007年は、ほとんどのファクトリー・チームが史上初の4ストローク800ccグランプリに向けて全てを新しく設計し直したニューマシンを投入してきたが、スズキ・ファクトリーのアプローチだけは若干異なっていた。昨年の2007年型GSV-RであるXRG0は、シャシーの基本レイアウトからホイールベースに至るまで、2006年の990ccマシンであるXRE4と全く同じだった。もちろん排気量の800cc化に伴い、ボアの縮小と併せてストローク長とシリンダーピッチの最適化がなされたエンジンだけは、よりコンパクトに生まれ変わっている(写真下は2005年モデルのXRE3)。
スズキは990ccマシンを無理矢理改造して800cc元年を迎えた訳ではない。方向性はその逆であり、彼らは990ccマシンの最後の年に、本来800ccエンジンを搭載するべきニューマシンを1年早く投入していたと見るべきだろう。
■990cc最後の年に800ccマシン前身モデルを投入
990ccグランプリの最後の年となった2006年、他のチームが翌年からの800cc化を見越して990ccマシンへの開発投資を控える中、スズキだけは2005年モデルと比べて見るからに異なるよりコンパクトな990ccマシンのGSV-R(コードネーム:XRE4)を投入している(写真下はXRE4)。
2006年マシンのXRE4は早くからニューマチック・バルブを採用し、自社製ドライブ・バイ・ワイヤ・システムの開発と熟成をこの時期に進めるなど、高回転エンジンと電子制御システム、ならびに高いコーナリング性能を実現するコンパクトなシャシーといった800cc時代に必要なマシンの特徴を全て兼ね備えており、このマシンが2007年に登場するスズキの800ccマシンのベースになる事は誰の目にも明らかだった。
■新技術と信頼性確保に向けてのチャレンジだった苦難の2006年
いわば2006年のXRE4は昨年の2007年マシンであるXRG0のプロトタイプであり、スズキはこの2006年シーズンを800cc元年に向けての長いプレシーズンであるかのように使用している。当然と言ってはなんだが、新しいチャレンジを多く採り入れたXRE4はレース中の信頼性に問題を抱える事が多く、成長過程のブリヂストンの耐久性の問題も相まってレース中盤から後退、または突如エンジンが停止してジョン・ホプキンスのライダーキックを誘発するなど、2006年がスズキやライダーたちにとっては厳しいシーズンだった事は言うまでもない。
■800cc元年に開花したGSV-R800、2007年の成功の鍵は高い信頼性
しかしながら、昨年の結果を見ても分かる通り、厳しい2006年シーズンを経て完成した初代800ccマシンのXRG0は見違えるような成長を遂げていた。プレシーズン中には2名のライダーが揃ってトップタイムを連発、2007年シーズン開幕以後の活躍も目覚ましく、シーズン中はクリス・バーミューレンの優勝とジョン・ホプキンスの2位表彰台を含む合計8つの表彰台を確保するに至り、年間ランキングはホプキンスが4位、バーミューレンが6位を獲得している(写真下はXRG0)。
スズキが取った一年早く800cc時代の技術を先取りするという戦略は、マシンの信頼性を高める上で大成功だったと言える。リズラ・スズキMotoGPチームが2007年の成功の鍵はマシンの耐久性の高さだったとコメントしている通り、グランプリでの成功の鍵は、全てのレースでいかに安定した高い成績を確保するかにかかっており、2006年シーズン中の試行錯誤は明らかに功を奏した。
■XRE4で培った技術はより洗練されてXRG0に反映
昨年度モデルであるXRG0のエンジンは、990ccマシンのXRE4仕様からさらに改良が進み、より洗練されたニューマチック・バルブ・システムを搭載していた。超高回転域での制御をよりスムーズにするために、バルブ動作の安定性を強化、バルブの開閉高さも広げ、高回転で高出力、かつスムーズで制御しやすいエンジン特性を実現していたという。また、シャシーはXRE4のものと基本的に大きな違いはなかったが、空力特性とハンドリング性能の向上を狙ったいくつかの改良が加えられていた。
■2008年の今年、さらに高い目標を掲げて開発された新型GSV-R(XRG1)
さて、ここで今回発表された2008年型GSV-R、コードネームXRG1だが、これは言うまでもなく昨年度に高い成績を収めたXRG0の発展形だ。スズキの発表内容によれば、XRG1には昨年までのレースデータならびにレギュラー・ライダーやテストライダーたちからの情報提供を、経験あるエンジニアの開発技術と共に直接的にその形に反映してきたという(写真下はXRG1)。
高い成績を残した2007年シーズンを経て、より高い目標を掲げる2008年シーズンに向けてのマシン開発にあたり、空力特性やシャシー性能、ならびに電子制御システムといった重要項目にさらなる改良をスズキが施してきたのは当然の事だが、その中でも、今回彼らが最も力を注ぎ、明確な目標として掲げてきたのが加速性能の向上だという。
■最大の目標は加速性能の向上
目標とする加速性能の実現にあたり、スズキは昨年のXRG0用エンジンの優れた耐久性や出力効率を損なう事なく、基本的なデザインはそのままに、細分に渡るあらゆるチューニングを施して今回のXRG1用エンジンを完成、その目標を達成したとしている。
また、この過程においてスズキは燃費性能の向上も達成しており、大幅な改良が進んだ三菱製のECU(電子制御ユニット)パッケージがこれと組み合わさる事で、より高い出力性能と扱いやすさの向上も見込める様子だ。
■テスト中のバーミューレンが感銘を受けたハンドリング性能
改善されたのはエンジン性能だけではない。シャシーの基本的な構造設計は昨年のXRG0を踏襲しているが、やはり広範囲に渡る細部までのチューニングが施された事でコーナリングと方向転換における性能はさらに進化を遂げ、以前からGSV-Rの強みだったハンドリング性能はさらに強化されたという。これについては、昨年度モデルを良く知るクリス・バーミューレンが、このプレシーズン中に乗った開発中のマシンのハンドリング性能に感銘を受けている事からも疑う余地はない。
また、前回のフィリップ・アイランドの合同テストでも登場した新開発のフェアリングは、空気抵抗をさらに軽減し、強化されたハンドリング性能をさらに際立たせている仕様となっているようだ。
■今年は複数回の勝利を狙うリズラ・スズキ
スズキは今回の発表の結びとして、昨シーズンを制した成長著しいブリヂストン・タイヤと、この2008年型GSV-Rが組み合わさる事により、今年の2008年シーズン中の18のサーキットにおいてリズラ・スズキMotoGPチームが表彰台の常連となり、その中でクリス・バーミューレンとロリス・カピロッシが複数の勝利を手にするだろうと、その自信の程を示している。
■バーミューレン「かっこ良くて速い」
今回の2008年型GSV-Rの発表にあたり、スズキでのグランプリ参戦3年目となるクリス・バーミューレンは、現在までのプレシーズン期間を通しての新型バイクへの好印象を以下の通りコメントしている。
「新しいバイクは見た目もかっこいいし、すでに去年のGSV-Rより多くの点で乗りやすくなってます。前より速く走れる感じですし、コーナー脱出時の出力も上がっています」とバーミューレン。
「ハンドリングがさらに良くなったはかなりのプラスですよ。だって前のマシンの時からすでにハンドリングはとても良かったですからね!」
「スズキは本当に頑張ってこのバイクを仕上げてくれたと思います。自分たちの希望をよく聞いて、ここまでに提供してきた色々な情報についての解決策を、全て導きだそうとしてくれました」
「まだ何もかもが仕上がったという訳ではありませんが、シーズン開幕の時には理想にかなり近いところまで辿りつけているでしょうね!」
■カピロッシ「新しいおもちゃを手にした気分」
今年からリズラ・スズキMotoGPチームに移籍し、2008年シーズンは新型GSV-Rでスズキ・デビューを飾る事になるロリス・カピロッシは、ここまでに参加した合同テストを通してスズキ全体の意気込みが伝わってきていると語る。
「まだスズキに来てそれほど時間はたっていませんが、彼らの真剣さは自分にも良く伝わっていますし、新しいシーズンに向けて最高のバイクを仕上げようと全力を注いでいるのが良くわかります」
「なんだか新しいおもちゃをもらったような気分ですね!」
「スズキは自分たちの希望を正確に聞き取ってくれています。テストが終わる度に変更して欲しい個所を伝えるんですが、次にマシンに乗った時にはその全てが良くなっているんです」
「デザインが新しくなり見た目もすごくいいですね。色もすごく気に入っているので、これに乗ってレースするのが今から楽しみですよ!」
■大西レース・グループ・リーダー「明快な目標、加速性能アップ」
スズキのレース・グループ・リーダーを務める大西文弘氏は、ここまでの新型GSV-R開発の経緯を以下の通り説明している。
「わたしたちは明快な目標を持って今年のバイクの開発に取り組んでいます。その主たる目標は加速力の向上でしたが、これをエンジンとシャシー、および電子制御のそれぞれに様々な改良を施す事で実現してきました」と大西氏。
「2007年シーズン中のGSV-Rが力を発揮した要因の大きな1つとしてその耐久性能が上げられますが、今回わたしたちはそれを損なう事なく、昨年のバイクの全ての構成要素を洗練ならびに改善できるよう努力を続けています」
「また、燃費性能が向上した事により、より高いエンジン出力と乗りやすさの改善につながっていますので、2008年のMotoGPシーズン中はこれらの進歩が組み合わさる事で良いレース結果が生まれる事になる筈です」
「他にも今年のGSV-Rには多くの変更を加えていますが、それらとバイクの基本パッケージならびにブリヂストンの素晴らしいタイヤが合体すれば、今シーズンの挑戦に向けて最高のマシンに仕上がると信じています」
■GSV-R(XRG1)主要諸元
最後に、2月11日にスズキが発表した2008年型GSV-R(コードネーム:XRG1)の主要諸元を以下に掲載する。
●エンジン
・型式:水冷4ストローク V型4気筒
・排気量:800cc
・最高出力:225ps以上/18,000rpm
・バルブ制御、および形式:ニューマチック(空圧制御)、DOHC 4バルブ
・燃料供給方式:フューエル・インジェクション
・潤滑方式:ウェットサンプ(MOTUL潤滑オイル)
・クラッチ:乾式多板(バックトルク軽減タイプ)
・トランスミッション:6速、常時噛合式、低摩擦方式
・最終駆動伝達:チェーン
●シャシー
・フレーム:アルミ合金製ツインスパー(2重支柱)フレーム
・フロントサスペンション倒立式テレスコピック(オーリンズ製)、
・リアサスペンション:リンクタイプ(オーリンズ製)
・フロントブレーキ:ダブルカーボンディスク(ブレンボ製)
・リアブレーキ:シングルスチールディスク(ブレンボ製)
●タイヤ
・供給元:ブリヂストン
・ホイール寸法:フロントとリア共に429mm(16.5インチ)
●車両寸法/重量
・全長:2080mm
・全幅:660mm
・全高:1150mm
・ホイールベース:1450mm
・重量:148kg以上(搭載エンジン含む)
●燃料タンク/最高速度
・燃料タンク容量:21リットル
・推定最高速度:330km/h以上
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